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第二羽 物書きたるもの創造力の真価を理解すべし

 【開発3課】のエンジニアが全員退職してしまいました。


 3人が辞めた日以降、案件の担当者を決める会議を連日実施しました。


 私は議事録作成をがんばりました。

 ちゃんと【忖度そんたく】しました。

 次々と人が辞めて、誰も居なくなってしまいました。


 山崎さんが呼び出されて鈴木部長と会議をしました。

 ここでも議事録で【忖度そんたく】しました。


 山崎さんが【責任者】として【開発3課】に異動になりました。


 私はトリアタマなので難しいことはわかりません。

 仕事がどうなるかもわかりません。


 でも、作家を目指す山崎さんと2人だけの部署になったんだから、物書きの心構えついていろいろ話を聞こうと思います。


………………

…………

……


 昼休みになって山崎さんが事務所に戻ってきました。楽しいお弁当タイムです。

 でも、山崎さんは私のお弁当を見てぎょっとしています。


挿絵(By みてみん)


鳥頭とりあたまさん。弁当として焼き鳥を持ってくるのもアレだが、焼き鳥のくしを万力に固定してどうするんだ?」

「焼き鳥っていうのは、くしを机に固定してかぶりつくのが通の食べ方なんですよ」


 言いたいことは分かります。

 人間から見たら汚い食べ方に見えるのでしょう。

 でも、これには切実な理由があるのです。


 私の両腕は元は翼。羽ばたいて飛ぶためのものです。

 長年の練習でできることは増えましたが、物を持ったり細かい動きをするにはかなり集中力が必要なんです。


 串を手に持つと、集中力が切れた時に自分の喉を刺してしまうのです。

 手を使っての食事は私にとっては危険なのです。


「山崎さんも、お弁当が缶詰ってどうなんです?」

「普段は愛妻弁当なんだがな。胃の調子が悪いから今日はランチョンミートにしたんだ」


 山崎さんはここ数日、毎日お客様の所に打ち合わせに行ってます。

 

 受注したのは、社員数4000人規模の上場企業の基幹システム総入れ替え。

 お客様の会社の組織形態に合わせるためにスクラッチ開発で進めるそうです。


 打ち合わせから帰るたびに顔色が悪くなるのが気がかりでした。

 胃の調子が悪かったんですね。


 そして、ランチョンミート。

 鶏肉入りの銘柄ですか。


 おいしそうですねぇ。


「いけませんよ。胃の調子が悪いときにそんなむつこいものを食べたら、逆流性食道炎になってしまいます」

「そうなのか?」


「そうです。午前中鈴木部長が来た時も納期厳守と念押しされました。激務は来週も続くんです。胃は大事にしないと」

「うっ……。また胃が痛くなってきた……」


「さぁ。胃を大事にするためにも、そのランチョンミートを串に刺して万力に固定するのです」


…………


 ランチョンミート串を美味しく頂きました。

 食べ物を掠め取りたくなるのは癖です。

 でも、貰ってばかりでは悪いので、ブラックコーヒーを淹れました。


 山崎さんがぐったりしてしまいましたが、聞きたいことがあるんでした。


「山崎さんは作家になりたいんですよね。どうすれば作家になれるんですか?」

「あー、俺は物書き目指して創作をしているが、作家という職業に憧れは無いんだ……」


 あれっ? 作家になりたいわけじゃないんでしょうか。


「だったら、何を目指して創作しているんですか?」

「まぁ、作家になって書籍を出版したいってのも創作趣味の目標の1つだけどな。創作にはそれ以上の可能性があると考えている。物書きの心得【物書きたるもの創造力の真価を理解すべし】だ」


 おおっ。

 何か面白そうな話になってきました。


「人間には【創造力】がある。これは最弱の獣である人類が生き残るために獲得した力で、本能として受け継がれている」


 壮大な話ですね。


幻想(ファンタジー)を創り出し集団で共有することができる。この本能によって人は大きな集団で行動ができる。これこそが文明を創り出した原動力だ」


 なんか分かる気がします。

 人間とトリの集団行動は性質違いますね。

 トリが集まると【烏合うごうの衆】とか言われます。


「まぁ、その力の副作用なのか人間は現実(リアル)より幻想(ファンタジー)に固執してしまう癖があってだな。幻想(ファンタジー)に酔った集団ってのは、ヤバイ事をしたりなぁ」


 これも心当たりありますねー。

 私は正体バレるとなんでか集団で追い回されるんです。

 なんにも悪いことしてないのに。幻想(ファンタジー)のせいですか。


 なんか、山崎さん眠そうにしてませんか?

 連日の深夜残業の疲れですか?


「貧困や憎悪の幻想(ファンタジー)を煽られると【戦争】起こしたりとかなぁ。そのぐらい幻想(ファンタジー)っていうのは人間を強力に縛るんだ」


 実年齢4桁の私は何度も戦争を見てきました。


 終わって何もかも滅茶苦茶になると、貧困や憎悪と共存したほうがマシだったと皆反省するんですが、世代を超えるとまた繰り返すんです。

 私は死にませんけど。見てるのもつらいです。


 あれも幻想(ファンタジー)が原因でしたか。

 こわいですね。


 そして山崎さーん。話の途中ですよー。寝ないでくださーい。


「自分の命を差し出してまで集団で没頭できる幻想(ファンタジー)という意味では、【戦争】は人類が創り出した至高の【創作】なのかもしれんなぁ……」


 まさかそれが【創造力の真価】?

 山崎さんは【戦争】の創作を目指しているんですか?


 大変です。

 これは【通報案件】です。

●オマケ解説●

 言い伝えでは、ハルピュイアは食べ方が汚いとされている。

 両腕が翼なんだから、キレイに食べるの無理だよね。


 そして、胃の調子が悪いときにランチョンミートはやめた方がいいです。

 それ以上に、すきっ腹にブラックコーヒーはやめた方がいいです。

 

 胃痛と疲労で朦朧としながらうっかり語ってしまった妄言。

 人間だったらスルーしただろうけど、実年齢4桁で戦争の現場を何度も見てきたトリ頭は信じてしまった模様。


 まぁ、史実的にも集団を戦争に駆り立てるのは幻想(ファンタジー)なんだろう。

 社会に不満が溜まった時に役者上がりが政治家になったらある種のフラグ。

 

 役者には、観客を沸かせることに全振りするという習性がある。

 一番政治家やらせちゃいけない人種。


 彼等にとって【戦争】は、至高の檜舞台になるのだ。


 ひどい。ひどい。

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― 新着の感想 ―
状況が悪化していく・・(;´・ω・)<鳥頭ちゃん1人の部署になっちゃうよ? うーん、戦争が至高の創作とは・・むしろ、想像力の放棄な気がしますが・・【通報案件】が穏便なモノであれば良いのですが・・(。…
 鳥がトリ食ってる…。  最高速度から類推してツバメの仲間かと思ってましたが、猛禽だったようですね。  で、妄言を真に受けて通報しちゃうんですか?  またクビになりませんか?
共食い……! 長く生き過ぎて惚けてるのかと思いましたが、トリ頭なだけですか。 【忖度】しただけなのに……(笑)
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