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狭間で俺が出会ったのは、妖精だった  作者: 紫羅乃もか
第3章 魔法の光は過去を映す
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次の任務

【お知らせ/2025年5月18日】

読みやすさを意識し、プロローグを三部構成に分割しました。冒頭、大きな追加描写あります。見なくても本編楽しめますが、読んだ方が楽しめるかも!よければぜひチェックしてください!

 朝靄に包まれた城門が、静かにその姿を現した。

 石造りの城壁はまるで眠りから目覚めた巨人のように、堂々とそびえている。

 高く積まれた石のひとつひとつに、何百年もの歴史と騎士たちの誓いが刻まれているかのようだった。

 その風格に、蓮は思わず息を呑んだ。


 ネイトエール──騎士団の拠点にして、彼がこの世界で“居場所”を見つけた場所。


 ギィ……と、門が音を立てて開かれる。


 蓮はその重厚な響きに背筋を正し、そして一歩、足を踏み出した。

 その背後には、戦いを終えて疲れた面持ちの仲間たちが静かに続く。


 だが、城内に一歩足を踏み入れた瞬間、蓮は空気の違いに気づいた。

 騎士たちの視線。鋭く張り詰めた空気。

 まるで、見えない何かが動き出しているかのような、沈黙のざわめき。


 その静寂を破るように、廊下の奥から一つの足音が響いてきた。


 現れたのは──ホクトだった。


 まるで最初からすべてを見通していたかのような、落ち着いた佇まい。

 感情の揺れ一つ見せないその表情に、蓮は思わず背筋を伸ばす。


「よく戻ったな」


 その言葉には、驚きや安堵の気配は一切なかった。まるで、蓮たちがこうして無事に戻るのは当然のことだとでも言わんばかりの口調だ。蓮はその視線を受け止め、少しだけ心の中で納得する。ホクトなら、きっとそうだろうと。


 ホクトは冷静に、だが確実に蓮の前に立つと、手にした騎士団のバッジを差し出す。そのバッジは、蓮がかつて見たことのあるもので、今、ようやくその意味を深く理解することができた。


「話は全部聞いた。お前の覚悟は十分だ」


 ホクトは言いながら、そのバッジを蓮の前に差し出した。


「これをお前に渡す」


 蓮はそのバッジを受け取ると、その重さを胸元で感じた。それは単なる金属の塊ではない。これから自分が担うべき責任を象徴するものだった。過去の戦いではなかった重み。それは、これからも続くであろう戦いの兆しでもあった。


「これでお前も正式に騎士団の一員だ」


 ホクトは冷静に言いながら、その目に誇りが宿っているのを蓮は見逃さなかった。自分が正式に認められた瞬間。これからの自分がどこに向かうのか、少しだけ見えた気がした。


 だが、ホクトはその後、ほんの一瞬の間を置いて、次の言葉を口にした。


「だが、安心していられるのはここまでだ。すぐに次の任務が待っている」


 蓮は眉をひそめ、警戒の念を強くした。何かが待っている。いつものように、ホクトの言葉にはただの命令以上のものがある。


「王都イシュタルに向かう用ができた。お前も同行しろ」


 ホクトの言葉が蓮の心に鋭く響いた。


 その瞬間、タオが反応を見せた。


「イシュタルか……」


 彼は何かを思い出したように眉をひそめ、しばし無言だった。その言葉の奥には、かすかな冷たさが含まれており、何か過去の記憶を呼び起こしたかのようだった。タオは何も言わず、ただ静かに下を向いた。だが、彼の目には深い思慮が浮かんでいた。心の中で揺れる感情があるのだろう。


 ホクトはそんなタオを見やりながら、冷静に続けた。


「タオ、お前には別件でやってもらいたいことがある。イシュタルに同行するのは蓮。お前とミネルを手配してある」


 その言葉に、美穂は何も言わずに黙って立ち止まり、周囲を見渡した。しばらく黙っていた彼女が、ふと口を開く。


「私も行きたい」


 その言葉には、他の誰もが驚いたような空気が漂った。美穂の顔には、決意と覚悟が込められていた。蓮は一瞬、目を見開いたが、すぐにその目を落ち着かせた。彼女が何を決意したのか、理解できたからだ。


「母を探すために、イシュタルに行きたい」


 美穂はその言葉を静かに、しかし確かに口にした。


 ホクトは少しだけ黙り、じっと美穂を見つめた。やがて、彼の目に一抹の柔らかさが浮かび、「勝手にしろ」とだけ言った。だが、それには余計な言葉を省いた、ある種の許しの気持ちが込められているようにも感じた。


 スミレは黙ってそのやりとりを見守っていた。彼女の表情は冷静そのもので、感情を顔に出すことはなかった。しかし、彼女の心の中では何かが揺れているのが蓮には分かった。普段の冷徹な姿とは違い、スミレには決して見せない一面があるようだ。


 突然、スミレは静かにホクトの方に歩み寄った。その足音が、静かな城内に響く。


「ホクト様、私も同行させてください」


 その声には強い意志が込められていた。だがホクトは、その言葉を聞いた瞬間、複雑な表情を浮かべた。


「シェリー、お前はリリスと城に残れ。彼女のケア、見張りを頼む」


 その言葉には、一見冷徹にも感じられる指示が含まれていた。


「でもっ……」


 スミレは思わず口にしたが、その声には抵抗する余裕がないことがわかった。彼女は少し目を逸らし、唇を噛むと、もう何も言わずに黙り込んだ。そして、すぐに答えた。


「わかったわ。リリスが心配だもの」


 リリスはその場に近寄り、申し訳なさそうにスミレに声をかけた。


「ごめん、シェリー。あたしのせいで……」


「そんな。いいのよ」


 スミレは穏やかに答えると、少し微笑みを浮かべた。


「女の子同士、女子トークでもして盛り上がりましょう」


「じゃあ、決まりだな」


 ホクトは軽く手を打って、場を締めるように言った。そして、最後に蓮を見て、静かに告げた。


「蓮、イシュタルへの出発は明日を予定している。今日は早く寝て、明日に備えろ」


 その言葉に、蓮は静かに頷くと、決意を新たにした。これから進むべき道が見えてきた気がした。明日、イシュタルへ向かうことが、ひとつの新たな挑戦の始まりだということを。


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― 新着の感想 ―
まだ、リリスは信用されていない? ひょっとして再発の懸念があるとかでしょうか? サタン関連はまだまだ謎が多く、知りたいことだらけですね〜。
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