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女王陛下のお戯れ

作者: トネリコ
掲載日:2026/06/21

 日々女王として忙しく働くアデルにも、しっかりと休暇はある。


剣舞や声楽も楽しいが、一番楽しいのは魔法使いクリフトを助手にした【便利道具の発明】だ。 この時ばかりはイザークも立ち入れず、しょんぼりしながらリリアナの元に癒されに行くしかない。 汚れても心配無用なワンピースを纏い、邪魔な長い赤髪は適当に丸めて余りは流す。 手を汚さず、合間に摘まんで食べられる軽食や飲み物を〈魔法使いの棟〉に持ち込んだら、もうそこは発明家達の秘密基地だ。 入浴の時間になってイザークに基地から引きずり出されるまでは、心ゆくまで発明に没頭していられる。


 国内で採れた野菜を安全に、かつ長期に保存する手段として魔法を石板に刻んだ食品用乾燥機と製粉機を発明した勢いに乗り、アデルとクリフトは、次なる発明品のためにボウルの中の砂と粘土、粉々に粉砕した炭や木くずなどを混ぜ合わせる。アデルが担当しているボウルとクリフトが担当しているボウルとでは、砂の目の粗さが明らかに違っている。混ざり加減のチェックをクリフトに任せてあるアデルは、木の棒でぐりぐりと素材を混ぜながら、理想にはまだ遠い現状に口を尖らせる。


「本当は……魔法を一切使わない便利道具が作りたかったんだがなぁ……。 魔力に変わるエネルギー源も見つけたいし……。 あー、時間が足らん!」

「今作ろうとしている浄水器もそうですが、発想がぶっ飛びすぎです陛下」

「そうかぁ? 魔法を使えない民の生活を考えれば、誰でも思いつくだろう」

「天才の視点で物事を語らないでいだきたく。 ……あ、陛下そろそろです」


 素材を特注した金型に嵌め、成形する。 本当はこの後、一日かけて日陰で乾燥させてから高温で焼くのだが。 炎のリファエル公爵家の血を引くアデルの手に掛かれば、そんな待ち時間は不要。 あっという間に浄水器のフィルターとなる部品が完成した。 泥水を浄化し、飲み水として利用する携帯用浄水器。その心臓部にあたる、大切な部品だ。目の粗さの違う二層のフィルターに加え、浄水器の内側に刻み込んだ瞬間煮沸の魔法によって、泥水を飲み水に変える。 これがあれば、有事の際に戦地に赴かなければならないエテルティ軍や、天災に見舞われ水源を喪った民の助けになるはずだ。 キアエルの血筋ある限り、エテルティから水が絶えることはまず無いだろうが、何事にも例外があれば最悪もある。 どんな事があっても、エテルティの民が生きていけるように。一人も取り残さないように知恵と力を尽くすのは、エテルティ女王の義務だ。


「泥水を取ってきてくれ」という珍妙な命令に文句も言わず忠実に従ってくれた兵士のおかげで確保できた泥水が浄水器を通り、透明な水に変わっていく。 フィルターを通しただけなら追加で煮沸が必要だが、泥水が浄水器内部に入った時点で魔法が作用し始めるため、浄水器を抜ける頃にはすぐに飲める。


「あー……専用のパウチ作りてぇ……」

「まずは浄水器です、陛下! 浄水器だけでも十分凄いですから!」


 善は急げ、餅は餅屋とばかりに急遽召集されたキアエル公爵シモンは、挨拶もそこそこに水質調査を依頼され目を丸くした。 シモンから「飲用可能」のお墨付きをもらったアデルは、感極まってクリフトと掌を合わせた。ぱちんと鳴る音が、完成の合図だ。 「報奨金ついでに爵位要らねぇ?」 「結構です、平凡な生活万歳」と二人特有の呼吸と速度で展開される会話に「急ですまないが、どうしても頼みたいことがある」とだけ聞かされてやって来たシモンは、柔和な笑顔を保ちつつも困惑するしかない。


クリフトが事情を説明している間、アデルは隠しておいたバスケットを取り出す。

バスケットの中には、製粉機でパウダー状に加工したニンジンと蜂蜜を練り込んだ野菜パンが入っている。 


急に呼び立てた詫びにと、バスケットをシモンに手渡したタイミングで、何事かと様子を見にイザークがやって来てしまった。


「愚弟を見かけましたが、何事ですか……? 私ですら部屋に入れてもらった事がないのに!」

「一児の父にまでなっておいて、地団駄を踏んで悔しがるんじゃないよ、この愚兄」

「なんだと!」

「やめないか、お前達! せっかくの良い気分が台無しだ!」


 やれ「自分はまだ野菜パンを食べた事がない」だの、「レシピを複写させてほしい」だの。 夫は実弟に嫉妬し、発明レシピを見た大賢者マギウスは交渉を持ちかけてきて達成感もそこそこにアデルは大忙し。


今日もエテルティは平和である。


 [完]

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