新妻栄一の場合
「I仕事だ」
「OKボス」
今回殺しに行く奴は、ジャーナリストか。
私、嫌いなんだよね。ジャーナリストって。嘘ばっかり吐くじゃん。
「その前にボス」
依頼者に会わせていただけませんか?
いつもは、依頼者に会わせて何て言わないけど。今回の依頼者は会ってみたいのだ。
「あぁ、良いぞ」
まだ、下に居るしな。とボスが言った。
「失礼します」
担当のIです。そう言うと説明をしていた殺が怪訝な顔をした。
「はじめまして、東橋 夜李都さん」
東橋 夜李都。今、巷で有名な歌手である。
最近、年下のアイドルと…。
「そんなことしてません」
「I、言い過ぎ」
殺が怖い目をして睨んできた。
「そう、ジャーナリストでしょ?」
オプションで身の潔白でも証明してあげようか?
そうしたら後々楽でしょ?
「深雪さん」
「栄一さん、お仕事は終わりましたの?」
宮之原深雪という名前で標的の恋人をやっている。
初めから見てくれた人は知っていると思うけど私の変装は凄い。
どこぞのお嬢様も出来る。
「あぁ、今日は早く終わってね」
上機嫌に話す標的さん。
無類のお酒好きで場所は問わずに酒を取り寄せ る。
「お酒に合うおつまみを作ったの」
そう言い小鉢を持ってきた。
今から毒殺でもしようとするわけではない。
オプションがあるからね。
「栄一さん」
標的に抱き着いた。
「また、行ったの?」
寂しそうに依頼人の名前を言った。
「あぁ、だか心配しなくて大丈夫」
そろそろ芸能界から身を引くから。そう標的が言った。
今回のスキャンダルは真っ赤な嘘だった。ここまで聞くのは少し苦労したがライバルプロダクションの差し金らしい。
この事をうまい具合に自白させないとな。
「なぁ、深雪」
「どうしたの?栄一さん」
標的さんが私の事を真剣な眼差しで見つめている。
「俺と結婚してください」
「……」
予定通り。今回は、私に惚れてもらわないとうまくいかなくてね。
心の中で微笑んだ。
「深雪?」
ここで私は嬉し泣きの演技をする。
「わっ…私、その」
嬉しくて。そう言って微笑んでみせる。
「不束な者ですがよろしくお願いします」
そう言って頭を深々と下げた。
「栄一さん、気を付けて」
「あぁ、心配しないで」
軽くキスをすると標的さんは仕事へと行った。もう、この家にも帰ってこないと思うけどね。
貴女は、芸能界から足を洗う前に自白して死んでもらわないと困るもの。
「さて、行きますか」
取りあえず、私の荷物を全て集める。そして標的さんの携帯に別れようのメールを入れる。浮気とかの話もあったからその事も書いて。
これがあと1、2時間したら届くように設定する。
後、指紋とかも消しておかないと。
「バイバイ」
こことももうお別れだわ。
「新妻さんですね」
よろしくお願いします。と標的に微笑んだ。
テレビ局の会議室の一室。私は、朝別れた標的にまたあっている。
テレビ局のアナウンサーとしても潜入して標的を殺す機会を伺う。
「本当に良いんですか?」
芸能界の暴露なんてして。と標的さんに聞く。
「別に良いんだよ」
今日でいなくなるしね。と標的は笑った。
「すみません!スタジオ変更になりました!」
どうやらスタッフのミスで水浸しになっているらしい。そう仕向けたのも私なのだけれど。
わざと水を出している時に注意を反らしたからね。これも作戦通りの事なのよ。
「それでは!暴露しちゃってください!」
すると標的は意外とあっさりと話してくれた。でっち上げだったこと、会社の指示、十分な位話してくれた。
そろそろ殺しに掛からないと時間がないかな?
「そんなこと言っちゃって大丈夫なんですか?」
これで全ての自白が終わったかな?さて、殺して貰おうか。
「大丈夫です」
「そうですか、あっ!」
わざとらしく悲鳴を上げた。あれは、女優さんか。まぁ、浮気相手だったから。手を回してみたのだけど成功だったみたいね。
スタッフの制止を振り切ってこちらへと走ってくる。そのまま、標的の事をナイフで刺した。
「新妻さん!新妻さん!」
心配するフリをする。女優さんは、結婚の申し込みの次の日に会った。深雪としてだけど。
「きゃっ!」
ナイフから逃げようと距離をとる。
これでおしまい。スタッフは標的を人質に取られてるからへたに動けないしね。
後、10秒かしらね。
10、9、8、7、6、5、4…
ガッシャンと天井のライトが二人に目掛けて落下していった。これで、どちらも死んでいるかしらね。
周りが救助作業にはいった。
「プロデューサー、あの人たちは…」
標的の方は刺されたのとライトのせいで病院に着いたときは死んだらしい。
生放送の事故だからプロデューサーはあまり多くの事を言わなかった。
「しかし、」
女優の方は意識不明の重体か。後で殺しにいかないと。ほとぼりが冷めてからにしよう。あっちは後回しでも良いから。
「佐々木さん」
「はい」
どうやらこれから警察に言って事情聴取をしないといけないのか。さらっと終わらせるようにはするけど。
とっとと切り上げないと面倒だ。
「佐々木 柚月さんですね」
「はい」
学生時代の同級生。しかもこいつは…。
「どうしました?」
「いえ、貴方が隣の家の人に似てて」
そう言い苦笑いする。そして、私は、あの時あったことを全て話した。
「お疲れ、Ⅰ」
「わざわざありがと」
そう言い車に乗り込んだ。
「警察はうまく撒けた?」
ええ、完璧よ。置き手紙を書いて失踪したようにみせたから深雪も佐々木も追う人はいないでしょう。居たとしてもわからないけどね。
本当の私と演じてる私は全然違うからね。
「でも、ヤバかったね」
同級生の話をした。
「まぁ、大丈夫だろう」
「それもそうね」
あっちはわからないと思うし。
「さて、お仕事終了!」