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朱雀の場合

「rose?」


 roseってボスの奥さんの殺し屋のこと?


 ボスの奥さんも殺し屋で2人とも依頼先で一目惚れして夫婦になったらしい。


 ボスも奥さんもいつの間にか殺し屋のトップになっちゃってたみたいな話も聞いたことあるけど。


「そこのメデューサが凄いらしいよ」


 そう誉が言う。


「いたの?この前の所に」


 誉はこの前まで海外のあるマフィアの幹部を殺しに行っていた。でも、あそこは色々な殺し屋が狙ってたからある意味合同で仕事していたようなものだ。


 roseのメデューサねぇ。


 噂では少しだけ聞いたことはあるけど。なんでも私より残酷な殺し方をするとか。と言うよりただ殺すだけみたいなね。


「姿は見たの?」


「緑の髪でサングラスしてたな」


 なんだか蛇みたいな女ね。


「鬼のような女に言われてもな」


 頭に軽く衝撃が走る。


「殺?」


 殺に回蹴りをする。


「何?仕事かしら?」


「いたた…」


 殺が腰を擦りながら言う。


「誰殺すの?」


「ヤクザの若頭」


 そう言い私に書類を渡す。


 桜和組。ここ最近、殺し屋業界でも危険視されている。そうなるとこれは…


「朱雀の依頼?」


 殺し屋が殺し屋を雇うなんて話珍しくない。ただ、今回は、担当で振り分けてあるみたいだ。


 誉の時は、大多数で殺しにかかっていたが私は、個人で殺しにかからなければならないみたいだ。


「メデューサがいるのね」


 会えたら良いけど、会えるかしらね?


 蛇みたいな女。会ってみたいものだけれど。



「愛ちゃーん、指名入りました!」


「はーい」


 まさかキャバクラに送られるとは思わなかったわよ。殺にドレスが必要だからってなんだか露出度の高いやつを渡されたな何て思ったけど。


「キャバクラだとはね…」


 まぁ、若頭の行き付けらしいけどね。


 まぁ、下っぱ殺すのと違ってガードが固いから嫌だけどね。ハニートラップなら杠達に頼んでちょうだいよ。


「初めまして、新入りの愛です♪」


 キャバクラの嫌なところはテンションを上げなければならないところ。いつもここまではテンション上げないからね。


「新入り?」


「はい♪」


 タバコを出したところでライターを構えた。


 意外とこれのタイミングが難しいんだよね。


「趣味は?」


「テディベア集めです!」


 大嘘。趣味は、無いわね。


「どの会社のが好きなの?」


「アメリカのリリーですかね♪」


 この手の質問は、ハニートラップを使わなくても世間話でよくしてたから一通りの趣味らしいものは知っている。


 だからってハマることはないけどね。


「今いくつ?」


「22です!」


 若頭は自分より少し下が好きなのは調査済み。


「水割り作りますね♪」


 私は、あんまりお酒を飲まない方なのだがバーテンダーとか色々やっていたせいでこういうのやるのが得意なんだよね。


 若頭の顔を見る。


「ウマイな…」


「わぁ♪ありがとうございます!」


 ここで、次の指名が入ってしまった。


 このキャラは疲れるな。いつもやらないようなものだしな。


「愛ちゃん、今晩は」


「今晩は、長竹さん♪」


 この人は普通に私のお客さんになってくれた人で…。ぶっちゃけた話めんどい。


 真理亜みたいな皆殺しは、出来ないし。須藤みたいなのもダメだろう。あぁ、あの子のは楽しかったわね。


 元気かしらね。もう、普通の子になってるから私なんかが会いに行ける訳でもない。


「愛ちゃん?」


「どうしたんですか?長竹さん♪」


 すると、アフターのお誘いが来た。


 ただのキャバ嬢のフリをしなければならないから。アフターもやらないと。


「もしもし、由季?」


 これは、業務報告。


 なんせ、殺し屋業界でも危険視されている組だからね。暗号で報告を入れないといけない。


「お姉ちゃん、後、2、3ヶ月お仕事だから」


 標的、安全、2、3ヶ月、殺す。綺麗にまとめると、標的に気付かれていない、あと2、3ヶ月で殺しにかかる。という意味。


「弟でもいるのか?」


 ふと、背後から声がかかる。


「貴方は…」


 この前、若頭と居た桜和組の幹部。こいつも殺す対象に入っている。


「山際さん!こんにちは♪」


 どうしてこいつがいるのやら。


「えぇ、年の離れた弟がいるんです」


 立ち話もなんだからと言われ近くの喫茶店に連れてかれた。


「あっ、あの!ここ…」


 滅茶苦茶高いお店じゃない。紅が男に貢いでもらわないと行けないくらいって言ってたわね。


「大丈夫、俺が出すから」


「そっ、そんな」


 良いからと言われ渋々席につく。


「なぁ、キャバ嬢よりも高い仕事やらないか?」


「高い、仕事?」


 何だか変な感じになってきたな。


「そんなに難しい訳でもない」


 何だかわかった気がする。でもまぁ、面白いことになってきたな。


 これは、もう一度報告しないとな。


「若頭の愛人になってほしい」


「愛人、ですか?」


 これは、もう一押し何かあるはずだ。


「ただの愛人ではない」


 若頭を殺すのね。幹部さんにとっても邪魔だから。


「いくらですか?」


「1千万用意しよう。」


 その言葉に頷いた。



 報告を入れる。


「今日は雨ね。風邪引かないように気を付けて」


 緊急事態、作戦変更、裏切りが有るみたいだ。


「都合の良い話ってあるんですね♪」


 約束の日、山際とここで待ち合わせをして居た。


「若頭は、愛ちゃんに惚れていてな」


「そうだったんですか?」


 まぁ、初対面にしてはよく話しかけるものだなとは思っていたが。まさか、そこまでだったとは。


「若頭さん?」


 お屋敷に行ったら若頭が私に1つのテディベアを渡した。


「リリーの幻シリーズ」


 そうだ、あまりにも値が張るから買えないって言ってたんだ。


「貰っても良いんですか?」


「もちろんだ」


 にっこりと笑ってお礼をいった。


「部屋にもたくさんあるから」


 部屋に入るといっぱいのテディベアのぬいぐるみがあった。そうだ、家が貧しくてそんなに買えてないって言ったんだ。


 まさか、ここまで用意してくれるなんて。


「ありがとうございます♪」


 しかし、テディベアが好きなんて言わなければよかったな。こう、乙女めいたものは私に何となく合わなくてな。


「皇さん?」


 コーヒーを持って若頭の部屋に入る。


「あぁ、愛」


「お疲れさまです♪」


 コーヒーをデスクの上に置く。


「まだ、終わらないんですか?」


「あぁ、ここ最近立て込んでてな」


 大変ですね。そう言って背中に回って肩もみをした。


「少しは楽になりましたか?」


「あぁ、ありがとう」


 若頭は一瞬笑うと仕事に戻った。


「しかし」


 あんな笑い方をするのか。何だか今まで笑ってなかったから新鮮だな。


「愛さん」


 背後から鋭い声がする。


「梓姐さん、どうも♪」


 若頭の正妻さん。でも山際の話によると正妻の組が桜和組の配下に入れてもらうための政略結婚らしい。


 あぁ、でもこの人は対象外なんだよね。


「キャバ嬢上がりがちゃんとしてるのかしらね」


「はい、大丈夫です♪」


 ちなみにこの人は、山際の作戦を知っている。


 あ、でもデキてる訳ではないんだってさ。これは、山際に聞いた話だけど。本当なのかしらね。


「姐さん、そろそろ会食のお時間です」


「わかったわ」


 しっかりやりなさい。梓姐さんはそう言うと世話係を連れて玄関の方に行った。


 あの世話係……。組の人間じゃないな。まぁ、そんな人間は結構いるけどね。


 殺も参加してるけど、殺は幹部の人間を殺すから表向きの会社の取引先のフリをしている。


 それにこの屋敷の料理番、掃除屋、会社の受付嬢とかもたぶん殺し屋だろう。みんな、いつ殺すのだろう。死んだら不味い人はそう簡単に殺せないが下っぱの方は意外と死んでいる。


 しかし、警察は動かないものなのね。


 まぁ、この前の同級生に会うのは嫌だけどね。


「愛ちゃん」


「どうしたんですか?」


 話の内容はただの世間話だった。あぁ、世間話とは違うのは、後、1ヶ月で殺せって所かな。


 私が手を下すのか。どうしようかな?


「愛さん、お願いがあります」


「えっと…」


 後、1週間で若頭を殺さなければならなくなった。


 このタイミングで姐さんの世話係から声かけられるのも変だなぁ。


「籠目と言います」


「籠目さんですね♪」


 しかし、何のようだろうか?


「山際さんにこの手紙を渡して貰えませんか?」


 白い便箋を差し出す。


「良いですよ♪」


 笑顔で手紙を受けとる。


「急ぎですか?」


「いいえ、ですが1週間以内にお願いします」


 まぁ、若頭を殺すしね。そうなるだろう。


「わかりました♪」


 この便箋、何も手を加えてない。これなら中身を見ることが可能だろう。


 姐さんの逃げ出す手だての依頼書ね。


 それだけか。


 もう一度封をした便箋を引き出しの中に閉まった。


「お帰りなさい♪」


 若頭を玄関まで迎えにいった。


「ただいま、これお土産」


 そう言って若頭は私にテディベアを抱き締めさせた。


「可愛い…ありがとうございます!」


 若頭はよく私にテディベアのお土産を買ってくる。そのため、部屋はテディベアで溢れかえっている。


 これ、どこに置こうか。


「ご飯にしますか?」


「いや、先に風呂にでも入ってくるよ」


 若頭は秘書に鞄を預けると風呂場の方に向かった。


「若は貴女が来てから変わりましたね」


「そう…ですか?」


 秘書はその言葉に頷いた。


「今は、とっても生き生きしている。」


「そうですか、それは良かったです♪」


 もう、殺させるけどね。


「皇さん?」


「あ、起こしてしまったか」


 ここ最近、若頭の部屋で寝ることが多い。


「眠れないんですか?」


「少しな」


 最近、他の組ともゴタゴタがあるそうだ。


「明日も早いんですよね?」


 モゾモゾと位置をずらす。


「ぎゅー♪」


 若頭の身体を抱き締める。それから優しく背中をとんとんと叩く。


「よく眠れますように」


 そう言ってから額にキスをした。


「ありがとう」


 そう言ってから少し経って規則正しい寝息が聞こえた。


 私も寝よう。明日は、山際に手紙を渡して定期連絡を入れて。あぁ、やることが次々と浮かんでくる。


 それにそろそろこの人を殺すのだから。


「おはようございます♪」


 若頭を見送ったあと山際に預かっていた手紙を渡した。


「籠目からか?」


「はい、今週中に渡してくれと言われました」


 山際は手紙をもう一度見るとライターで燃やしてしまった。


 内容が内容だから当たり前か。


「こっちも今週中に頼んだ」


「はい」


 リミットはあともう少しでやって来る。


「もちろん、手助けもする。」


 計画通りにやれ、そう言い山際は去っていった。


 私も人気のいない所に行く。そこで定期報告の電話をした。


「もしもし、お姉ちゃんは、相変わらずだよ。後、1週間でで誕生日だね。プレゼントは2、3日で届くかも」


 それじゃあと言って電話を切った。


 標的は相変わらず、後、1週間でリミットが来る。2、3日で殺しにかかる。


「愛さん」


「どうしましたか?梓姐さん♪」


 心なしか姉さんは少し嬉しそうだった。


 まぁ、この人は初めて会ったときから怖かったからな。若頭の妻ということで余計なものでも背負ったのだろう。


「山際には伝わりましたか?」


「勿論です♪」


 あと、2、3日で完成しますから。そう続けた。


「そう、なら頼むわよ」


「はい♪」


 あぁ、可哀想な人だな。姐さんは、私の母みたいな目をしている。


 あの人は…。いや、思い出すのは辞めておこう。今は、仕事のことを考えないと。


「愛、お酌をしてくれないか?」


「わかりました♪」


 お風呂上がり若頭は、縁側に出て晩酌の用意をしていた。


「どうぞ」


 しかしまぁ、縁側の晩酌でワインとは何か場違いな気がする。


「愛も飲むかい?」


「私、そんなに強くないんで…」


 それに、ワインは飲みにくくて好きじゃないのよね。


「月が綺麗だね」


「そうですね♪」


 明日辺りには完璧な満月になるのだろう。


「愛には弟がいるんだよね」


「はい、もう高校生ですけどね♪」


 山際が若頭に弟がいることを言ったのか。


「もう、出会って結構経つのに愛のこと全然知らないな」


「そうですか?」


 そんなことないと否定しておいた。現に人の好きな物を覚えていてお土産に買ってくるんだ。全然知らないわけが無いだろう。


 それからずっと他愛のない話をしていた。


「皇さん、もう寝ましょう♪」


 明日も仕事でしょう?と微笑んだ。


「そうだな」


 若頭を見送ったあと、姐さんが旅行の準備をしていた。


「これからですか?」


「ええ、籠目、行くわよ」


 姐さんは、最小限の付き人、それから山際を連れて何処かに行ってしまった。


 若頭とかには新しい拠点の下見も兼ねているとか言ってあるらしい。


 さて、私も準備するか。


 今日の時点で半分くらいの標的が死んでいるらしい。若頭を殺して他の幹部も殺さないと組長を殺す人が大変らしい。


「ただいま」


「お帰りなさい♪」


 今日は秘書を連れていたいみたいだ。


「お疲れさまです♪」


 若頭の背広をクローゼットに掛ける。そしてそこから銃を取り出す。


「今までね」


 瞬時に引き金を引いた。


「…即死ね」


 大急ぎで裏口に回ってタクシーを拾って屋敷から離れた。


 私の痕跡はきれいに消してきた。これで私の仕事も終わりだ。




──とある山奥──


「若が何者かに殺されました」


「愛さんは、上手くやったみたいね」


「そうか、少し話がある」


「外に行きましょうか?」


「いや、ここで良い」


「わかりました」


「2人とも早く済ませて頂戴ね、ここの掃除が完全に終わっている訳じゃないんだから」


「わかってますよ」


「あの、話とは?」


「あの女の始末だ」


「そうですか」


「そうしたら次の後継者は私になる」


「そうですね、組長も愛人の子だった貴方に指名が来るでしょう」


「あぁ」


「───い。」


「どうした?」


─パァンッ─


「どうでも良い」


「さっきの音…籠目!」


「騒がないでください、貴方は殺したくないんです」


「貴方はいったい何者よ?」


「何でもお好きなように」


「ちょっと、待ちなさい!」



「お疲れ様」


「……」


「連れないなぁ」


「あんたの笑顔が胡散臭いのよ」


 コクリ


「さっ、あんなのはほっといて美味しいものでも食べましょう、めーちゃん」


「大食い女が随分と偉そうだな」


「優男の本性が出たわよ」


「めんどくさい」


「あっ、めーちゃん」


「辞めとけ、メデューサにしては頑張ったんだからなにもする気がないんだろう」


「そうね」



───end───

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