まちがえた!!
俺の高校には、マドンナがいる。
高橋真紘さん。
セミロングの艶やかな黒髪に、真っ直ぐ伸びた背筋。
化粧せずとも赤い唇、ぱっちりとした瞳。
笑う時に覗く真っ白な歯、鈴を転がした様な声。
男子生徒の憧れを沢山に詰め込んだ彼女に、俺も例外なく恋心を抱いた。
入学式から半年経った高一の夏、俺は思い切って彼女のロッカーにラブレターを入れた。
成就するなんて思ってない。
むしろきっぱり振られて、今後の学園生活を穏やかに送りたかった。
次の日、ドキドキする胸を抑えながら登校する。
高橋さん、読んでくれたかな……。
今日の放課後、隣の空き教室で待ってるって書いたけど、来てくれるかな……。
俺は後ろの列の席から、真ん中の列の席に座る高橋さんを一日中見ていた。
そして遂にやってきた放課後。
空き教室で高橋さんを待ちながら、心臓が早鐘を打って口から飛び出そうになる。
永遠にも思える十分を過ごし、秒針が12の文字に重なった時。
ガラリと音が鳴って人が入って来た。
高橋さんだ……!
近付いてくる足音、俺は彼女の顔を見れずに、早口で捲し立てる。
「高橋さん!!来てくれてありがとう!!お、俺……、手紙にも書いたけど高橋さんのことが……」
「ストップ」
全部言い終わる前に遮られ、俺は、はへぇ?と間抜けな声を出した。
「あたし、高橋じゃなくて高崎なんだけど」
気の強そうな声音と、その言葉の内容にびっくりして俺は目の前の彼女を見る。
そこに居たのは憧れの高橋さんではなく、高橋さんと出席番号が一つ違う高崎さんだった。
彼女は高橋さんと同じ陸上部で、女子の人気が高い人物だ。
ショートカットにした日焼けで茶色くなった髪に、焼けた肌。
気の強そうな吊り目に、ツンと尖った唇。
高崎さんは、呆れた様に腰に手を当てて俺を見ていた。
俺は真っ青になって慌てる。
「ちょっと、何か言ったら?間違えてるんだから謝罪くらいして欲しいんだけど」
すみません、内心大パニックで声が出ないんです。
俺の様子を見てため息を吐いた高崎さんは、椅子を引いて座る。
「まあ、真紘の事好きになるのは分かるけどね。あの子女子にも男子にも分け隔てなく優しいし、あたしだって恋人にするなら真紘が良いわ」
すらりとした脚を組んで、頬杖をつきながら高崎さんは言う。
俺は共感して、激しく頷いた。
「そうなんです!俺が彼女を好きになったのも、ノートの落書きを褒めてくれたからで……!」
「へえ、あんた絵描くんだ。いいじゃん、真紘ああ見えてアニメとか好きだから、絵描いてアプローチしたら?」
アプローチという言葉に、俺は一気に意気消沈した。
「い、いえ……。俺は玉砕するつもりだったからアプローチとかはいいんです」
へなへなと背中を丸める俺に、高崎さんは、はぁ!?と声を荒げる。
「なにそれ!めちゃくちゃダサいんだけど!あたしそういう考え方嫌い、努力もせずに諦めるなんて絶対認めないから!」
俺は、ぐっと拳を握る。
本当は諦めたくない、絵を褒めてくれた時みたいに、高橋さんをずっと笑顔にしたい。
俯いている俺に、高崎さんは立ち上がって近付き、俺の背中をバンっ!と叩いた。
衝撃に驚いて動けないでいる俺に、高崎さんは鋭い顔で告げる。
「あたしがサポートしてあげる。あんた、何としてでもしっかり真紘に告白しな!」
「はへぇ??」
またも情け無い声が漏れて、高崎さんにつっこまれる。
「情け無い声出すな!男磨きしろって言ってんの!」
高崎さんの目は本気だ。
俺は頷くしかなかった。
「分かったらならよし、明日からこの教室で、昼休みに真紘攻略作戦を始めるよ」
唐突な展開に頭は付いていっていないが、なんとか返事をする。
にかっと笑った高崎さんは、この日から俺の友人になったのだ。




