地味令嬢の逆襲
とある夜会の日。今日も俺、女の子たちに囲まれてるわー。モテる男って辛いねぇ。
「アイロス王子様、私と踊ってくださいません?」
「いいけどー?」
「やった。嬉しい!」
罪深いねぇ、俺。第七王子で、兄さんたちに比べたらそこまで地位は高くないのに。女の子たちに好かれるのって気分いいわぁ。
こうして数々のレディと踊った後だった。ふと、壁の方に目をやると、なんだか変な女がいた。負のオーラが立ち込めている毒キノコぽい。メガネに型落ちドレス姿ってアリ? 壁の花というより壁の毒キノコ。俺の周りにいるレディたちと全然違うんだが?
「あの子、一応男爵令嬢みたいですが、もう全然モテなくていつも壁の花。いわゆる行き遅れって存在ですわ。地味令嬢って言われてるみたい」
ほう、女の子たちもバカにしているのか。これは面白い。ちょっと揶揄ってやろうかな。あっさり俺に靡いたらウケる。いや、罪深い俺はそれぐらい朝飯前だし。
「ねえ、君。俺と一緒に踊らない? 壁の毒キノコ、いや、壁の花になっていても退屈だろう?」
地味令嬢に声をかけた俺、優しすぎるな。むしろこんな子まで気を使えると女の子たち、キャーキャー騒いでるし。うん、いい気分。
それなのに。地味令嬢は予想外の態度をとってきた。
「いえ、けっこうです。今日はパーティーのお料理を楽しみにきたんで」
「え?」
「どうぞ、どうぞ。私などは放っておいてパーティーをお楽しみくださいな」
そそくさと料理を取りに行く地味令嬢。なんだこれ。拍子抜け。ここはイケメン王子様の俺にキャーキャーいうところだろう?
モヤモヤするなぁ。家に帰ってもあの令嬢がなんか気になる。普通に失礼だったし。うん、あいつの態度が悪いから気になるんだな。
そして次の夜会でも地味令嬢と再会。相変わらず壁の花。俺に関心はなさそう。なんか肉食って楽しそうなんだが?
「ねえ、君。やっぱり俺と踊らない?」
「え?」
「いいじゃんか。君、行き遅れなんだろう? 噂を聞いた。君の家の母もお婆さんもそうだって。ね?」
その瞬間、ヘラヘラ笑っている地味令嬢の顔が変わった。俺のことも無視。一切視線を合わせず、話しかけても答えない。ぷいっと背中を向けた。
「どういうことだ!? なんで俺を無視!?」
周りの令嬢は俺と一緒に怒ってくれたけど、よく考えていたら失礼だったかなぁ。行き遅れとか家族のこととか、言うべきではなかったか。
「王子、地味でおっとり系の子こそ、怒らせたら怖いですよ。しかも家族のことを言って怒らせたんでしょ? 見かけによらず、芯が強い令嬢かもしれませんね」
家に帰ったら、執事の爺やに怒られた。
「私は王子をそんなクズに育てた覚えはありません。どうか、紳士な態度に改めてください」
「う、爺やの言う通りだった……」
レディにモテて勘違いしていたのかもしれない。いや、確実に勘違いしていた。王子の身分がなんだっていうんだ。俺の努力で得たものじゃなく、全部親や先代のおかげじゃないか。
地味令嬢に謝罪の手紙を書いた。いや、地味令嬢とか言うのも失礼か。本名はコリンヌ・エルノー。男爵家の令嬢だ。
爺やにもアドバイスを受け、誠心誠意手紙を書いたつもりだった。傷つける意図はなかったとか、ちょっと思いつきでやってしまったことか正直に書いた。つまり、俺がバカ王子ってこと。最後にバカ王子よりって書いたからな。爺やは大笑いしていたけれど。
でも返事はない。それどころかコリンヌに縁談の噂もあるらしい。年齢は五十歳の爺さん伯爵。コリンヌの家は借金があり、借金のカタに嫁に出したいらしい。
「爺や! そんな家庭の事情で嫁に出すとかいいんか? そんなのアリなの?」
納得いかなくて爺やに口を尖らせた。爺やは目を伏せ、浅く頷いてる。
「王子のような世間知らずの坊ちゃんには聞きづらい話でしょう。でも現実にはこいいうことはよくあるのです」
「そんな……。納得いかねーよ。あんな毒キノコみたいな令嬢なのに……」
「爺さんにとっては若いだけで価値があります。というか、王子、本当に失礼ですね。というか……」
ここで爺やは言葉を切った。
「……なんだよ、爺や」
「なんでそこまでコリンヌ嬢を気になっているんですか? 王子、まさか……」
爺や、いやらしく目を細めている。まるでゴシップを見ているような目。
「い、いや。別にあんな毒キノコみたいな令嬢、興味ないし!」
「またまた〜。本当は気になっているんでしょ?」
爺やは耳元で低く囁く。
「早くしないとジジイの嫁になりますよ?」
けしかけてくる。あぁ、もう嫌だ。こんな風にコリンヌのことを考えてしまうなんて。ちょっと揶揄ってやっただけなのに、すっかり心乱されてる。逆襲を受けてるってわけ。
「わかったよ!」
夜会に行こう。いや、コリンヌに会いに行こう。今夜も壁の毒キノコになっている彼女を見つけた。今夜もダサいメガネに型落ちドレスなのに、妙に目立って見えるのはなぜだ?
「コリンヌ嬢! 俺と一緒に踊ってください」
「え?」
そんな目を丸くして驚くなって。俺は初めからそう言ってるじゃないか。全く本当に鈍いなぁ。




