後日談:物書きたるもの創作物には責任を取るべし
俺は山崎タカシ。妻子持ち創作趣味持ちの50代オッサンだ。
子供4人は既に自立していて、既にセカンドライフモードの社内ニートさ。
今でこそ最高の幸せ者だが、昔は本当にダメな奴だった。
田舎町の零細加工業の三男だが、勉強もダメ。運動もダメ。
ダメな俺は、高校卒業後に作家を目指して上京。
でも、何処に何を持ち込んでもかすりもせず。
すぐに餞別を使い果たして、ヤケクソで高級キャバクラで食い逃げしようとしたときに、彼女に出会った。
店のエース。藤原香子を名乗る年齢不詳の美人。
無銭飲食に逆上した店員にボコボコされて店外のゴミ箱に放り込まれた俺を、自宅に連れ帰って治療してくれた。
そしてそのまま同棲生活に。
俺はフリーターとして職を転々。
生活費は主に夜職で稼ぐ香子の世話になった。
その後、流れで結婚。
結婚後の香子は厳しかった。
夫になったんだから人並み以上に稼げと、スキルアップを強いられた。
逃げようとしたら、女と思えない剛腕でボッコボコにされた。
妻は厳しかったが、逃げようとさえしなければ優しかった。
俺にIT技術の適性があると見るや、レベルに合った職場を紹介してくれた。
IT関係企業の派遣社員を転々としながら、俺は技術者としての能力を磨くことができた。
そうこうしているうちに妻は出産。
専業主婦として家事と育児を完全に両立した。
ワンオペ育児はつらいだろうと言ったら、千年前に比べたら楽だとのこと。
友達から貰った羽の呪いで実年齢は千歳越えとか、出産後はそんなミレニアムジョークが出るようになったが、俺はスルーした。
仕事に育児に充実した日々は過ぎて、息子二人と娘二人は高校卒業と同時に自立。
妻との2人暮らしはそれほどお金もかからない。
だから、俺は社内ニートとしてゆるく働けばいい。
久々に再開した、趣味の創作を楽しみながら。
………………
…………
……
久々の大仕事をグレートな感じで終えて、その時執筆した創作をサイトに掲載。
1週間経過してもやっぱりPVは伸びないが、そこは気にしない。
書斎でくつろいでいたら妻が来た。
50代でも年相応に美人だ。
「アナタの創作に苦情が入ったわ。随分失礼なものを書いたのね」
妻が俺の趣味に言及するのは珍しい。
そういえば、さっきまでリビングに来客が来ていたようだな。
「お前に来客とは、珍しいじゃないか」
「千年ぶりに会った友人よ」
ミレニアムジョークはスルーだ。
「それはすまなかったな。穏便に話はついたのか?」
「ええ。お詫びに【取材】に応えたわ。これで少しは懲りて頂戴」
よくわからないが、まぁ困ったことにはならないだろう。
それよりも、昔の事を思い出していたから、ふと気になることが出た。
夫婦生活も長いから、半ばリタイヤの今なら聞いてもいいだろう。
「なぁ、初めて会った時、なぜ俺を助けたんだ?」
「私の名前を【香子】って読んだのが気になったのよ」
そういえば、初対面で名刺を読み間違えたんだっけ。
「それで結婚までしたのか?」
「結婚したのは、子供ができたからよ」
えっ? なんか順番無茶苦茶じゃないか?
心当たりはあるけど。
「まぁ、千年前に病床で死を覚悟した時に魔が差してね。さっき来た友達のハルピュイアから貰った羽を悪用しちゃったのよ。本当。不老不死なんてロクな物じゃなかったわ」
「えー、話が読めないんだが、創作ネタ提供か?」
「若い娘に戻されて、子供を授からないと老化もしないし死ねない呪いって。終わらせるために何百回も再婚したけどダメだったし。つらかったわー」
「おい。さらっと恐ろしい人生語るなよ……」
出会った時から只者じゃないと思っていたけど、予想以上だ。
「でも、貴方に出会って救われたわ。血筋の相性なんでしょうね。子供を授かって、老化も始まって。そして、もうすぐ人間として死ねるわ」
こわいけど、ツッコミどころはあるな。
「それは血筋じゃないと思うぞ。俺は加工業の3男で特別な家系じゃない」
「じゃぁ、他に何があるの?」
「うーん。相手の男がオマエとの子供を望むかどうかとか、そういう事じゃないか? 呪いってそういう物だろ」
「確かに。そういう考え方もできるわね」
俺が思うに、たぶんこっちが正解だろう。
あの頃の俺は、タカコと家庭を築けたなら他に望むものは無いと、毎日そればかり願っていたからな。
えーと、そうなると、スゴイ事に気付いてしまった。
「だとしたら、何百回再婚しても、誰一人オマエとの子供を望まなかったってことだよな。ある意味すごいぞ。【喪女】を超越した【千年喪女】だ。そんな女、創作物でも見たこと無い」
「……されば、夫のもてふること、かへりて益なきものにこそありけれ。ゆゑに、ただしからぬ言の葉などは、ことさら改めず、うち捨てて侍りしなり」
えっ? それはどういう意味だ?
「少しは自分で学習しなさい!」
パンチ パンチ パンチ
チョップ アッパー チョップ アッパー
ビンタ ビンタ ビンタ ビンタ ビンタ ビンタ
………………
…………
……
後日、某小説投稿サイトにPN【トリアタマ】による作品が投稿された。
【ゴミ箱から拾った作家志望の身の程知らずなダメ男をいとも簡単に手玉に取り内助の拳で強い男に鍛えて子供4人を自立するまで育てた妻が語る男の扱い方AtoZ ※R18もあるよ】
或るダメ男の実例に沿って、男という哀しい生き物の転がし方について千年分の知見がまとめられた本作品は、既婚未婚問わず多くの女性の支持を集める名作となった。
そして、山崎タカシの妻タカコ(旧PN:紫式部)からの【取材】を基にしながらも、素材を活かす表現力が秀逸であると或る編集者の目に留まった。
こうして、トリアタマこと作家になりたいハルピュイアは夢への道筋を手に入れたのであった。
めでたし。めでたし。
●オマケ解説●
千年前にハルピュイアに筆を教えようとした作家。
藤原香子、ペンネーム【紫式部】。
享年は不詳とされているが、ハルピュイアの羽の呪いで密かに生きていた。
妻を千年の呪いから救ったのは夫の愛。
美談だけど。美談のはずなんだけど……。【余計な一言】の罪深さよ。
※平安言葉解説
「されば、夫のもてふること、かへりて益なきものにこそありけれ。ゆゑに、ただしからぬ言の葉などは、ことさら改めず、うち捨てて侍りしなり」
↓現代語訳
「夫がモテてもいいこと無いから、非モテ言動はあえて直さなかったけどね」
男と女は時を越えてもすれ違う。





