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第三羽 物書きたるもの鋼メンタルであるべし

 山崎さんが【戦争】を【創作】しようとしたので、【世話人】に通報すべく久々に翼を広げて飛びました。


挿絵(By みてみん)


 【世話人】というのは【東京都千代田区千代田1丁目在住 HN(ハンドルネーム) アマテラスの末裔まつえいさん】です。

 表舞台には出てきませんが、米中露の3極構造のかなめとして世界の平和を支えている、アジア太平洋地域の裏ドンです。


 戦争の火種となり得る存在は見つけ次第消すという。

 とても恐ろしい人です。


 私は【世話人】から副業として、戦争の火種になりそうな危険人物の情報提供を頼まれています。

 だからこの通報は仕事の一環でもあるんですね。


 空から到着したら、むやみに翼を使うなと叱られました。

 そして、地下室に連行されて羽を全部むしり取られました。


 ひどいです。


 帰りは電車で帰れと言われて、新幹線のチケットを渡されました。

 でも仕事は認めてもらえて、お駄賃として【ブラックカード】をもらえました。


 新幹線のグリーン席は快適でした。しかも飛ぶよりも速いです。

 帰り際に翼は使うなと念押しされましたが、もう飛びませんよ。


 翼が厄介というのはトリアタマなりに分かるんです。

 私の羽は1枚1枚が死者蘇生や不老不死の秘薬の材料になるとかで、かつては欲しがる人達に追い回されたり、羽1枚の奪い合いで争いが起きたりしました。


 不老不死なんて人間が妄想するほどいいモノじゃないんですが。

 勝手に【不死鳥フェニックス】とか変な渾名つけないでほしいですねー。


………………

…………

……


 土日空けて月曜日。


 朝からなぜか疲れ切っていた山崎さんと要件定義の整理の仕事をしました。

 エンタープライズシステムの開発なだけあってボリューミーですねー。要件定義とか以前に、この規模に対して人員2人ってどうなんでしょうねー。

 午後から社長が現状確認に来るそうですが、どう説明しましょうかねー。


 そんなこんなでお昼ご飯の時間です。

 私は今日も好物の焼き鳥ですよ。


「山崎さん朝から疲れてましたが、土日何があったんですか?」

「何故か妻の機嫌を損ねてな。漢字の書き取りをさせられてたんだ」


 山崎さんがポケットから短冊を出しました。

 毛筆のぐにゃぐにゃの文字で【世界平和】と書かれています。


「俺は字が下手だからITの道に進んだのに。DVだ……」


 山崎さんはうなだれていますが、なんか親近感を感じます。


「そういえば、鳥頭とりあたまさんは作家になりたいと言ってたが、何がきっかけでそう考えるようになったんだ?」

「昔出会った友達が壮大な物語を書いていたので、私も書きたくなったんです」


「ほぅ。それはどんな物語なんだ?」

「これです」


 【源氏物語】


「……これの作者は、その友達とは違うぞ……」


 分かりますよ。彼女は人間だからもう亡くなっていますよね。

 そういえば、原稿を墨で汚したお詫びに羽を1本あげたんでしたっけ。

 使ってなければいいですが。


「まぁ、いろいろありまして。執筆諦めてた頃は、逆光源氏みたいな感じで男の子を育ててみたいとか考えたこともありましたが、やっぱり物語を書きたいなぁと思いまして」

「なんでコレ読んでそんな発想になるんだ? 本当に読んだのか? それに作家は憧れだけでなれるようなもんじゃないぞ」


 憧れだけじゃなれないんですか?


「字が書ければ作家になれると思ってましたが、他に何か必要なんでしょうか」

「ああ、あの仕事をするにはとにかく強靭なメンタルが必要だ。物書きの心得。【物書きたるものはがねメンタルであるべし】だ。」


 おおっ。今日も出ました。物書きの心得。


「作家業は孤独な戦いだ。作品作りにはすごいエネルギーが必要だが、魂と情熱を注いだ作品が全く読まれず評価もされないなんてのはザラにある。それに1人で耐え続ける必要がある」


 うーん。作品を書いたことがないからよくわかりませんね。

 あっ。山崎さんの弁当袋にランチョンミート発見。

 今日も鶏肉入りですねぇ。


「俺も投稿サイトでの活動でメンタルを鍛えられた。投稿日にPV1桁というダメージにも耐えられるぐらいに。そのおかげで結婚生活にも耐えられた。女はメンタルの強い男に惹かれるからな。未婚の若造にはモテるためにも創作活動をお勧めしたい」


「何故だかよくわかりませんが山崎さんの【女語り】に説得力を感じません」

「なっ! これでも俺は既婚者だぞ」


「さっき奥さんの話が出た時に正直驚きました」

「失礼だぞ! よく言われるけど」


「そのセンスで描かれた女性キャラとか、読むのがちょっと怖いです」

「ちゃんと描いてるぞ! ハイスぺイケメンに振り向いてもらえることを夢見るモブ女の切ない心情とか、一歩前に踏み出す勇気が欲しいと願う健気な乙女心とか」


「何を書くのも自由ですが読者に不快感を与える創作は汚物です。自分の女性経験から作風を考え直して、そのランチョンミートを串に刺して差し出すのです」


…………


 今日もランチョンミート串を美味しく頂きました。

 でも山崎さんは早退してしまいました。

 まぁ、100年も生きてない若造のはがねメンタルなんてたかがしれてますね。


 あっ。見覚えのあるおじいちゃんがこっち来ます。

 そういえば、今日は午後一で社長が来る予定でしたっけ。


「お久しぶりです。鳳凰ほうおう様」

「タケ坊久しぶりー。元気してたー?」

●オマケ解説●

 【世話人】は心の中で叫んだ。 「戦争の火種はオマエやー!」

 誰かが手にしたらマジで危ない羽のために、飛行経路に捜索隊を出したとか。


 上場企業の基幹システム総入れ替えなら、数百人月ぐらいの工数投入するものだけど、それが2人ってどうなんだろう。

 そしてその貴重なメンバーの1人は、ランチョンミート串を掠め取るためにメンタルをバッキバキに折られた模様。なんてひどい。


 4桁生きてるトリ娘は、もしかして社長と知り合いか? 

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― 新着の感想 ―
 最後の二行、ヒロインはタケ坊とは呼ばれないと思うので、鳳凰様と呼ばれたのがヒロインということになりますが…鳳凰?  ほお~…。
もしかして【世話人】はテル子様で、社長がタケ坊=山田タカシ?と繋がっていると、いろいろとひどい…(;^ω^)<むしり取った羽のその後も気になりますが……はたして?
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