夕食
「ふぅー。さっぱりしたぁ」
お風呂から上がり、僕は良い匂いが廊下からでも漂ってくるリビングの方へと戻ってきた。
「良いお湯だった?」
「うん。良かったよ」
「それなら良かった……じゃあ、食べようか」
「そうしようか」
玲香の作った夕食が並べられているテーブルへと僕と玲香は座り、共に手を合わせる。
「「いただきます」」
今日の夕食はデミグラスハンバーグである。
玲香の作る料理の腕はかなり良く、このデミグラスハンバーグも実に美味しい。
「あぁ……そうそう」
「ん?何?」
「今日さ、学校に僕の幼馴染を名乗る天鳳さんが転校してきたんだよね。誰かわかる?僕は知らないから多分、僕が記憶を飛ばす前だと思うんだけど……」
夕食を食べ進めていた僕は妹である玲香に聞こうと思っていたことを尋ねる。
「……天鳳、さん?」
「うん。そうそう」
「知らない……かなぁ」
玲香の答えは『知らない』というものだった。
「ありゃ」
知らない、なんてことはありえないと思うんだけどね?
妹と幼馴染が一切邂逅していませんでしたぁー、なんてことは起こらないだろう。
果たして。その齟齬が現しているのは天鳳さんの幼馴染発言が嘘なのか。
それとも、妹であるはずの玲香が……。
「……その、想像であっていると思うよ」
「ほよ?」
僕が何を考えているのか。
それをなんとなく察しているであろう玲香は僕の予想を……玲香は僕の本当の妹ではないという予想を肯定するような発言を行う。
「いや、別に……」
とはいえ、だ。
別に僕は玲香の方を強く疑っていたわけではないんだけど?
「……」
玲香は俯き、ご飯を食べる手が止まる。
僕と玲香の兄妹関係。
まぁ、何だ。記憶喪失の僕でもわかるくらいには薄氷の上に成り立っているような関係だった。
まず、明らかに僕と玲香の見た目が違う。昔の話は玲香の口から出てくることないし、家に残されているアルバムに彼女の姿はない。
玲香が本当の妹ではないんじゃないか。そんな考えは常に、頭の片隅にはあり続けたわけだが……それでも、僕はこの関係を非常に気に入っていた。
「ごちそうさま」
俯き、俯き続けている玲香を横目にして僕は夕食を食べ終え、空になった食器を持って立ち上がる。
「大丈夫」
そのまま玲香の後ろへと移動した僕は不安そうな表情を浮かべている玲香の頭を撫でる。
「僕は玲香の兄だし、これからも君の兄だよ……記憶を取り戻すつもりもないしね」
「……ッ!お兄ちゃん」
「夕食、美味しかったよ。また明日もよろしくね」
「うん!任せて!」
元気よく頷いた玲香を見て僕は笑みを浮かべてからキッチンの方へと向かい、お皿を水につけてシンクに置く。
「……まだ、ぬるま湯に浸っていたいから」
リビングの方から自室へと戻る途中……リビングにいる玲香に絶対に聞こえないであろう場所で僕はそう、つぶやいた。
「ん?ぬるま湯?」
そして、自分の口から出た言葉に僕は疑問を覚え、首を捻った。
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