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運命祭  作者: AAA
二回戦
12/22

スイカとメロン、どっちが偽乳にはふさわしい食べ物か協議会

 帰り道、統一感のない建物が並ぶ大通りを、シュラとカラが意気揚々と歩いていた。数歩後ろを暗い顔の店長がとぼとぼとついて来ている。空には朱色が混じり始め、影法師が順調に育っていた。大通りは賑わっていたが、シュラとカラの周りだけ人がいない。血で汚れた真っ白いドレスを着た少女と顔中を血だらけにした男。二人と対面した通行人がそそくさと道を譲る。

 ハイス、プランデ、シトロンはカラ達の持ってきた企画を検討に値すると評価し、本日の交渉は終了した。返答は後日、機会を設けて行う事と決まった。年端のいかない少女と無名の英雄、小売店の店長が出した結果としては、十分に成功といえる。

 それはカラの狙い通りであった。そして、だからこそこの後の展開もカラには手に取る様に分かる。

 シュラは浮き立つ気持ちを表すように鼻歌を歌い、カラもそれに合わせた。一番後ろで沈んだ顔をしていた店長が立ち止まる。


「ねぇ、カラ君」


「はい、なんでしょう」


 カラが不恰好なターンで振り返った。シュラも立ち止まる。


「あの時、言っていた事、本気? もし本気なら、うちは……」


 思いつめた表情をした店長が、真っ直ぐカラを見つめる。


「あの時、とは?」


「ほら、あの方達が無理な要求をした時、脅迫してでも運命祭をやり直す、て言ってたでしょ。あれ、本気なのかな、てね。」


 ああ、とカラが両手を叩く。


「あれ、嘘です。私にそんな事できるわけないじゃないですか」


 カラが朗らかに否定するが、店長の顔は厳しいままだ。


「でも実際、あの方達を脅迫したんでしょ? それにあの時の紙にだって……」


 店長はシュラをちらりと見て、語尾を濁した。

 シュラもカラの手際に疑問を持っていたのだろう、興味深々と言った雰囲気でカラを見上げている。

 ここで店長に協力を拒否されるとカラの予定が狂う。シュラは子供だ。一人では何も出来ないから、味方が必要なのだ。だから、カラは息をする様に嘘を吐く。


「偶然、そう言う情報やツテが手に入っただけですよー」


「偶然?」


 はい、とカラが頷いた。あらかじめ決めていた台詞を淀みなく喋る。


「ハイスさんの秘書さんとは、遊んでいる最中に出会い友達になっただけです。まさか、スイカとメロン、どっちが偽乳にはふさわしい食べ物か協議会の第三委員長インフィニティフレイムサードが、炭焼きの一族の長の秘書をやっているとは予想できませんでしたねー」


「何その協議会!」


「うちは寧ろ、第三委員長インフィニティフレイムサードの方が気になるかな」


 カラと件の秘書の出会いに、シュラが驚愕する。店長も追従するが、顔は真剣なままである。


「シトロンさんは、この前着ぐるみでチラシ配りをしていた時、服を交換して知り合えたんですよー。ちなみに脅迫の手紙には、ゴスロリ服は預かった、と格好良く書きました」


「ああ、あの時の」


 ゴスロリ姿のカラを思い出したシュラが、げんなりする。


「あいつかーっ! あいつに渡したのかーっ! 何でさっき取り返さないっ! あれが幾らすると思ってのーっ!」


 店長は目を血走らせて、カラの襟首を締める。カラの顔が紫色になってきた頃、シュラが重い腰を上げて、店長を宥めた。

 カラは真っ赤な痕が付いた首筋を撫でながら、プランデの場合について話す。


「プランデさんは、その後ろにいたメイドさん達の恋人とたまたま人気娼婦のイベントで一緒になり、意気投合したんですよー。その後の打ち上げで聞いた愚痴が情報源です」


「しょ、しょ、娼婦って、不潔、不潔、不潔。このクズ、最低、最低、最低」


 顔を真っ赤にしたシュラがカラを殴る。カラはなすすべもなく地面に沈められた。ゴミ屑のようになったカラに、店長はなんとも言えない表情を作る。


「あー、うん、分かった。手品の種は聞かない方が夢がある、て事が良く分かったよ」 


 毒気を抜かれた店長が、肩から力を抜いた。


「わ、分かって頂けて、何よりです」


 カラの弱々しい声が地面から発せられる。余程ダメージが溜まっているのか、カラは中々立ち上がろうとしない。


「店長、この変態馬鹿は放って置いて、帰ろう」


「う~ん、ここに放って置くと通行人の邪魔になるよ。仕方ないから、もう少しだけ待ってあげよ、ね」


「カラ、店長の優しい言葉聞いたわよね。聞いてたなら、さっさと起きろ」


 シュラの脚がカラの鼻先数ミリの位置を踏み抜いた。風圧でカラの髪が流れる。カラが恐る恐る上を見ると、シュラと目が合った。シュラが無言で上を指差す、さっさと立ち上がれ、という事だろう。


「はい、起きますよー。起きますから、踏みつけは止めてください。私はノーマルですよー。アハハハハーーーーー」


 カラが早口でまくし立てながら、立ち上がった。地面を転がった所為で、下ろしたての服にところどころ砂埃が付着している。カラは砂埃を手で叩き落すと、背中から紙が擦れる音がした。

 辺りを見渡すと、おあつらえ向きな屋台もあった。


「ああ、忘れるところでしたねー。

 シュラさん、店長さーん、ちょっと待って下さい」


 既に歩き出していたシュラと店長を呼び止める。シュラと店長が嫌そうな顔で振り返った。先ほどの寸劇の所為で、周囲の視線が嫌でも応でも高まっている。


「何、カラ? あんまりあんたと知り合いだと思われたくないんだけど」


「お二人に渡し忘れていたものがあったので、お渡しします」


 カラは背中に手を回して、背広の中から紙束を取り出す。厚さ一センチ程の分厚い紙の束だ。怪訝な顔をした店長が受け取り、シュラが脇から覗き込む


「何かあった時の為に作ったトラブルシューティングです。取り敢えず、今後の目標や色々問題が起きた時の対処方法について、最低限の指針は書いてあるつもりです。参考程度に利用して下さい」


 店長が表紙をめくり、目次に目を通す。項目は、シュラさんの目標、店長さんの目標、お客から言いがかりを受けた時、お金がなくなりそうな時、等々、様々な状況について乗せられていた。携帯トイレの使い方や人の心を折る方法、楽しいハンマーの使い方等、何に使うか理解できない項目もあったが、それなりに良くできている。一朝一夕で作れるものではない。


「カラ、こんなのまで作ってたの」


「よく時間あったね。これは色んな意味で凄いよ」


 シュラと店長が感心と呆れの入り混じった顔をする。カラは腰に手を当てて胸を張った。


「凄いでしょう。私だって頑張るんですよー。なのでご褒美に、あれ買って下さい。先ほどから気になって仕様がありません」


 カラが指差す先には、『絶叫絶命絶倫絶対絶縁絶望絶頂絶品フライドシューアイス』と言う看板を掲げた屋台が甘い匂いを漂わせていた。それなりに人気があるようで、五、六人並んでいた。


「なんなの、あれ?」


「多分、シューアイスを油で揚げたものだろうけど、その前の絶何たらが凄く気になるね」


 シュラの疑問に店長が応える。どちらも疲れた空気を身に纏っていた。


「頑張った分、ご褒美を希望しますよー」


 カラが自分のカードを取り出して振り回す。残高はゼロを示している。お金があるとすぐ使ってしまうので、カラのお金をシュラと店長が管理していた。

 シュラは懐からカードを取り出すと、カラのカードにお金を少しだけ移動させる。


「はい、お金渡したから、買ってきなさい」


「ありがとうございます。シュラさん」


 カラがスキップで屋台に突撃していく。シュラがカラの背中に声をかける。


「カラー! わたし達も食べるんだから、独り占めすんじゃないわよ!」


「はーい」


 カラは大声で返事をして、列の後ろに並んだ。待ちきれないようにそわそわしている姿が、遠目からでも確認できる。カラのはしゃぎっぷりに、通行人から笑いが漏れる。


「これを書いた人と同一人物には見えないね」


 店長がトラブルシューティングを掲げながら苦笑する。シュラは顔を真っ赤にして申し訳なさそうに謝った。


「ごめん、あの馬鹿には後できっちり言い聞かせるわ」


「ハハハ、まるでできの悪い兄を持った妹みたいだね」


 店長の妹発言に、シュラは苦虫をかみ殺す。


「アレと兄妹なんて、最悪なんですけどぉ。いつもいつも皆に迷惑かけて、決める所ではずして、分けわかんない事やって、アレと血縁関係があったら死ぬわ」


 頬を膨らませたシュラが指差す先では、カラが簀巻きにされていた。薬でも使われたのだろうか、カラの体は糸の切れたマリオネットのようにぐったりしている。

 簀巻きにしているのは、フライドシュークリームの店長と行列を作っていた客達だ。簀巻きにする彼らをカメラやマイクを持った団体が取り囲んでいる。その機材はこの前シュラがインタビューを受けた時のものとよく似ていた。

 時折、通行人が簀巻きにされているカラにぎょっ、とするが、周りにある機材を見て安心した顔にで立ち去る。撮影か何かと思っているのだろう。カラの顔が血だらけなの事も、説得力を強めていた。


「は?」


「い?」


 シュラと店長が目を丸くする。目の前の光景がなんなのか理解しきれない様子だ。


「おい、気づかれた。逃げるぞ」


 シュラと店長の視線に気づいた誰かが声を上げる。彼らは簀巻きにしたカラを抱えて、不規則な足音を鳴らし路地裏へ逃げていった。

 そして、誰も居なくなった。

『絶叫絶命絶倫絶対絶縁絶望絶頂絶品フライドシューアイス』と言う看板が空しくはためく。


「か、か、か、カラがさらわれたーーー」


 正気に戻ったシュラが現状を叫んだのは、その数十秒後であった。

 シュラと店長が慌てて屋台に向かうと、物陰で簀巻きにされた人間が大量に見つかる。全員、目隠しをされて猿轡を噛まされていた。

 シュラと店長は目隠しと猿轡を外し驚いた。その顔は先ほどカラをさらった誘拐犯達とまったく同じだったのだ。誘拐犯達は彼らに変装していたらしい。

 簀巻きにされた人達は全員、背後から襲われ気づいたら簀巻きにされていた、と話した。誰も犯人を見ていない。

 これ以上の調査は危険と判断した店長が、真っ青になったシュラを連れて、ルマガズンに戻る。カラが誘拐された以上、シュラに同じ事が起きないとは限らないからだ。

 ルマガズンに戻った店長は、ありったけの店員をかき集め、カラの捜索に当たる。更に大通りの治安維持を担当する木陰ナマケモノの一族に捜査を依頼した。

 当初は簡単に見つかると思われた誘拐犯達だが、三時間経った今でも足取り一つ掴めていない。判明した事は屋台の側に強力な睡眠薬入りのフライドシューアイスが落ちており、そこからカラの唾液が採取できた事だけだった。

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