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覚え無し

「そ────」


「まぁ、待て」


 僕は自分の目の前に立った天鳳さんの言葉を遮り、口を開く。


「君が僕の幼馴染を名乗るからにはきっと昔は交流があったのだろう。しかし、だ。残念ながら僕はちょっとした事件以来、記憶喪失になっているんだよ。僕に幼年期の記憶はない」


 記憶喪失。

 何が原因かは知らないが、僕は10歳くらいまでの記憶が飛んでいる。

 別に普段、昔の記憶がないことによる弊害が特になかったため、あまり自分でも気にしていなかったけどね。


「だから、幼馴染と言われても困る」

 

 彼女が僕の幼馴染を名乗っているからには……多分、記憶を失う前の僕と彼女は知り合いだったのだろう。

 でも、僕に覚えがないのは仕方がない。だって、僕が記憶喪失だから。

 

「は……?」

 

 僕の言葉を聞いて天鳳さんが固まる。


「僕と君は友好的な関係だったのかも知れないけど……悪いけど今の僕は君を知らない」


「何の冗談?」


「冗談でもなんでもなく、ただの事実だよ」


「……嘘よ」

 

 ずっと僕のことを睨んでいた天鳳さんの表情が苦悶の色へと染まり、僕より視線が外される。


「なんで僕がそんな嘘つく必要があるの?昔の僕は今の君に会いたくない事情でもあるのかな?」


 よし!バイオレンスな展開になることは防げそうだね。

 ちゃんと話し合えばわかるのだ。

 というか、普通に記憶喪失であることも開示せず、知り合い面をしていた彼女をやべぇ奴扱いしていた僕が悪いところはあるよね。


「……碧衣、はそんな意地悪なこと、言わない」


「僕は結構言うから、君の知っている竜崎碧衣という男と君の目の前に今いる男は別物だね」


「……」

 

 僕から視線を外し……そして、いつの間にか視線を地面へと落としていた天鳳さんは体を震わせ、黙り込んでしまう。


「……碧衣の」


「ん?」


「碧衣の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!」


 涙ながらに僕の罵倒を叫んだ天鳳さんはそのまま教室から飛び出し、どこかへと走り去っていった。


「あらあら」


 それを止める隙は僕になかった。


「おー。拗れたな」

 

 一連の流れを見ていた池田先生は軽く一発、軽い口調で言葉を告げる。


「うわー」


「女の子泣かせた……最低」


「あの言い方はない」


「……女の敵」


 そして、それに続くような形でクラスメートたちは僕に非難の視線を向けてきている。


「ふぅむ……これ、僕が悪者扱いになるやつだね。うん」

 

 女の子を泣かせた僕に非難が集まるのはわかる……でも、記憶喪失になっちゃっているんだから、しょうがない……。

 だから、そんなに僕を責めるような視線を向けないでほしい。

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