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仲裁

「……なんで?」


「さっき言った通り」


「……私のことを、思い出したくないの?」


「君のことを思い出したくないわけじゃない。だが、僕は今の生活が壊れるのが怖いんだ」


「……私より、大事なものなんて」


「今の僕にあるんだ。友達もいる。妹もいる。夢もある。今の僕はささやかな夢を持っているただの高校生でしかないんだよ。最強の冒険者の娘とこの世界に存在する大きな力と戦えるような……そんな、男じゃないんだよ。僕は」

 

 最強の冒険者としてハーレムを作る。

 それが僕の目的である。しかし、今の僕はとてもじゃないが最強とは程遠い。

 ちょっと……自分の命の危険さえあるようなとんでもなく大きな話に自分から巻き込まれに行こうと出来るだけの勇気はなかった。

 僕は見えている地雷は全力で回避していくスタイルなのだ。


「でもッ!私がッ!」


「君は美人だ……価値がある。だけど、今の僕は君と初めましてなんだよ。すべてを投げだせるほどの、存在じゃないんだよ」


「……ッ!!!」

 

 僕の言葉を受け、天鳳さんの瞳に涙がたまっていく。

 ……あぁ、どんどんクラスメートたちから向けられる視線が僕を責めるようなものになっていくぅ。


「ちょっと」

 

 どうしようか。

 僕が悩んでいた時、僕と天鳳さんの間に神桜さんが割り込んでくる。


「天鳳さんにも事情があるのはわかるわ。でも、竜崎くんにも事情があるのよ。自分の事情を押し付けるのは良くないわよ」


「……あなたは?」


「見てわからない?あなたたち二人のクラスメートよ」


「……私たち二人の話に部外者の女が入ってこないでくれないかしら?」


「クラスの委員長である私がクラス内で起こっている諍いを仲裁するのはそんなに不自然なことかしら?」


「「……」」

 

 神桜さんと天鳳さんの二人が僕の前でにらみ合い……火花を散らしているように見える。


「引いたらどう?竜崎くんとあなたは初対面のようなもの……そんな強引に距離詰めることじゃないわ」


「碧衣が私を嫌うなんてありえないわ!」


「天鳳さんの言う碧衣くんと今ここにいる竜崎くんは別物よ」


「くっ……」

 

「あなたの席はあそこよ。もうすぐ先生が来て、朝のHRが始まるわ。とりあえずは自席に戻った方が良いわよ……そうね。天鳳さんが竜崎くんに自分の願いを押し付けたいのなら、一旦ゼロから関係を作り直すことね。仲良くなってから再度、頼んでみたら?」


「……ふんっ」

 

 しばらくの沈黙の後、天鳳さんが気に食わない……そんな表情を浮かべながらも大人しく神桜さんの言葉に従い、神桜さんが示した席に着く。


「これで昨日の借りを少しくらいは返せたかな?」

 

 神桜さんはそう僕に笑いかけた後、自分の席に戻っていった。


「ありがとうございます……」

 

 僕はそんな神桜さんにそう告げるので精一杯だった。

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