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ある主人公が転生するまで、あるいは神様との対談、つまりプロローグ

「師匠ー。あなたの愛弟子のルスタ君が来ましたよー。どちらにいらっしゃるんですかー」


 オレは師匠の家に来ていた。何の師匠かというと魔術の師匠である。

 師匠は炎系統の魔術師として名を馳せた人物で、そんな大物に才能を認められ弱冠10歳にして弟子になったのがオレである。

 弟子になってみるとこの師匠がなかなかのボンクラオヤジで、魔術の才能だけが取り柄と言っても過言ではない。今日も、集めて来いと命令された材料を届けに来たところだ。


「なのに居ないし……」


 家の中を対象にした『伝言』の魔法にも返事がない。鍵がかかってなかったので、留守ではないと思うのだが。

 書斎、客間、寝室などを一通りのぞいたところで、魔術工房に居るかもしれないと思い当たった。地下深くに作られた工房には、魔法避けがされている。

 めんどくさいが長い階段を降りることにした。


 工房の扉を開けると、まだ昼間だというのに、師匠が酒を飲んでいた。


「ぅあー、やべー、飲みすぎたな。幻覚が見えるもん。しっかし、こんなときに出てくるのが弟子とかないわー。初恋のあの娘がよかったなぁー」

「なにバカなこと言ってるんですか。オレは本物ですよ」


 酔ってぐてんぐてんになっている師匠の肩をつかんで揺すってみた。しかし、師匠は危ないクスリでもやってるような笑顔のままである。


「もう俺、死んじゃうんだからさぁ。最後に幻覚でもいいから会いたかったなぁ」

「何か辛いことがあったんですか? 愚痴くらい聞きますよ」


 泣き上戸に変わりつつある師匠が落ち着くまで相手をすることにした。考えてみれば、魔術研究にだけは真面目な師匠が工房で酒を飲むなんて相当なものである。


「それがだね。少ない魔力で火力を出す研究をしていたのだが」

「わぁ! さすが師匠ですね!」

「ちょっとサンプルの加減をミスってしまって」

「大丈夫! 研究に失敗はつきものですよ!」

「そのせいでもうすぐ街ごと爆発するんだよ」

「爆発ぐらいどうにだって……え? 爆発?」


 師匠は工房内にある窯を指差した。対抗呪文をひたすら書きなぐってあったり、障壁を発生させるための魔法陣を準備していたり、師匠の悪あがきが散見されている。


「もう魔力きれたし絶望だわ……」

「はああああああ!? おまえバカじゃないのか!? これあとどのくらいで爆発するんだ!?」

「えーっと、もうあと1分ぐらい? つーか弟子が師匠におまえって……」

「いやあああああああああああ!!」


 逃げるのはもう無理だ。爆発を止めるしかない。

 オレは1つの結界を作った。魔力を加えることで硬化する結界だ。小細工をする時間はもうなかった。

 窯がピカッと光ったと思ったら爆発した。

 爆発した残滓がさらに爆発する。それがまた爆発。そして爆発。爆発爆発。爆爆発発。

 あ、これ無理。

 ちゅどーん。

 オレは爆死した。



 気づけばオレは真っ白な部屋に立っていた。

 そこにはオレのほかにもう一人、後光が差している青年がいた。オレはこいつが何者か知っている。


「やあ、神です。また会ったね」


 神にしてはフランクな挨拶だった。

 そこでオレは()()死んだのだと察した。

 天才魔術師ルスタ君は転生者だった。


「いやあ、君はもっと長生きすると思ったんだけどな。しかし、これだから人生はおもしろい。そう思わないかい?」

「全然おもしろくねーよ、クソ神様」


 オレは悪態をついた。

 平成の日本で自動車に轢かれて死んで異世界に転生してから、目標もなく生きてきた前世を反省して、こつこつと大魔術師を目指してきたのに。こんなにあっけなく死んでしまうなんて。


「不慮の事故で死なないように上手く運命の操作とかしてくれたらいいのに」

「僕は創造神だから。一度作ったものをいじるのはやらないことにしてるんだ。そうしないと見ていてもわくわくしないだろ?」

 

 神様はきらめくアルカイックスマイルでそう言った。そんな神々しい感じで言われると、そんなものかと思ってしまう。

 それにしたって、爆発オチで打ち切りエンドとかひどすぎる。


「僕は好きだけどね、爆発オチ。でも残念なことには同感だよ。君にはもっとスペクタクルな物語の主人公をやって欲しかったんだ」

「前にも言ったけど、オレは主人公なんて向いてない」


 神曰く、興味深い魂を異世界に移して成り行きを楽しむのが趣味だそうだ。

 その興味深い魂の一つがオレらしいのだが、自分としてはごく普通の人間だったつもりである。


「いやいや、君はおもしろいよ。大きな闇を持っていて、なおかつ、それをおくびにも出さない強かさも持っている。肝心な所で運がないのもスパイスだね。今回のを反省して次はとびきりのチート能力をあげよう!」

「えっ、もう一度転生するの!?」

「もちろん。うーん、どうしよっかな」


 首をひねって神様は真剣にオレの来世を考えている。

 オレとしては、まだ合計40年も生きていないので生き返られるなら万々歳だが、そんな贔屓みたいのが許されるのか。


「よーしOK。次に君が生きる世界を決めたよ」


 ポンと縁起の良さそうな音を手で鳴らして、神様は能力の説明を始めた。


「まず一つ目は膨大な魔力だ。これは前世でも生まれつき多めにしておいたんだけどね。死亡理由の一つが魔力が足りないことだったし、前よりさらに多くなるようにしよう。

 2つ目に強靭な肉体だ。膂力が凄ければ簡単には死なないでしょう。とにかく丈夫であるように生まれれば、大往生できること間違いなしだね。不死は僕の信条に反するから渡せないけど、これくらい渡しておけば大丈夫でしょ。

 さらにおまけも付けちゃおう。感じたもの全てを完璧に記憶する能力だ。ただ、忘れたいことも人生には多いからね。いつでも記憶を出し入れできるハードディスクを与える感じになるかな。3回目の人生ともなると記憶の混濁もあるだろうしね。まあ、これはあくまでおまけだ。

 こんなのでどうかな?」


 はあ、と生返事になる。まとめるとステータスがカンストしてるって感じ?

 でも、それってなんだかなぁ。


「文句があるわけじゃないけど……それってなんだか地味じゃない?」

「そうかなー。3年飲まず食わずの状態で、ロケットを片手で受け止められるレベルにするよ?」

「お、おう。それは凄いけど。けどチート能力ってさ、もっと個性的な感じの『こんなんじゃ、やっていけないよ~と見せかけて実は最強です』みたいなのがいいんじゃないの?」

「大丈夫だって! 君ならなんとかなる!」


 神様はグッと親指を立てて、無理矢理に話をまとめた。なんなの? 考えるのがめんどうなの?

 こんな神様でよく世界滅ばないなあ。そういえば街は爆発で滅んだのかな? あのバカ師匠は間違いなく死んだだろうけど。

 黙っていると神様は、オレが納得したものだとして(神様だから本当は違うとわかってるくせに)転生の準備をし始めた。

 手をかざすと荘厳な扉ができあがった。この扉に入るとその瞬間に転生する。心の準備をして、好きなタイミングで行けるようにという配慮だそうだ。


「ま、決まったものはしゃーない。行ってきますか」


 神様に手を振って見送られながら、オレは扉を開く。

 人生なんて死ぬまでの暇つぶし、だなんてよく言うけどそれは違うとオレは思う。

 生きること、それ自体に意味があるのだ。人生が目的なんだ。楽しくも辛くもない日々では生きられないから人は暇つぶしをするのだ。

 だからこそ、気負わず好きに生きればいい。オレは今度も適当な目標をつくって、無難に生きるのだろう。やっぱり、オレは主人公に向いてないと思う。


 そんなオレの新しい人生が、今始まる。

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