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悪役令嬢なのですが、なぜか「ざまぁ」されずに婚約成功しました〜それどころか、幸せな新婚生活を送っています〜

作者: はるてぃー

 

 どうも、こんにちは。

 私の名前は、ミスエナ・ホーランド。

 ホーランド公爵家の一人娘。


 突然だけど、私、転生者なの。


 死因は過労死。

 やっぱ人間社会って怖い。

 あんなにかよわくて、尊くて、そして天使のように美しい女性を一日22時間労働させるなんて。


 けど、逆に良かったのかもしれない。

 あの耐え切れないほどの眠気と苦痛を味わなくていいから。


 まぁ、そんなの話はどうでもよくて、今の私の話をしましょう。

 さっきも言ったように、私はホーランド公爵家のジト目が特徴の可愛い一人娘、

 ミスエナ・ホーランドとして生まれ変わった。


 最初は少し戸惑った。

 気がついたら、全然知らない場所で赤ちゃんになってるもん。

 遂に気がおかしくなったかと思った(実際に死んでたかと)。

 

 あぁ、そう。

 この世界について説明しなきゃね。


 まず、この世界の貴族階級は前世の時と変わらない。

 王族がトップで、その下に公爵家とか子爵家とか男爵家とかよく聞く貴族が存在する。


 そして、私たちホーランド公爵家が仕えるのはアリアーナ王国の国王。

 ロビン・アリアーナ国王。

 ロビン国王は本当に人の良いお方で、誰もが好印象を持たれるでしょうね。


 少し失礼かもしれないけど、

 性格的には田舎にいる誰にでも優しいいつも笑顔なおじいちゃんみたいなお方。


 ロビン国王には私と同い年の御子息様がいるらしいけど、お会いしたことはない。

 少し興味がある。

 噂によると、とんでもないイケメンなんだとか。


 次は、ホーランド公爵家について。


 ホーランド公爵家は、アリアナ王国の中では結構有名な貴族らしい。

 ただ、その有名とはあまりいい意味ではない。

 その意味とは・・・・・・


 令嬢が代々悪役令嬢ということ。


 そう。

 そうなの。

 毎回王道ルートを通って、婚約破棄されたり断罪されたりしてるらしい。

 過去には、死刑までやらかしたご先祖様がいるとか。


 普通の人だったら、こんな家系嫌だなと思うかもしれない。

 ただ、私は案外悪くないかもと思ってる。


 それには理由がある。


 私は、前世でいわゆる「普通」の人生を送ってこなかった。

 正直、少し後悔してる。

 その後悔を持ちながら、私は死んで、転生した。

 せっかく転生したんだから、今度の人生は「普通」に生きてみたい。


 だから、私は決心した。


 私も悪役令嬢になって、普通に「ざまぁ」されて、

 普通に婚約破棄されて、王道没落ルートを通ることを!


 ---


「ミスエナ様、起きてください!もう朝の8時ですよ!」


「うん・・・・・・」


「旦那様がお呼びですよ」


「ハッ!」


 私はベッドから飛び起きた。

 お父様が私を呼んでいるのなら、その指示には反抗できない。 


 もし逆らったら「こちょこちょの刑」を下されてしまう。

 経験談だ。

 思い出すだけでも、鳥肌が立つ。


「アイシュ、着替えはどこ?」


「目の前の机に置いてありますよ」


「あ・・・・・・」


 アイシュとは、ホーランド公爵家のメイドだ。

 アイシュの母も、昔ホーランド公爵家のメイドだったらしく、

 その影響でアイシュも幼少期からメイドになるための英才教育を受けていたらしい。


 ちなみに、年は28歳ぐらい。 

 8歳上の美人お姉さんだ。


「着替え終わりましたね?では朝食を食べに行きますよ」


「眠い・・・・・・」


 私は重い足取りで食卓に向かった。


 ---


「お父様、おはようございます」


「おはよう、ミスエナ」


 私はお父様に挨拶をした後、いつもの席に座った。

 ただ、私はお父様の面持ちに少し違和感を感じた。


「ミスエナ、お前に大切な話がある」


 やっぱりなんかある。

 私の勘は間違っていなかったらしい。  


 いったいどんな話なんだろうか。

 ホーランド家が壊滅の危機にあるとか?


「ミスエナ、お前にはそろそろ結婚してもらわないといけない」


「・・・・・そうですか」


 もうそんな時期か・・・・・・

 この世界の貴族は、18歳から25歳の間に結婚する貴族がほとんどらしい。 

 逆にその間に結婚できなかった人たちは「残り物」となり、

 そのまま家系が途絶えるか、他の貴族に領地などを乗っ取られたりするらしい。 


「なんだ、あまり驚いていないじゃないか?」


「まぁ、そろそろ時期だなとは思ってましたし、何より『伝統』を継ぐのが楽しみなので」


「そうか、それは父親として誇らしいな。そうだろ、ミファエル?」


「そうね、私も『伝統』を引き継いでたくさんの人に意地悪するのは楽しかったわ」


 だいぶ頭のおかしいことを言っているミファエルという人は、

 私の母、ミファエル・ホーランドだ。


 お母様は正真正銘の悪役令嬢だった。

 現役時代には、色々な貴族の関係を邪魔したらり、婚約破棄まで追い込んだこともあるらしい。


 ただ、お母様は悪役令嬢の中でも珍しいタイプらしく、

 断罪とかざまぁを一切されなかったらしい。

 それに、お父様がホーランド家に婿入りする形で結婚したらしく、婚約破棄とかもなかったらしい。


「それで、結婚の時期なのは分かりましたが、それから私はどうするのですか?」


「ロビン国王に同い年のご子息様がいるのは知っているな?」


「はい、第一王子の方ですよね?」


 そんなことを私に聞いてどうするのだろうか。 

 まさか、ね・・・・・・


「そうだ。その王子が今、婚約者を探しているらしく、半月後に縁談パーティをやるらしい」


「まさか、私がそれに出席するのですか?」


「あぁ、そうだ」


 まじか。 

 中々レベルが高いことを要求してきたな。


「その場合だと、同じく王子を狙うライバル令嬢が多くいると思うのですが・・・・・・」


「何を弱気になっているの?他の令嬢をいじめたりすればいいのよ」


 まぁ、確かに。 


 王道悪役令嬢になって、

 王道断罪ルートを通ることを決心したのだから、当たり前か。 


「まぁ、そういうことだ。縁談パーティで成功するために、お前には特別なレッスンを受けさせる」


「承知しました」


 こうして、私の


「悪役令嬢ムーブをしながら王子と結婚して後からざまぁされるぞ大作戦」


 が始動したのである。 


 ---


 レッスン初日。

 私は書斎の椅子に座っていた。


 どうやら、このレッスンはダンスとかのレッスンではなく、

 会場での立ち振る舞い方などを復習を兼ねて教えてくれるらしい。


「コン、コン」


「失礼します」


 部屋に入ってきたのは、メイドのアイシュだった。


「今回のレッスンを担当させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」


「よろしく」


 正直、アイシュがレッスンを担当するとは思ってなかった。

 普段、アイシュは掃除などの家事的な事と、

 私が外出する時の付添人をやっているもの。

 意外だ。


「まずは、挨拶の勉強です」


 その後、私は3時間程アイシュにたくさんの作法を教わった。


 ---


「今日はこれで終わりです。お疲れ様でした」 


 私は以前貴族のマナーや所作を一通り覚えたはずだったが、

 まだまだ完璧には遠かったらしい。 


 もちろん、最低限はできていたが、

 まだまだ無駄な動作が多く、練習が必要らしい。


 正直言って、結構疲れた。

 ただ、意外と楽しかった。


 新しいことを覚えて自分が成長することも楽しかったが、それよりも、

 アイシュがすごく熱心にレッスンをしてくれていたのがとても嬉しかった。


 普段、アイシュは落ち着いていてクールな感じだが、

 今日のレッスンでは少し違ったのだ。


 私が苦戦していたことを克服した時に、私と一緒に喜んでくれたのだ。 

 しかも満面の笑みで。 


 アイシュが私のメイドになってから5年ほどたったが、

 あんな笑顔見たのは初めてな気がする。


 私もつい笑顔になってしまった。


 すごく幸せな気分だ。


 ---


 初めてのレッスンが始まってから、1週間が過ぎた。 

 やっと所作を完璧にできるようになった。


 アイシュによると、今日からは少し違うレッスンを受けるらしい。


「今日からは、女性の魅力を最大限に出すためのレッスンをします」


 ん?

 なんか今、すんごいパワーワードが聞こえちゃった気がする。


「あ、あの、もう一回言ってくれない?今日のレッスンのこと」


「聞いてなかったのですか?ではもう一回言います。今日からは、女性の魅力を最大限に出すためのレッスンをします」


 聞き間違いではなかったみたい。

 なんか、えっちい事を教えられそうでちょっと怖い。 

 けど、ちょっと興味もある(むっつりです)。


「最初は『上目遣い』です!」


 おーっと。 

 最初から中々なすごいこと教えこんでくるな。

 しかもなんでちょっとテンション高いの?


「相手を見上げる形で可愛くて見つめるんです。分かりましたか?」


「ま、まぁ。分かったわ・・・・・・」


「では私にやってみてください!」


 あ。 


 やばい。


 完全にスイッチ入っちゃった。


 アイシュはあれだ。


 そう。


 あれ。



 ド変態だ。



「こ、こう?」


「そう!そうです!すごく可愛いです!」


 アイシュがめっちゃニヤニヤした顔でこちらをすんごい目で見つめている。


「次はさりげないボディータッチです!」


 え!?

 ボディータッチ? 

 まぁ、確かに男性は喜ぶと思うけど、そこまで練習しないといけないの?

 ってかもう悪役令嬢関係ある? 

 ないと思うんだけど?


「腕を掴んで、その際にミスエナ様がお持ちの立派なアレを押し付けてください!」


「アイシュ、それはさすがにやりすぎじゃない?」


「いえ、そこまでしないとこの国のトップを奪えませんよ!」


 自分で言うのもなんだけど、確かに私の体は豊かではあると思う。

 直接的な表現は伏せるけど、私のアレはレベル6か7ぐらい。

 自信はある。


「さぁ、早くしてください!」


「わ、わかったからちょっと待って!」


 アイシュがせかしてくる。

 恥ずかしいことをやるんだから、少し時間が欲しかったが・・・・・・


「こ、こうかしら?」


「キャー!最高です!才能ありますよ?ミスエナ様!」


「そ、そう?やっぱりそうよね!この私だもの!」


 やばい。

 アイシュがすごい褒めるからちょっと楽しくなってきちゃった。


「もう一回やってください!」


「いいわよ!じゃんじゃんやるわよ!」


 ---


 ついに来た。

 縁談パーティ当日。 

 

 やっと悪役令嬢らしいことが多くの人の前でできる!

 楽しみすぎる。 


 目標は、私以外の人を全員引き離すこと。


 んでその後は展開は、


『パティーでは王子とイイ感じだったけど、

 パーティー終了後に私の悪役令嬢っぷりが発覚して断罪されて監獄行き』


 どうせなら死刑でも・・・・・・


「ミスエナ様、準備は出来ましたか?」


 パーティー用ドレスに着替えていた私に、アイシュが扉越しに話しかけてきた。


「ええ、あと靴を履くだけ」


 今日のドレスは色々な装飾がついていて、着替えの時間が普段よりかかった。 

 ただ、すごく可愛いドレスだ。


 着替え終わったので、アイシュと両親が待機している扉の反対側に向かって、

 ゆっくりと歩いて行く。 

 もしドレスを壊してしまったら大変だ。


「どうかしら」


 扉を開けて、アイシュと両親に問いかけた。


「あら、似合ってるじゃない!」


「本当ですね!」


「さすが俺の娘だ」


 みんな喜んでくれて何よりだ。 


 このドレスは、金色と白色の中間ぐらいの色合いをメインとしてドレスで、

 所々に蝶や花などの美しい装飾がついている。


 私自身、すごく気に入っている。


「それでは、パーティー会場に参りましょう」


 ---


「私は中に入れませんが、頑張ってくださいね!」


「そんなに心配しないで、レッスンで学んだことは忘れないから」


 そう。

 この縁談パーティーには、婚約を希望する本人しか出席できない。

 よって、私は今からソロだ。


 少し緊張しているが、このパーティーは楽しむことがベストだと思う。

 なんせ初の悪役令嬢ミスエナのお披露目だし。


 パーティー会場はお城の中だから、

 会場から少し離れた場所で馬車を降りた。

 この城はでかいから、会場まで徒歩で5分ほどかかりそうだ。

 その道のりの間、私は他の令嬢の観察に専念していた。観察中に気になった人物がいた。


 その人物とは、スミア侯爵家のヴェルベア・スミア。


 なんか魔女みたいな名前をしているが、実際そんな感じだ。

 可愛いロリ魔女っ子ならいいが、ヴェルベアはオバハン魔女の方だ。

 内面についてはまだわからないけど、外見だけ見てもその魔女っぷりを理解できる。


 とてつもなく濃いメイクに、紫色の口紅。

 しかも年齢は35歳と貴族社会の中では中々歳だ。


 そんな悪いことしかなさそうなヴェルベアだが、スミア侯爵家には強力な武器がある。

 その武器とは“武器”なのだ。

 これはダジャレではなく、戦闘などに使う“武器”だ。


 スミア領には昔、「剣術の父」と呼ばれた歴代最初の剣聖が住んでいたらしく、

 その影響で鍛冶屋が集結したらしい。

 そして、その集結していた鍛冶屋が今もなお存在し続けており、

 武器の生産量が他の領地を遥かに超える量になっているのだ。


 最近は、我が国アリアーナ王国と隣国のリークマス王国との関係が悪化しており、

 緊張状態が続いているらしいから、国王や王子がスミア侯爵系との縁を取る可能性は除外しきれない。


 こんな感じで、中々の強敵がいるが、

 私は結婚できなくてもいいからそんなに心配する必要はないから、

 自分の勘に従って行動すればいいだろう。


 --- 


 私は今、縁談パーティの待機所にいる。

 私の他にも、多くの令嬢がいた。 


 ざっと50人くらい集まっただろう。

 もちろん、ヴェルベア・スミアもいた。

 私が想定していた人数より少し多かったが、特に問題はないだろう。


 それに、他の令嬢が話ていたが、今回の縁談会は王子だけではなく、

 他の王族の男性もくるらしいから、その人たち狙いでくる令嬢も少なからずいるだろう。


 まぁ、大半は王子が目当てだろうけど。


「それでは、お時間になりましたのでご入場してください」


 パーティー会場の係員らしき人物が私たちに向かってそう言った。

 そして同時に、会場へつながる扉が開かれた。


「す、すごい・・・・・・」


 私が見たのは、ただのパーティー会場とは思えないほど広い場所だった。


 それに加えて、パーティー会場の天井にはたくさんの装飾が施されており、

 その装飾に豪華なシャンデリアの光が当たることで、まるで天の川を見ている気分になった。


 ホーランド家の館もそれなりに広いが、ここは桁が違いすぎる。

 さすが王族・・・・・・


 そんなことを考えながら立ちすくんでいた私だったが、前方から若い男性の声がした。


「皆の者、今日、この場所の集まってくれたこと、感謝する」


 その声は、若々しさを感じるものだったが、

 同時に堂々とした声で、どこか頼もしさも感じる声だった。


「私の名前はルーカス・アリーナ、この国の第一王子だ」


「この方が・・・・・・」


 あの声の持ち主は王子だったらしい。


 王子はものすごく整った顔立ちをしており、

 誰がどう見てもイケメンとしか言いようがない程だった。

 髪は金髪で、身長は185cm前後だろう。


 そして、体格もいわゆる細マッチョで、女性が思う理想的な男性と言えるだろう。


 あと、王子の名前は今日知った。

 そんなこと言ったら怒られそうだから他の人には内緒だ。


「この国の将来のことを考えると、私は今年中には結婚をしたいと考えている」


 やはり王子や国王陛下も後継のことを気にしているのか。

 国王陛下も最近体調がすぐれないらしいから、その後のことも考えているのだろう。


「今日はその結婚候補を決める。決める方法は・・・・・・」


 ルーカス王子の説明が少し長かったので、私が要約しよう。


 まず、この会場にいる全ての令嬢と対話をして、

 自分が結婚を希望する理由とか結婚することで生まれるメリットを言えばいいらしい。


 簡単だ。


 自分の順番が来るまでは、他の未婚の王族たちと話をしてもいいらしい。

 私はこの時間に悪役令嬢ムーブをかまそうと思う。

 どうせなら、ルーカス王子と話してる時もかましてやろうかな。


「それでは、今から縁談会を開始する」


 ---


 縁談パーティが始まってから20分ほど経った。


「あの伯爵家、裏では女遊びが酷いらしいですよ」


「本当か!婚約者に良いと思っていたが、それなら婚約は愚か、縁を持つ必要はなさそうだな」


 私はこんな感じで、色々な場所で悪役令嬢ムーブをかましていた。

 この他にも、イイ感じの雰囲気を放っているペアの間に入って、

 習得した悪役令嬢技を披露した。


 一番効果があったのは私のアレを腕に押し付ける技だ。

 押し付けると全員鼻の下を伸ばしてニヤニヤしていた。

 男ってのはちょろい。

 万年発情期だからな。


 ちなみに、練習のおかげで羞恥心なんてものは一切なかった。


「ミスエナ・ホーランド様、ルーカス王子がお呼びです」


 どうやら私の出番らしい。


 よし・・・


 やったるか!!!


 ---


「お前がミスエナ・ホーランドか」


「はい。そうでございます」


 ルーカス王子が少し睨んでくる感じで私を見つめていた。

 これは悪役令嬢ムーブが効いている良い証拠なのでは?

 思ったより王子に伝わるのが早いが、別にいいだろう。

 特に問題はない。


「最初は結婚を希望する理由を聞こうか」


「承知いたしました」


 ここからは、慎重に考えて言葉を選んで発言しないと、上手く悪役令嬢ムーブが出来なくなる。

 集中しよう。


「私が結婚を希望する理由は、2つあります」


「そうか、言ってみろ」


「一つ目は、政略的な意味です。具体的にどんなことかと言うと・・・・・・」


 この政略とは、ホーランド領の特徴を最大限に生かしたものだ。

 最近、ホーランド領では「スカイス」と言う、

 新しい鉱物が大量に眠っている鉱山が発見された。


 この鉱物はとてつもなくレアで、日本でいうダイアモンドより希少な鉱物だ。

 値段でいうと、1グラムあたり2万から3万フォルンらしい。


 あ、ちなみにフォルンとはこの国の通貨の名称で、

 1フォルン=1円と考えてもらえば問題はないと思う。


 ともかく、この「スカイス」のおかげで、ホーランド領は莫大な収入を確保しており、

 どの領よりも、経済が発展しており、いわゆる高度経済成長期真っ最中だ。


 これが一つ目の理由だ。

 ものすごーく魅力的だと思うが・・・・・・


「なるほど、確かにそれはいいかもな」


 おっ!

 これはいい感じかも!


 それに、少し笑っていたような気が・・・・・・


「二つの理由を言ってみろ」 


「あ、はい。承知しました」


 まずい、考えてごとしてて反応するの遅くなっちゃった。

 これぐらい許容範囲だよね?


 ていうか、私の目標は結婚じゃなくて断罪なんだけどね★


 ---


「二つ目の理由は・・・・・・」 


「・・・・・・」


 ここは間を長めに置くのがいいらしい。

 ド変態メイド(アイシュ)に聞いた話だから、

 色々な意味で信頼度は高いだろう。


「貴方様を愛しているからです!!!!!」 


「ンッッッ!」


 あれ?

 なんかニヤニヤしてるけど・・・・・・


 多分私がキモすぎて呆れてるんだな!

 

  「私は、今日会う前から王子の魅力をすごく感じていて、まるで何年も共に過ごしてきた幼馴染のような気持でした」


「そして、初めて王子の姿を見た時も、私が想像した通りの素晴らしい方で、私は運命を感じたんです!」


 その後も、私は王子への "LOVE" を熱弁した。

 かれこれ30分は喋っただろう。


 最初はドン引きされると思っていたんだが、なんかわかんないけど殿下は終始ニヤついていた。

 きっとドン引きしすぎて、一周回って笑ってしまったのだろう。

 もう私の、悪役令嬢としての使命は果たせた。

 あとは断罪されてこの世を去るだけ・・・・・


「カーン、カーン、カーン」


 パーティー会場に大きな鐘の音が響き渡った。

 それと同時に、会場のステージにルーカス王子が出てきた。


「皆の者、今日はこのパーティーに集まってくれたこと、改めて感謝する。とても有意義な時間だった」


 王子の言動から察するに、パーティはそろそろ終わるらしい。

 今回のパーティーは意外と楽しかった。

 正直不安なとこもあったが、悪役令嬢としての自分を最大限に引き出せたと思う。

 前世の頃の後悔が一気に消え去ったからか、少し体が軽い気がする。


「今ちょうど最後の令嬢との話し合いが終わった。したがって、この縁談パーティを終了とする」


 やっぱりそうか。


「では、参加者は各自退場して、自分達の館に戻ってくれ」


 じゃあ、私も帰るとするかー。

 アイシュたちが近くで待ってくれているらしいし、少し急ごう。


「ただし・・・・・」


 なんだ?

 私は早く帰ってみんなに私の悪役令嬢っぷりを家族に自慢したいんだけど・・・・・


「公爵家令嬢の、ミスエナ・ホーランドだけこの会場に残ってくれ」


 

 おー!!!

 これはあれだ。

 そう。

 あれだ。


 断罪を宣言されるんだ!


 キター!!!!!

 私が夢見た「ざまぁ」展開だ!!!

 まぁ、とりあえず王子のところに向かおう。


 ヤバい。


 興奮してきた。


 --- 


「ルーカス王子、私に何かご用があるのですか?」


 私は王子のところへ行き、そう尋ねた。


「あ、ああ。そうだ・・・・・」 


 ん?

 なんか、王子の顔が少し赤い気がするんだが・・・・・

 それに、息も少し荒くなっている気がする。


 体の具合でも悪いのか?

 

 「ルーカス王子、大丈夫ですか?」


 「大丈夫だ」

 

 絶対大丈夫じゃない気もしなくもない・・・

 まぁ、いっか!


 「すまなかったな、本題に移ろうか」


 「わかりました」


 ルーカス王子は、少し背筋を伸ばし、語り始めた。  


 「まず、今日の縁談パーティーへの出席、感謝する」


 「いえいえ、とんでもない!こちらこそありがとうございました」


 何回か思っていたのだが、やっぱりこの王子は礼儀正しい。

 普通、王子っていうのは生意気でめっちゃムカつくボンボンのイメージがあったが、

 ルーカス王子の場合、そういったものはどこからも感じ取れない。

 とてもいいことだ。


 「俺は今日このパーティーに出席した全員の令嬢と話をした」


 「その上で、お前に言いたいことがある・・・・・」


 おーっと!

 いきなりだな!

 

 よし。

 この王子の発言で、私がどんな死に方をするのかが決定する。 


 ギロチンで首ちょんぱなのか。

 短剣でお腹をグサッなのか。

 もしくはそれ以外の方法なのか。


 興奮してきた。                                                                         

 デュ、デュフフフ・・・・・

 

 「言いたいことは・・・・・」


 

 「もしよかったら、俺と結婚してくれないか?」



 ・・・・・

 

 「はい?」


 「なんだ、もう一回言わせるのか?」


 「い、いや・・・・・」


 まずい。

 脳が機能していない。

 まずい。

 

 は?

 意味が分からない。

 

 結婚?

 この私と?

 有名悪役令嬢一家の令嬢と?


 「もう一度言う。俺と結婚してくれ」


 まじか。

 予想外の展開すぎるな。

 

 「その、なんで『結婚』なんですか?」


 「少し恥ずかしいが、お前が頑張ってほかの令嬢の悪い噂を流そうとしているのがとんでもなくかわいくてな・・・・・」


「それに、俺との対談で熱弁していたお前が子犬のようにかわいかった」


 あ。

 わかった。

 

 この人ちょっとやばい人だ。


 子犬のようにとかやばいでしょ。

 私のどこを見たら『子犬』に見えるのやら・・・・・・


 そんなことよりも、私の悪役令嬢ムーブまったく機能してないじゃん。

 せっかくアイシュに色々教えてもらったのに・・・・・

 

 いやそんなことないか。


 「その、返事が欲しいのだが・・・・・」


 「あ、えっと・・・・・」


 ここで私がプロポーズを受けたら、私は絶対に悪役令嬢になることができなくなる。

 いままでの努力が水の泡だ。

 たくさん手伝ってくれた家族に残念がられるかもしれない。

 あのド変態メイドにも・・・・・



 ただ・・・・・


 


 「え、えっと、よろしくお願いします・・・・・」




 ---


 長考の末、私は王子のプロポーズを受けることにした。

 私の当初の目標は『悪役令嬢になって断罪されること』だったが、

 あらためて『それ以外の道』について考えてみた。


 もちろん、断罪されるのにも夢はある。

 その気持ちは今も心の奥に残っている。

 

 ただ、いわゆる「普通」を体験してみたい、とも思った。 

 

 私は貴族の令嬢が、どこかの家系の男と結婚して政治をしたり、

 幸せな結婚生活を送るのがこの世界の令嬢の「普通」だと思っている。


 それはそれで楽しそうだし、この王子となら幸せになれる気がした。

 そうしたほうが、人生が豊かになるかもしれないと思った。

 一緒にお茶をしたり、仕事をしたり、時にはイチャイチャしたり。

 

 まぁ時にはうまくいかない事だってあるだろうけれど、

 それも王子と一緒に解決すればどうってことない。


 結果、『それ以外の道』の道も案外悪くないじゃないかと思い、

 今回の決断をした。


 後で家族(特にお母様)に怒られるかもしれないが、

 この人生は私のもの。

 私が好きなようにする。


 「そ、その、これからよろしく・・・・・」


 「あ、いえ、こちらこそ・・・・・」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 いや気まず!


 ---


 「カーン、カーン、カーン」


 心地よい春風の中に、鐘の音が響く。

 周りでは小鳥のさえずりが聞こえ、美しい歌を奏でている。


 そして、深海のように深い青色のドレスを着た私と、

 美しい純白のタキシードを着たルーカス王子。

 

 私たちを見つめる涙目の家族や貴族たち。


 牧師が私と王子を優しい顔でこちらを見て、話し始める。


 「あなた達は、病める時も健やかなる時も、お互いを愛し合うことを誓いますか?」

 

 『はい、誓います』


 「あなた達は、死す時がくるまで、永遠にそばに居続けることを誓いますか?」


 『はい、誓います」


 「では最後に――」


 「誓いのキスをお願いします」

 

 正直、こんな大衆の前でキスをするのは少し緊張する。

 周りから視線を感じる。

 早くしないと・・・・・

 けど、緊張する・・・・・


 「!?!?!?」 

 

 私が緊張で戸惑っていたら、急に顎をクイっと持ち上げられた。

 

 そして同時に、唇に熱を感じた。

 

 「キャーーー!!!!!」

 

 来賓の方から、黄色い歓声と拍手が聞こえた。

 誰かが号泣してい声も聞こえた気がする・・・・・

 

 「なんだミスエナ、緊張していたのか?」

 

 「別に・・・・・」

 

 「なんだツンデレか?」


 「ちーがーうー!!!」


 この後、私たちは結婚式を存分に楽しんだ。



 ちなみに号泣していたのは顔をクシャクシャにしていたド変態メイドだった。



 ---

 

 「ルーカス!起きて!もう9時だよ!」

 

 「うん・・・・・」


 「お義父さんが怒ってるよ!」

 

 「え、マジで?」

 

 結婚してから約一年がたった。

 最初はお互い敬語で話しており、堅苦しい感じだったが、

 今はもうゆるーく話していてまるで親友のような関係だ。

 

 私はこの関係をとても気に入っている。

 

 毎日愛している人と幸せな日々を送ることができる。

 当たり前のようで、当たり前ではないこと。

 

 結婚する前、私は断罪されたいと思っていた。

 それが私の人生の終着点だと思っていた。

 

 だが、今考えてみると、私は過去の自分から逃げていただけなのかもしれない。 

 

 私の前世は、毎日が辛くて、苦しくて、色がない日々だった。

 それが私の心の奥深くで、

 無意識のうちにトラウマになっていてのだと思う。

 

 そのせいで、私は自然と「死」の人生を選んでいたのだと思う。

 

 けど実際は、この「幸せな」な人生の方が断然充実していた。

 家族たちも意外にも喜んでくれた。

 アイシュなんか、

 

 「よ”がっだ、よ”がっだでしゅーーーーー!!!」

 

 と、号泣していたからな・・・・・ 

 アレはちょっとやばい。

 

 義理の父母、つまり国王とその奥様も暖かく歓迎してくれた。

 

 そして何よりも、ルーカスだ。

 

 ルーカスには本当に感謝している。

 普段は少しおっちょこちょいで、頼りないところもあるけれど、

 私が困ったときはすぐに助けてくれるし、

 毎日愛情を注いでくれている。

 

 最近は子供を生むことも考えていて、具体的な将来設計をしている。

 

 この話をぜひしたいところだが、それはまた次の話。

 

 今は、この素晴らしい新婚生活を楽しみたいと思う。





 この平和が乱れる前に。




 

こんにちは、もしくはこんばんは。

そしてお久しぶりです。

はるてぃーです。 

 

今回は、初めての短編小説、そして初めての悪役令嬢モノを執筆させていただきました。

ずっと時間がなかったり、体調がよくなかったりして復活宣言してから約2ヶ月たってしまいましたが、遂に完成しました!!!


需要があれば、次はこのストリーの続編を執筆したいと思います。


本編をもっと多くの人に届けるために、ブックマークと高評価お願いします!

執筆のやる気にもなります!


それでは、ばいばい!


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