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申し出

 巨大な狼の魔物と激闘を繰り広げた次の日の朝。

 妹である玲香と行ってきますのキスをした後、高校へとやってきた僕は自席に座り、静かに読書していた。


 陰キャたる僕は朝のHR中に楽しくおしゃべりしている陽キャたちを見ながらひとり出来る読書に邁進するしかない。 

 ちなみにマイベストフレンドであり、僕と同じく陰の者である明渡は机に顔を伏して目を閉じている。


「おっはよー」

 

 僕が読書をしていると、元気のよい挨拶と共に昨日、僕が少しばかりダンジョンで交流した神桜さんが教室の中へと入ってくる。


「あっ……」


 その声へと反応してしまった僕は何となく、彼女の方へと視線を向ける。

 すると、神桜さんの方も僕の方に視線を送っていたようで、ばっちりと目があってしまう。


「……ッ」


「りゅ」

 

 僕の方へと視線を送ったまま……『りゅ』と神桜さんが口から言葉を発し始めた瞬間。

 

 バンッ

 

 勢いよく教室の扉が開かれる。


「……天鳳さん」

 

 教室の扉を開けたのは転校生であり、昨日は朝のHRが終わった後、行方が知れずになった僕の幼馴染を名乗る天鳳さんだった。

 

「……」

 

 天鳳さんがつかつかと僕の方へと近づいてくる。


「えっと……」


 そのまま僕の前に立った天鳳さんは何も言わず、無言でこちらの本を奪い取る。


「え?本……」


「昨日、あなたに関連する場所を回ったわ。あなたが一人で暮らしていた家、あなたの実家、あなたがよく通っていた行きつけの喫茶店、あなたがよく行っていた雑貨店。あなたがよく行っていた本屋、あなたが私と一緒に壁に残した落書き、あなたが記録を打ち立て、名前が掲示されているはずの場所、写真が掲示されているはずの場所……思いつく限りのすべてを回ったわ」


「そ、そう……」

 

「でも、何の痕跡もなかった。何もなかった。建物はすべて別の建物になり、落書きはきれいに碧衣の分だけが消され、記録もなくなっていた。あなたという存在がこの世界から消えたように、ね」


「……僕と天鳳さんが幼馴染だった、ってのが嘘なんじゃない?」


「ありえないわ。私の家には碧衣の写真が一杯あるもの。アルバムの数は百にも届きそうだし、壁一面にだって碧衣の写真が貼ってあるわ。その写真の中には私とのツーショットだってあるわ」


「……」

 

 え?やっぱりヤバい奴じゃない……?こいつ。


「碧衣の記憶がなくなった……それは、多分嘘じゃない。何か、碧衣はこの世界の触れちゃいけない部分に触れ、記憶を消されちゃったんじゃないかと思っているの。何か大きな力が働いている……じゃなきゃ、ここまできれいに痕跡がなくなるなんてありえないもの」


「さよか」


「碧衣!私があなたの記憶を取り戻して見せるわ!だから、一緒に頑張りましょ!」


 その、彼女の申し出には強い意思が込められていた。

 これからに希望を持ち、力強く進んでいこうという決意が込められた言葉だ。


「断る」

 

 だが、そんな申し出を僕はばっさりと断った。

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