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運命祭  作者: AAA
二回戦
10/22

ノーガードで飛び込んで、しっかり一発入れてきています

 青のエリアと赤のエリアは半円状の扇形である。その扇の根元に巨大な門がある。一度に何十人も通れそうな門が口を開いている。この門を通り、糸紡ぎの一族とその英雄は運命祭を戦う灰色のエリアに移動する。

 門の隣には一三階建の巨大なビルがそびえ立っていた。白塗りの壁は無地で、簡素な窓が等間隔で貼り付けられている。飾り気のないビルだ。中央会館と呼ばれるこのビルは、赤と青のエリアに一つづつあり、各エリアの運営本部となっている。

 普段は運営委員以外、殆ど人が居ないのだが、この日は違った。入り口がパンクしそうな位沢山の人が運営会館に詰め掛けてきた。全員、一様に同じ通路を通り、大広間に集う。

 大広間はがらん、として何もなかった。ステージにマイクがポツンと置かれている。備え付けのテーブルや椅子は撤去されている。一〇〇〇人は余裕を持って入れる大広間は人でごった返していた。許容量の何倍もの人が詰め込まれた結果だ。

 ステージ脇から大広間の様子を覗き込んだシュラは油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく後ろを振り返る。レースのついた白いドレスをお姫様のように着こなしていたが、その顔は真っ青でお世辞にも上品には見えない。


「どうしよう。なんか、いっぱい集まってるんですけど」


「ええ、盛況ですねー。これは嬉しい誤算です」


 カラが満足そうに頷く。今日はマントを被ったゴキブリファッションの為、表情は読めないが、口元がにやけていた。


「これで失敗したら、一生話の種にされますねー。アハハハハハーーーーーー」


「カラ君、元凶が不吉な事言わない」


 店長がカラの後頭部を張り倒す。

 店長の言葉通り、この騒ぎはカラが企画した。脅迫の手紙があった翌日、カラが掲示板に一枚の広告を貼り付けた。掲示板の一番目立つところに、一際目立つ色彩で彩られたそれには、『今後の事について発表します。興味の在る方は下記までご足労願います。ルマガズン』と簡素な一文が載せられていた。指定されていた日時は二日後、つまり今日、場所はここ、中央会館の大広間である。

 これだけの人を集めたのは、シュラの目的を周知する為だ。シュラの願う、皆の運命祭は多くの人に知って貰ってこそ意味がある。

 元々、このような場を作る為にカラは掲示板を企画した。情報の集積所には自然と人が集まる。その中心に居る人物からの発信される情報は、その他よりも広く広がるものだ。

 何より知って貰う事が大事、とカラはシュラと店長を説得しこの企画を通した。


「シュラさん、楽にして下さい。多少失敗しても問題ありません。むしろ失敗した方が子供らしくて人気が出ます」


「でも、いっぱいお金かかってるでしょ」


 シュラはちらりと店長を見る。この企画の実施に向けて店長が夜遅くまで帳簿と睨めっこしている場面を、シュラは見ていた。ここ数日、実際に働く事でお金を稼ぐ大変さを知っただけに、シュラにかかるプレッシャーはより一層重くなっている。


「それは気にしなくていいよ。今回格安で済ませたからね。

 ……それでも掲示板で稼いだ利益の半分が吹っ飛んだけどね。まぁ、後でカラ君をこき使うから、シュラちゃんは気にしなくて大丈夫」


「店長さん、視線が痛いですよー。

 大広間を借りた以外、殆ど出費はなかったじゃないですか。受付は置かず、開場も三〇分前にして、飲み物は在庫品を配って、見た目はお金かかかってそうですけど、実際は信じられないほど安くあげてたんですから、気にしちゃめーですよー。アハハハハーーーーーーー」


「うん、分かった。頑張ってくる」


 二人の励ましでシュラの顔からこわばりが取れる。頬に赤みがさしてきた。


「そろそろ、時間です。頑張って下さい」


「こっから応援してるよ!」


 カラと店長の声援を背中に受けて、シュラはステージに出た。緊張で歩きがぎこちない。人形のような歩きでマイクの前に立つと、一回深呼吸をしてからマイクを手に取った。


「糸紡ぎの皆、そしてその英雄の皆、はじめまして、わたしはシュラです」


 突如響いた声に、千を超える視線がシュラを射抜く。

 シュラは震える膝に力をこめて、次の言葉を発する。


「今日は皆に言いたい事があって、集まってもらいました」


 台本にない台詞を言うシュラにカラが首をかしげ、店長が慌てる。


「わたしの英雄が言ってました。この運命祭は出来レースだ、て。最初から今の王様や偉い人達が勝つように仕組まれてるんだ、て。沢山の人を味方につけた方が勝つ、て。

 わたしは本当だと思う」


 大広間がざわつく。掲示板について新しい発表があると思っていた来場者達には予想外だった。


「だって、ルールを最後に決めるのは陪審員の人達だけど、この人達がズルして不公平なルールにできる。これだけいっぱい人が居るのに、最初の数日でわたしや同い年の子供は皆一回戦を終わった。皆、最初の様子見に使われたの」


 シュラが悲しそうに顔を伏せた。


「わたしの英雄は、カラは王様を決めるから当然だ、て言ってた。たくさんの人を味方にした人が王様なんだ、て言ってた。それは正しいと思う。けど、それじゃ嫌なの」


 いつの間にか辺りは静まり返っていた。シュラのたどたどしい言葉が大広間に染み渡る。


「一番最初のルールを決める時から自分達に有利にしてるなんて、ズルい!

 皆、この運命祭を楽しみにしてた。でっかいお祭りだって、すっごく、すっごく楽しみだった。なのに、それが出来レースだったなんて、そんなの嫌。

 だから、わたしはそんな出来レースを止めさせたい。その為には皆の協力が居るんです。わたしだけじゃ駄目なの。

 わたしがお願いしたいのは特別な事じゃない。ただ、最後まで自分の優勝を諦めないで、陪審員になったら公平にルールを決めて。それだけなの。

 運命祭はここに居る皆の、ううん、ここに居ない人達、私達糸紡ぎの一族以外の全員もひっくるめた皆の運命祭だから。

 だから、お願いします。わたしに協力して下さい」


 シュラが頭を下げると、静寂を割るように一つ、二つと拍手の音が聞こえる。拍手の音は大きくなる事はないが、まばらなままシュラがステージから退場するまで続いた。


「ごめん、台本全部忘れちゃった」


 失敗してごめんなさい、とシュラが謝る。大広間の空気は冷めていて、お世辞にも成功したとは言えない。今回のシュラの言葉に動かされる人は、ゼロかもしれない。

 大きく肩を落としたシュラとは対照的に、カラの口元は笑っていた。


「いえ、大成功です。まさか、拍手が貰えるとは思いませんでした」


「え?」


「どういうこと?」


 シュラと店長がカラに詰め寄る。


「それなりに派手なイベントになりました。きっと色々な派閥の方が盛り上がらないように、細かい工作をしているはずです。そこにノーガードで飛び込んで、しっかり一発入れてきています。これは大成功ですよー。アハハハハハーーーーーーーーーー」


 すでに退出のアナウンスがされているにもかかわらず、大広間からはまばらな拍手が続いていた。

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