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【完結】狭間で俺が出会ったのは、妖精だった  作者: 紫羅乃もか
間章②団内個人戦トーナメント開催!
75/123

蓮VSスミレ!?

番外編第二弾!

今回は騎士団員のトーナメント戦です、

魔法の特性や戦法も見所ですのでぜひお楽しみください!


【お知らせ/2025年6月29日】

第3章終了後に投稿済み間章①と本投稿の間章②の内容を入れ替えました。


 ネイトエール騎士団──その本部で突如発表されたのが、「団内個人戦トーナメント」の開催だった。


 ことの発端は、食堂でのこと。


 木造りの長テーブルに、いつものように朝食が並び、団員たちがざわざわと談笑している。

 蓮もその一角に座り、ぼんやりとスープを啜っていた。


 そんな中、突然ホクトが現れ、朗々と声を張り上げた。


「本日午後、団内個人戦トーナメントを開催する! 目的は実力の把握と、適度な気晴らしだ!」


 一瞬の静寂のあと、食堂内がざわめきに包まれる。

「やった!」と喜ぶ者もいれば、「えぇ〜またぁ?」と頭を抱える者も。反応はさまざまだが、そのどれもがどこか楽しげだった。


 ただし──今回の参加者は「希望者」ではない。

 選ばれたのは、“バッジを持つ正式団員”のみ。すなわち、ホクトが認めた戦力たちだ。


 スプーンを持ったまま固まる蓮。


「……え、いきなり?」


 その反応を面白がるように、ホクトはにやりと口角を上げた。


「参加は自由だが──すでにお前も名簿に入ってるぞ。昨日の夜のうちにな」


「誰の独断だよ!?」


「俺だ」


 あまりに堂々とした返答に、蓮は思わず眉をひそめる。


 ホクトの話によれば、「剣の振り方ひとつに心の状態が出る。だからこそ、今のうちに見ておきたい」とのことだった。


(……まあ、たまにはこういうのも悪くないか)


 実際、スミレも、リリスも、美穂も、そしてタオまでもが名前を連ねていた。

 つまり、これは”全員参加”ではなく、“選抜強制参加”。

 名誉あるバッジを持つ騎士団員の証として、逃げ道など初めから用意されていなかった。


(この顔ぶれで戦うの、初めてかもな)


 そんなふうに思ったのは、ほんの数秒後だった。


「第1試合──シェリー vs 蓮!」


 会場に張り出されたくじ引きの結果を見て、蓮はがく然とする。

 その隣でスミレが、どこか申し訳なさそうに、けれど楽しげに笑っていた。


 ***


 訓練広場にはいつもより多くの視線が集まり、ざわめきが広がっていた。

 団内個人戦トーナメントの開幕戦──掲示板に掲げられた『シェリー vs 蓮』の組み合わせに、団員たちは期待と興奮を隠せずにいた。


 蓮は剣をぎゅっと握りしめ、内心でつぶやいた。

(……マジかよ……)


 向かい合うスミレは、いつものようにやわらかく微笑んでいた。

 月明かりのようなその笑顔に、蓮は一瞬、剣を握る手が鈍った気がした。


「よろしくね、蓮」


 その言葉が、なぜか心にずしんと響く。

 戦うって、こういうことだったか? 

 好きな子を前にして、刃を向けるなんて……胸の奥がざわついて、気持ち悪くなる。

 それだけじゃない。スミレの立ち姿、指先の柔らかな動き、少しだけ伏せた横顔──すべてがあの、イリア姫を彷彿とさせる。


(くそ……やっぱり、似てるんだ……)


 その記憶が、頭の中でぐるぐると回る。彼女の瞳。声。笑顔。

 全部、スミレと重なって、脳が拒否反応を起こす。


 なのに──彼女は笑って言った。「よろしく」って。


(ああもう……なんなんだよ……!)


 開始の合図は、一本の笛の音だった。


 その瞬間、蓮はスミレの動きを警戒し、剣を構えて距離をとる。だが、彼女は動かない。にこ、と軽く笑ったまま、ただ足元の地面に指先を添えた。


 ──ふわっ。


 足元からそっと風が巻き上がり、無数の淡いピンクの花びらが渦を巻いて空中に舞い上がった。

 まるで薄桃色の霞のように視界を覆い、蓮の目を一瞬奪う。


(……見えねぇ!)


 思わず後退しながらも、蓮は咄嗟に剣で目の前を払う。その刃先に花びらが引き裂かれ、わずかな隙間からスミレの姿が見えた……そのとき。


 水が蓮の足元を掬うように這い寄る。細く流れる小川のように速く、気付けばもう遅い。足を絡め取られ、身体がぐっと揺らぐ。

 その刹那、スミレが右手を振るう。

 彼女の指先が描いた軌跡をなぞるように、水が鋭い刃の形を成して跳ね返った。


「っ……!」


 飛び退き、間一髪でかわす。服に一筋の裂け目が入り、冷たい水滴が肌に触れた。


(手加減……してない、な)


 息を飲む。

 それでもスミレの表情は、どこか楽しげですらあった。戦いを楽しんでいるというよりも、蓮との時間そのものを楽しんでいるような、そんな笑顔。


(……ズルいだろ、それ)


 こんなの、勝てるわけない。いや、勝ちたくなくなる。

 でも……本気じゃないって見透かされたら、それこそスミレは怒るだろう。


 花が再び舞い、今度は風に乗って螺旋を描く。その中心に、スミレがいた。まるで舞台の主役のように、凛として美しかった。


(……綺麗だな)


 つい見惚れてしまう。

 その瞬間、スミレが動く。

 足場の花が弾け、水が跳ね、火花がその中心から浮かび上がる。


(火!?)


 スミレが掲げた手から、わずかに赤い光が溢れ、次の瞬間には小さな炎球が宙を舞っていた。花と共に揺れ、蓮の方へと放たれる。まるで蝶のように美しく、しかし確実に熱を帯びている。


 蓮は地を蹴った。

 剣を振る。風を斬る。走る。全力で! 


「……本気で、いくぞ!」


 言葉ではなく、意志で告げる。

 その瞬間、スミレの顔から笑みが消えた。


 蓮はスミレの攻撃の隙をついて、懐に入ると剣を振り上げた。

 その刹那、スミレの動きが一瞬止まった気がした。


 彼女の瞳が揺らいだ。ほんのわずかの迷い——それは、蓮を攻撃することへの躊躇いのようにも見えた。


(……その顔! ずるいだろ!)


 蓮はその一瞬の動揺に気づき、剣の動きを緩めた。だが同時に、自分も複雑な気持ちに胸が締め付けられていた。


(好きな人に刃を向けるなんて……こんな試合、どうしたらいいんだ……?)


 胸の奥でせめぎ合う想いが、刃を重くした。

 その動揺を見逃さなかったスミレは、ふふ、と小さく笑った。

 次の瞬間、軽やかな風が蓮の体をふわりと包み、ほんの少しだけ宙に浮かせる。


「あ!? おい! スミレ……!」


 蓮は驚きの声を上げたが、スミレのいたずらっぽい笑顔に、怒ることもできなかった。

 ふわりと浮かび上がった蓮の頭に、ぱっと小さな花が咲いた。まるで舞台のワンシーンか、アニメのワンカットのようで、思わず笑みが漏れる。


「ね、こういうのもアリでしょ?」とスミレはにっこり。


(く、くそー!)


 遠くから、タオの屈託ない大笑いが響いてきた。

 蓮の頬が熱く染まり、屈辱感に胸がぎゅっと締めつけられる。


(この笑顔のせいで、ますます戦いづらい……!)


 蓮は剣を構え直し、真剣な眼差しでスミレを見据えた。


「……今度こそ、手加減なしだ!」


 しかし、その一瞬の油断が命取りだった。

 スミレは軽やかに一歩後退すると、手をひらりと動かす。

 その動きに合わせて、地面から一筋の蔦が伸び、蓮の足元を絡め取った。


「わっ!」


 思わず足を取られ、バランスを崩す蓮。

 宙に浮いた小さな花がひらりと舞い落ち、まるで彼の動きを嘲笑うかのように見えた。


 スミレの目はきらりと輝く。

「……今よ!」


 軽やかな風が巻き起こり、蓮は思わず体を流される。

 必死に剣を振るうが、地面からの蔦と風の連携に抗えず、そのまま足を踏み外してしまった。


「はっ……!」


 そのまま蓮は場外の砂利の地面に転がり落ち、試合終了の鐘が鳴った。


「第1試合、シェリーの勝ち!」


 会場からは歓声と拍手が巻き起こった。

 蓮は悔しさで顔をしかめながらも、どこか満たされた気持ちも感じていた。


(負けたけど……なんだよ……この気持ち)


 蓮の前にスミレの手が差し伸べられる。


「蓮、ありがとう。楽しかったわ」


 いつだって彼女はこうやって手を差し伸べる。


「ん、俺も楽しかったよ……スミレのやり方はずるいけどな!」


 蓮はスミレの手を握って立ち上がる。

 初めてスミレの手を握った時よりも、ずっと温かく、そして確かな力が伝わってきた。

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― 新着の感想 ―
お、ここと入れ替わっていたんですね。 トーナメントも良い息抜きです。 (*´ω`*)
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