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運命祭  作者: AAA
二回戦
13/22

これからもそんな貴女でいて下さい

 ルマガズン青のエリア本店、休憩室にてシュラは椅子の上で膝を抱えて丸まっていた。煌々とした明かりの中、床にシュラと椅子の影だけ投影されていた。他の家具は全て収納されている。


「カラ」


 弱々しい声が休憩室に寒々しく響く。シュラの体は小刻みに震えていた。寒さから身を守るように、胎児のように膝を抱えて丸まった。

 シュラはこの休憩室から出る事を止められている。シュラが誘拐される事を防ぐ為、シュラがカラを探しに行く事を止める為だ。ドアの前には古参の店員がおり、ドアを通過するものを見張っている。

 不意にドアが開いた。

 シュラは弾かれたように顔を上げる。望んでいた人影がない事に、肩を落とす。

 ドアの前には店長が居た。店長は片手に紙袋を持ち、疲れた笑顔を浮かべている。


「入るね。これ夕食、店の余りだけど、美味しいよ」


 店長はドア近くの壁を操作し、テーブルと自身用の椅子を出す。紙袋をテーブルの上に置くと、中からサンドイッチを取り出した。フランスパンを横に二つに割り、その中に野菜や肉等を入れた簡単なものだ。

 店長がシュラの前にサンドイッチを置く。


「要らない。それより、カラはどうなったの?」


 頬は白く、瞳に光がなくなり、生気のない顔でシュラは店長を見据える。


「まだ、何も分かってないわ。綿密に計画を立ててたみたいで、捜査は難航してる」


 店長が悲しそうに首を横に振る。シュラの顔が一層暗く濡れたものになる。


「木陰ナマケモノの一族から聞いた話だと、手がかりらしきものはあるの。ただ手がかりが多すぎて、どれが犯人達のことを突き止められるものなのか分からないそうよ」


「それじゃ、カラは見つからないの」


「ううん、問題は人手が足りないだけ。さっき木陰ナマケモノの一族から、内密に協力依頼があったわ。人手が足りないから手伝ってくれ、てね。

 今、同族の知り合いや他の一族にも声をかけてる。皆で探せばきっと見つかる」


 店長は自分に言い聞かせるように力強く言いきった。シュラの瞳に微かな光が灯る。


「見つかるかな」


「大丈夫、きっと直に見つかるわよ。おねーさんにまっかせなさーい!」


 店長が自身の胸を叩く。シュラの顔に僅かながら笑みが戻った。体はまだ硬いままだが、それでも肌にわずかな赤みが戻る。


「今日はもう遅いから帰ろう。うちと部屋の前に突っ立てるじっさまが送るから」


 店長がサンドイッチを袋に戻し、立ち上がる。シュラもゆっくり椅子から降りた。店長がシュラに手を伸ばし、シュラがその手を握った。シュラの手はマネキンのように冷え切っていた。

 本来なら、この場に留めておく方が安全なのだろうが、それはできない。

 運命祭のルールで、やむ終えない事情がない限り糸紡ぎの一族は指定された寮の部屋帰らなくてはいけない。今回は特殊な事情であるが、寮に帰れないわけではないので外泊の許可は下りなかった。

 寧ろ、運営委員側の理論では、不特定多数の居る外より参加者しか居ない寮の方が安全、となっている。

 シュラは店長に手を引かれ、寮の自分の部屋に戻る。夜道の途中、物陰から物音がする度にシュラが立ち止まって音源を凝視するので、かなり時間がかかった。それでも、日が変わる前には帰宅できた。

 シュラの部屋はカラの部屋に比べると大きく、ベッドの他にテーブルと小さな棚、クローゼット等が備え付けられている。


「それじゃあ、うちは帰るけど、部屋の前にじっさまが居るから。困った事があったら、じっさまに言ってね」


 店長はテーブルの上に紙袋やその他シュラの私物を置き、シュラに背を見せる。不正防止の為、糸紡ぎの一族以外が寮に来る事は許されていない。特例として、部屋の入り口に人を待機させる許可を取る事が店長の限界だった。


「うん、カラの事お願い」


 シュラは寂しそうな顔で頷いた。本当なら一緒に居て欲しい、と思っている。しかし、店長と寮母の交渉現場を見ている為、わがままを言えなかった。


「それじゃ、おやすみ。今日はしっかり休んでね」


 店長がゆっくりとドアを閉める。ドアが閉まりきった途端、室内が静かになった。

 シュラはベッドの上で膝を抱え丸まった。そのまま崩れるバランスに任せて、横に倒れる。ボス、と気の抜けた音がした。


「カラ」


 焦点の合わない瞳が宙をさ迷う。そして、テーブルの上に置かれた紙袋を見た瞬間、シュラの腹が盛大な音を立てて鳴った。


「ハハ、こんな時にお腹がすくなんて、カラの事言えないじゃない」


 シュラは空腹を訴えるお腹を撫でて、自嘲する。裸足のままベッドから降り、テーブルに向かった。

 テーブルの上には、サンドイッチと飲み物が入った紙袋、お金の入ったカード、そして厚さ一センチほどの紙束が置かれていた。


「あの馬鹿、こんなの作るなら、誘拐なんてされるんじゃないわよ」


 罵倒するシュラの声に力がない。紙束の表紙をなぞる指先が震えていた。シュラは優しく紙束の表紙を捲る。何十という項目が現れた。シュラはその一つ一つに丁寧に目を通した。

 そして、カラが居なくなった時の対処方法、と言う項目で、目を大きく開いた。丁度、ページの真ん中辺りにあるそれは、ざっと目を通しただけでは見落としてしまう。今のシュラのように、一つ一つを丹念に見なければ見つからない。絶妙な位置にあった。

 シュラは乱暴にページを捲り、最初の数行を読んで、涙を流した。


「馬鹿、何でこんな所で優しくするのよ。普段は全然優しくない癖に、馬鹿、馬鹿」


 涙でふやけていく紙には、汚い文字でこう書かれていた。


『シュラさんへ

 この項目を見ているという事は、私が死んだか誘拐されたのでしょう。

 私の事は気にする必要はありません。無視して下さい。私は自分の意思で、自分の命をチップとして盤の上に置いたんです。その結果なにが起ころうと、シュラさんに何の責任もありません。

 さて、これからの事ですが、迷わずあなたの望む道を進んで下さい。酷いお願いですが、私が忠誠を誓った女王はそんな貴女でした。だから、これからもそんな貴女でいて下さい。

 シュラさんがシュラさんらしく生きて頂ければ、後は何も望みません。

 貴女に選ばれた英雄 カラ』


 その下には、英雄が戦闘不能となった時の手続きや今後気を付ける事が、不恰好な絵と共に書かれている。

 シュラは何度もその項目を読む。

 カラを見捨てる事を前提とした話が載っていた。シュラは言いようのない怒りを感じる。

 ふざけるな。

 馬鹿にしている。

 わたしがカラを見捨ててまで、勝ちたいと思っているのか。最初から途中で居なくなるつもりだったのか。カラまでわたしを見捨てるのか、と。沸々と怒りが湧いてきた。

 シュラは決意する。絶対にカラは助ける。たとえどうなろうともカラはわたしの英雄、わたしのものなのだ。だから勝手に居なくなったりさせない。例えカラが自分から去ろうとしても、首に縄をつけて引き摺り戻す。

 気づくとシュラは椅子に座り、サンドイッチを食べながら、トラブルシューティングを読み込んでいた。赤くなった瞳に涙はなく、代わりに強い意志が溢れていた。


「諦めない。絶対、諦めない」


 シュラは夜通しトラブルシューティングを読み続けた。

 トラブルシューティングには、シュラの願いや店長の目標、それを達成するための条件、優先順位、条件を満たす方法について詳しく書かれていた。それはカラの頭脳に描かれていた未来なのだろう。これさえあれば、カラが居なくても、隣にカラが居るように思えた。

 それが一段とシュラの怒りを強くさせた。

 朝方、全てを読み終えたシュラは、覚悟を決めた顔でトラブルシューティングを閉じる。


「よし」


 シュラは自身の頬を叩くと、椅子から飛び降りた。昨日の朝から着替えていないシュラは、べたつく服に顔を顰める。疲れた頭のリフレッシュもかねてシャワーを浴びる事にした。シャワー室に向かいながら、白いドレスのボタンを外していると、外が騒がしい事に気づく。

 一瞬誘拐犯が来たか、とシュラは身を硬くするが、すぐに違う事に気付く。

 シュラが恐る恐るドアを開けると、寮母とじっさまがもめていた。無理矢理入ろうとする寮母をじっさまが押し留めているのだ。昨日の深夜やってきた手紙を渡す、渡さない、で問答を繰り返している。

 シュラは寮母とじっさまの間に入り、手紙を受け取る。

 手紙の差出人には、ハイス、プランデ、シトロン、三人の名前が署名されていた。昨日の打ち合わせの続きについて、日程の連絡だ。日程は明日の朝から、場所は前回と同じ運営本部の貴賓室となっていた。


「ああ、カラの予想通りじゃない」


 一通り手紙を読んだシュラは、鼻で笑った。

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