マイリトルクィーン、これからも仕えさせて頂きます
ルマガズン青のエリア本店の休憩室にて、カラが一人、椅子に座って眼を閉じていた。ドアの隙間から聞こえる喧騒に耳を傾けていた。店長がシュラを迎えに行ったので、休憩室にはカラしかいない。
休憩室のドアが開いた。カラが顔を向けると、シュラが立っていた。
「カラ!」
シュラが目じりに涙を溜めて、カラに抱きついた。カラは力強く受け止める。
「シュラさん、二回戦勝利、おめでとうございます。まさか、最後に相手を説得するとは思っていませんでした。びっくり仰天しましたよー」
「うん、だって説得がわたしの仕事でしょ」
シュラが笑顔をカラに向けて凍りつく。カラの顔は所々腫れており、目元には紫色の痣が見えた。顔色は土色で、唇は紫色になってる。
「店長さんを説得した時の事、覚えていたんですねー」
カラがシュラに笑いかけると、シュラの瞳から涙が零れた。止め処なく溢れる涙をぬぐわず、シュラは唇を噛む。
「こんなにぼろぼろになって。酷い目に合わされてたんだ」
「あ、殴り痕は全部、うち達がやったの」
入り口で様子を見ていた店長が、シュラに告白する。シュラが頭を抱えて、驚愕する。
「ええっ! 何で、何で、ありえないんですけど」
店長が人の悪い笑みをカラに向ける。カラの頬を汗が伝った。
「カラ君が、行きたくないです、行きたくないです、て駄々を捏ねて逃げ出したのよ。それはもう、凄い逃げっぷりでね。三時間近く探したよ」
ね、と店長はカラに同意を求める。
「カラ?」
シュラの目が細くなる。涙は消えていた
「そんなこともありましたねー。アハハハハハハーーーーーーーーー」
「それで見つけてみたら、休憩室でジュースを飲みながら、高みの見物をしてたんだから、それ位、当然じゃない。シュラちゃんもそう思うでしょ?」
シュラはカラから離れた。ゆっくり地面を踏みしめ、腰を落とし、拳を握る。
「私はそんな事してません。決してシュラさんの無茶振りを笑いながら、優雅にお菓子を食べたり、ジュースを飲んだりしていたわけではありません。本当ですよー」
シュラの堪忍袋の緒が切れた。
「死ね、この大馬鹿野郎」
底冷えのする声と共にシュラの拳がカラの腹部に突き刺さった。腹を押さえて倒れるカラにシュラが命令する。
「心配して損した、馬鹿っ」
シュラは頬を膨らませて、そっぽ向く。その足元でカラは、うーうー、と唸っていた。
「カラ、さっさとそこに座れ」
腹を押さえたカラが、弱々しい声で抗議する。
「お腹が痛くて、立てません。もうちょっと待ってくださいよー」
「いいからさっさと座りなさいよ。手加減したんだから、そんなに痛いわけないでしょ」
シュラが心外そうに言った。カラは詰まらなそうに舌打ちを打つと、軽快に立ち上がる。
「はいはい、これで良いですか?」
カラが椅子に座った。シュラを正面から相対している。
「うん」
シュラは覚悟を決めた目で、カラを観察する。カラは酷い様相だった。肌はかさつき、皮膚の下から骨が浮き出ている。末期の病人の様相である。
「わたし、謝らないから」
シュラは震える声で、突き放すように言った。体中を震わせて、目は潤み、少し鼻声気味だったが、毅然とした威厳があった。
「カラが誘拐されたのは、わたしの所為だけど、謝らないから」
カラは笑ったまま頷いた。そんな事は先刻承知だ、とその笑みが語っていた。
「前に、カラ、言ったよね。カラを殺す覚悟が必要だって」
「懐かしい話ですねー」
カラがどこか遠くを見つめる。
「わたしにその覚悟があるか、今も分からない。けど、もうわたし止めないよ。止められないよ。カラがどんなに酷い目にあっても、わたしは全力で運命祭と戦う。
沢山の派閥の人達と戦う。子供だって、頑張れば何とかなる事を見せてやるの。皆が諦めなければ、皆の運命祭になると思うから。
だから、止めない」
「それは痛くて、つらくて、苦しいです」
シュラの歩もうとしている道は、心が痛くて、生きる事が辛くて、想いが苦しくなる。カラはシュラと同じ道を歩いた者達を知っている。
「それでもやりますか?」
「脅すの止めてよ。怖くなっちゃうじゃない。
でも、やるよ。
カラの言うとおり、痛くて、辛くて、苦しくても、絶対やる。だって、これはわたしの我侭だから。皆を巻き込んで、わたしがやめるなんてできない。
だから、お願い。これからもわたしと一緒に戦って、カラ」
シュラがカラに懇願する。カラは席を立って、シュラの足元に跪く。
「承りました。マイリトルクィーン、これからも仕えさせて頂きます」
「ありがとう、カラ」
頭を下げるカラに、シュラが囁くように礼を述べる。カラは顔を上げてにやけた笑みを作った。シュラもそれに笑顔で応えた。




