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異世界恋愛・短編小説

地味令嬢の逆襲

作者: 地野千塩
掲載日:2026/10/18

 とある夜会の日。今日も俺、女の子たちに囲まれてるわー。モテる男って辛いねぇ。


「アイロス王子様、私と踊ってくださいません?」

「いいけどー?」

「やった。嬉しい!」


 罪深いねぇ、俺。第七王子で、兄さんたちに比べたらそこまで地位は高くないのに。女の子たちに好かれるのって気分いいわぁ。


 こうして数々のレディと踊った後だった。ふと、壁の方に目をやると、なんだか変な女がいた。負のオーラが立ち込めている毒キノコぽい。メガネに型落ちドレス姿ってアリ? 壁の花というより壁の毒キノコ。俺の周りにいるレディたちと全然違うんだが?


「あの子、一応男爵令嬢みたいですが、もう全然モテなくていつも壁の花。いわゆる行き遅れって存在ですわ。地味令嬢って言われてるみたい」


 ほう、女の子たちもバカにしているのか。これは面白い。ちょっと揶揄ってやろうかな。あっさり俺に靡いたらウケる。いや、罪深い俺はそれぐらい朝飯前だし。


「ねえ、君。俺と一緒に踊らない? 壁の毒キノコ、いや、壁の花になっていても退屈だろう?」


 地味令嬢に声をかけた俺、優しすぎるな。むしろこんな子まで気を使えると女の子たち、キャーキャー騒いでるし。うん、いい気分。


 それなのに。地味令嬢は予想外の態度をとってきた。


「いえ、けっこうです。今日はパーティーのお料理を楽しみにきたんで」

「え?」

「どうぞ、どうぞ。私などは放っておいてパーティーをお楽しみくださいな」


 そそくさと料理を取りに行く地味令嬢。なんだこれ。拍子抜け。ここはイケメン王子様の俺にキャーキャーいうところだろう?


 モヤモヤするなぁ。家に帰ってもあの令嬢がなんか気になる。普通に失礼だったし。うん、あいつの態度が悪いから気になるんだな。


 そして次の夜会でも地味令嬢と再会。相変わらず壁の花。俺に関心はなさそう。なんか肉食って楽しそうなんだが?


「ねえ、君。やっぱり俺と踊らない?」

「え?」

「いいじゃんか。君、行き遅れなんだろう? 噂を聞いた。君の家の母もお婆さんもそうだって。ね?」


 その瞬間、ヘラヘラ笑っている地味令嬢の顔が変わった。俺のことも無視。一切視線を合わせず、話しかけても答えない。ぷいっと背中を向けた。


「どういうことだ!? なんで俺を無視!?」


 周りの令嬢は俺と一緒に怒ってくれたけど、よく考えていたら失礼だったかなぁ。行き遅れとか家族のこととか、言うべきではなかったか。


「王子、地味でおっとり系の子こそ、怒らせたら怖いですよ。しかも家族のことを言って怒らせたんでしょ? 見かけによらず、芯が強い令嬢かもしれませんね」


 家に帰ったら、執事の爺やに怒られた。


「私は王子をそんなクズに育てた覚えはありません。どうか、紳士な態度に改めてください」

「う、爺やの言う通りだった……」


 レディにモテて勘違いしていたのかもしれない。いや、確実に勘違いしていた。王子の身分がなんだっていうんだ。俺の努力で得たものじゃなく、全部親や先代のおかげじゃないか。


 地味令嬢に謝罪の手紙を書いた。いや、地味令嬢とか言うのも失礼か。本名はコリンヌ・エルノー。男爵家の令嬢だ。


 爺やにもアドバイスを受け、誠心誠意手紙を書いたつもりだった。傷つける意図はなかったとか、ちょっと思いつきでやってしまったことか正直に書いた。つまり、俺がバカ王子ってこと。最後にバカ王子よりって書いたからな。爺やは大笑いしていたけれど。


 でも返事はない。それどころかコリンヌに縁談の噂もあるらしい。年齢は五十歳の爺さん伯爵。コリンヌの家は借金があり、借金のカタに嫁に出したいらしい。


「爺や! そんな家庭の事情で嫁に出すとかいいんか? そんなのアリなの?」


 納得いかなくて爺やに口を尖らせた。爺やは目を伏せ、浅く頷いてる。


「王子のような世間知らずの坊ちゃんには聞きづらい話でしょう。でも現実にはこいいうことはよくあるのです」

「そんな……。納得いかねーよ。あんな毒キノコみたいな令嬢なのに……」

「爺さんにとっては若いだけで価値があります。というか、王子、本当に失礼ですね。というか……」


 ここで爺やは言葉を切った。


「……なんだよ、爺や」

「なんでそこまでコリンヌ嬢を気になっているんですか? 王子、まさか……」


 爺や、いやらしく目を細めている。まるでゴシップを見ているような目。


「い、いや。別にあんな毒キノコみたいな令嬢、興味ないし!」

「またまた〜。本当は気になっているんでしょ?」


 爺やは耳元で低く囁く。


「早くしないとジジイの嫁になりますよ?」


 けしかけてくる。あぁ、もう嫌だ。こんな風にコリンヌのことを考えてしまうなんて。ちょっと揶揄ってやっただけなのに、すっかり心乱されてる。逆襲を受けてるってわけ。


「わかったよ!」


 夜会に行こう。いや、コリンヌに会いに行こう。今夜も壁の毒キノコになっている彼女を見つけた。今夜もダサいメガネに型落ちドレスなのに、妙に目立って見えるのはなぜだ?


「コリンヌ嬢! 俺と一緒に踊ってください」

「え?」


 そんな目を丸くして驚くなって。俺は初めからそう言ってるじゃないか。全く本当に鈍いなぁ。

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― 新着の感想 ―
いやこんなクソガキメンタル王子と結ばれても幸せかな。
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