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10年ぶりに見た空、あるいはちょっと実家に顔を出してくる

 ~「オレ」の視点~


「っはあー。青空の下の空気はおいしいー!」


 階段を上って外に出ると、どこまでも続く青空に感極まりおもわず叫んだ。

 もう本当、世界ってすばらしいね。久しぶりの娑婆に心がシャバドゥビとノリに乗ってきちゃうよ。

 そんな感じで、ちょうど正午を過ぎたくらいの空を眺めていたら、違和感が1つ。


「あれれー? 太陽が2つありますけどー? うれしさのあまり幻覚が見えてるのかね」

「幻覚じゃないですよ。ルスタさんは冬の空しか見たことがないのですよね? 今はプーラの月ですから、ブルント・ソルが北上してきてちょうど見え始める時期なんです」


 猫耳娘をおぶって後ろからついてきていたベアトが説明してくれた。

 そんなに太陽が動くのか。あれ? でも太陽高度って地軸の傾きと地球の公転がなんちゃらで……なんかおかしくね?

 いや、そんなこといったら魔法ってなんだよってなるし、この世界にはこの世界なりのルールがあるんだろうな。

 オレが前世で習得した魔法もいくつか使えなくなってるし、まずは図書館なり教師なりを探す所から始めるべきだろう。

 でも、その前に片付けとかなきゃいけないことがある。


「じゃあオレは自由を満喫してくるから。解放してくれてサンキューな」

「あ、ちょっと待ってください。はい、これ。金貨と汚いですけど俺のマントです。まだ寒いですしその恰好ではいろいろと困るでしょう」


 なんか知らねえけどそこそこの金と使い古してあるけど高そうなマントをもらってしまった。

 なんなのこいつ。反吐が出そうなくらい親切だな。

 しかし、オレが無一文なのも、ある種ハレンチな格好をしているのも事実なので、そんな施しは受けないぜ、ペッ、と唾を吐き捨てるようなことはしなかった。


「いやぁ~悪いっすね。こんなに良くしてもらっちゃって」

「いえいえ、クエストの報酬があるのでお願いを聞いてくれたこっちとしてはこれくらい当然ですよ。

 そうでなくても、俺は勇者見習いですので」

「あーあー、もう。そんなにかしこまらなくていいんだよ? オレなんてたいした人間じゃないんだから。

 次に会う時はちょっとした友人として助け合おうじゃあないか」

「はい、いや違うか。……ああ、わかった。また会えるといいな」


 オレ達は握手をした。シェイクハンドが親愛の情を表すのはどの世界でも共通だ。相手の手を束縛しあうことで敵意がないことを確かめる儀式である。

 ちなみにアズセナとかいう姉ちゃんには巧みに目線を逸らされた。おぬし、やるな。





 で、とりあえず故郷に帰ってきたわけだが。

 全力で走ってみたくなって、イヤッフーとか叫びながらコメンツァ村まで駆けてきた結果、所要時間は3分ぐらいだった。カップラーメンができる時間で里帰りって。1人暮らし始めたとかいって実家のすぐそばのアパートを借りてる被過保護娘みたいな。


 村はなんだかガヤガヤしていた。

 過疎村のくせに、1人1人がお祭りでもやってんのかってぐらいテンションが高いのですごく騒々しい。

 ちょちょいと愛らしさを作成して、近くのじじいに声をかけた。


「ねえねえ、そこのおじいさん。何かいいことでもあったの?」

「なんじゃい、お嬢ちゃん。どこの子じゃったっけ? ま、どうでもいいか。

 それがのー。あの丘の魔族がついに倒されたみたいでの。お嬢ちゃんも感じとると思うが体が呪縛から解かれたみたいに軽くなって、ぎっくり腰も治って、10年ぐらい若返った気分なんじゃ。村のみんなそんななもんで歌って踊りたくもなるわなあ。ああ~ホイさっ、ホイさってぐおおお腰があああああ」


 ぎっくり腰が再発したじじいは放置しといて、大体の状況は掴めた。

 あのミニ勇者が、わざわざ封印していた怪物を逃がしたなんて誰も思ってはないようだった。


 オレは記憶を頼りにして村を歩き回った。年月が経っている割には村の道はほとんど変わっていない。

 麦畑のあぜ道を歩いていると、まわりから浮いている男を見つけた。

 金髪で頼りなさそうなその男はまわりがはしゃいでるなかで、1人だけ静かに座って俯いていた。

 オレはその隣に腰を下ろした。


「どうしたんだい、おじさん。俯いてたら大事なものを見失っちゃうぜ?」

「そうかもしれないね。でもね、大事なものが壊れてしまったなら、見失った方が幸せじゃないのかな?」

「それこそ無意味さ。あんたが知ろうが知るまいが世界は結果を受け入れているんだ。シュレディンガーはきっとそんなことを言いたかったんだよ」

「何を言ってるかさっぱりわかんないよ」


 男は苦笑して、ぽつりぽつりと語り始めた。


「僕には娘がいたんだ。でも生まれてすぐに離されてしまって、娘がどうしているのか知ることさえできなくて、それで今さっき死んだことを知ったんだ。……こう言ってみると悲劇にさえならない話だね」

「まあ、悲劇じゃないわな。だって死んでないもん」

「え?」


 そこでようやく金髪の男――ヴァゾン・フェングセンは頭を上げて話し相手の顔を見た。


「やあ、お父さん。久しぶりだね。あんたの娘だよ」

「……ミルヴ? ミルヴなのか!?」


 ヴァゾンはオレの顔をまじまじと眺めて、首をひねった。


「確かにあの子が大きくなったらこんな感じだとは思うけど……なんだかイメージと違うというか……」

「あー、オレはミルヴの守護霊みたいなもんだと思ってくれよ。説明すると長いしな。もうちょっと待てばミルヴも起きるだろうけど、知らないおっさんのことをお父さんと呼べるほどまだ大人じゃなくてね。

 だから、もう行くわ」

「行くってどこへ? 帰ってこれたのだから、これからは一緒に……」

「暮らせない。死んだはずの娘がいたらおかしいだろ? まあ、たまには帰ってくるさ。だから、長生きしろよ」


 それだけ言ってその場を去ることにした。

 慰めてやろうと思ってきたけど、あまり長居するとヴァゾンも離れるのがつらいだろう。このくらいが潮時だ。


 あぜ道を戻ろうとしたとき、見覚えのあるようなミルヴよりも幼いくらいの少年がこちらに走ってきた。

 あれ? 誰だ? 外部記憶にもないけど。


「パパー、みてみて! ぼく、なんだか足が速くなったの!」

「おお、フラト。そうか、そりゃあよかったなぁ」


 ああ、なんだ。あの子、ヴァゾンにそっくりじゃねえか。

 後ろから聞こえてくる声はいつか聞いた親ばかの声だった。

 なんだよ。大事なものちゃんとあるじゃん。余計なお世話だったな。

 それでも一応、これだけは言っておくとしよう。


「いってきます」


 オレは振りからずにぶらぶらと田舎道を歩いてその場を離れた。

 特に目的もなく村を散歩して、いくらか日が傾いてきたころ、ようやくそれは来た。

 ふわっと意識が揺らいで、五感が自分の物ではないような気がしてくる。

 ミルヴが戻ってきたのだ。オレは感覚を成るがままに委ねた。

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