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第6話 悪役俳優はツンツンアイドル女優の妹に告白する


目が覚めた。酒を呑んでいなのに二日酔いのように身体が疲れていて気持ちが悪い。


 スマホから充電器を外して、画面を見る。12時46分と表示されている。


 あータイマーかけるの忘れてた。まぁ、あとで事務所に行くだけしいいか。


「おはよう」

 テーブル前に座る女性が言った。


「おはよう」


 おはよう? ちょっと待て。ちょっと待て。

 俺は飛び起きて、テーブル前に座っている女性を見る。


「なに、焦ってんのきもいよ」

「な、なんだ。結奈か。びっくりした」


 テーブル前に座っていた女性は妹の結奈ゆうなだった。合鍵は持っているから居てもおかしくはないけどさ。びっくりした。


「こっちがびっくりなんですけど。起きるの遅すぎでしょ」


 結奈の言葉には棘があるな。まぁ、兄貴に対してだから仕方ないのかもしれないけどさ。ファンの人達が見たら悲しむぞ。


アイドル上がりの可愛い系女優がこんな言葉遣いだったら。いや、妹を可愛いと表現するのは嫌だ。だって、俺からしたら可愛くないもの。憎たらしさ全快のわがまま小娘だぞ。


「仕方ないだろ。呑みに付き合ってたんだから」

「環ちゃんとでしょ」


「な、何故知ってる?」

 どこから情報が漏れたんだ。


「本人から聞いた」

 本人から情報が漏れていたのか。まぁ、タマの芸能界でたった一人の女友達が我が妹だから仕方ないと言えば仕方ないか。


「いつ聞いたの?」 

「今朝。二日酔いで死にかけてるってさ」


 タマのやつよく起きられたな。いや、二日酔いで寝れなかっただけか。


「やっぱり」

「まぁ、それは置いといてさ。台詞覚えるの手伝ってよ」


 結奈はカバンから台本を二冊取り出し、そのうちの一冊を手渡してきた。


「えーなんで。一人で覚えろよ。台詞ぐらい」

 俺は渡された台本をぺらぺら捲りながら言った。


「あのね。売れっ子なのうちは。俳優活動以外にアーティスト活動もしてるから時間がないわけ分かる?」


「そうでしたね。そうでした」


 なんで、俺の周りの女性陣は売れっ子ばっかなんだ。それに結奈と俺の親は一緒だぞ。なんで、こんなに違いがでる。悪役俳優と可愛い系女優っておかしいだろ。


 ご両親よ、俺に何か恨みでもあったか。可愛く産めよ。あーこんな事言ったらしばかれるな。確実にしばかれるな。


「わかった。だから、やって」


 あー偉そうだな。こいつは。お兄さんをお兄様をなんだと思ってやがる。このど畜生妹は。昔は可愛かったのな。今は本当に可愛くない。


「はい。させていただきますとも」

「ちなみに月9だから。ヒロインだから」


 どれだけ大事な案件か分かりますかと言わんばかりに言葉に圧がある。


「……う、売れやがって」


 あれか次に出演する作品は海外作品か。こら。あー、これでまた実家に帰りづらくなった。


来年の正月帰るのやめにしようかな。両親及び親戚に痛いところつつかれそうで嫌だな。いや、絶対に突いてくるな。うちの家系は。


「じゃあ、10ページのところお願い」

「はいはい。10ページね」


 俺は台本の10ページを開いて、黙読する。


「黙読した?」

「えーこれ嫌だ。お前が告白されるシーンじゃん」


 俺が何で妹に好きですとか言わないといけないの。あれですか。深夜アニメですか。タイトルの長いライトノベルの導入部分ですか。


タイトルはきっと、『悪役俳優はツンツンアイドル女優の妹に告白する』だな。……ちょっと待て、ありかもしれない。新人賞に送ってみる価値があるかも。書くか。……駄目だ。文才がない。


「仕方ないでしょ。月9なんだから。ラブストーリーなんだから」

「恋愛作品の台本の相手を肉親にさせるな」


 台詞を口にしようとするだけ。いや、台詞を見るだけで身体が拒絶反応を起こす。あー鳥肌が常時発生するわ。


「いいから手伝え。なぁ、兄貴。うちのコネで舞台とかライブのチケット取らねぇぞ」


 結奈は眉間に皺を寄せて、ドスの聞いた声で命令してきた。


「あ、すいません。手伝わせていただきます」


 それを言われると何も言い返す事ができません。本当にただただすいません。


「よろしい。じゃあ、始めるよ」

 結奈はニコッと笑う。


 あー女性って恐い。本当に恐い。なんで、こんなに感情を反復横飛びのように瞬時に切り替えられるのだろうか。研究している学者さんが居れば是非研究結果を教えてほしい。





 コンビニで買ったおにぎり2個とチキンバーと麦茶のペットボトルが入ったレジ袋を手に持ち、芸能事務所ハーモニーに向かっていた。


 事務所に着いたら食べないと。まだお腹にご飯を入れてない。


 街は黄昏色に染まりつつある。


 あー結奈の奴、気が済むまで徹底的に練習に付き合わせやがって。俺が出演しないのに主役の人の台詞を覚えてしまったじゃねぇかよ。


 ハーモニーの前に着いた。

 ちょっと待てよ。今日も受付は永松さんだよな。気合入れろ。


 俺は頬を叩いて、気合を注入してから、ハーモニーに入った。

 受付では永松さんが座って居た。


「おはようございます」

「おはよう。昨日は大変だったみたいね」


 永松さんは気遣ってくれているのか、とても優しい口調だ。


 あれ、何か吹っかけてくると思ったのに。まぁ、昨日の出来事を聞いたら普段のようにはしてこないか。さすがにそうだよな。


 タマと結奈がおかしいだけだよな。そうだよな。そうに違いない。


「まぁ、そうですね」

「何かあったら言ってね。味方だから」


 永松さんは両手でグーポーズをした。


「ありがとうございます。もうあんな事はないと思いますけどね」

「あってほしくないよね。二度と」


 あんな事が二回もあればミステリー作品の主人公だ。外出をなるべき減らさないといけなくなる。それだけは嫌だ。


「はい。二度とあってほしくないです」

「じゃあ、景気づけがてらにエチュードしちゃう」

 永松さんはニヤリと笑って言った。


「嫌です。今日だけはご勘弁を」


 前言撤回だ。永松さんもやばい人だ。俺の周りに居る女性は頭のネジをどこかに紛失された人ばかりだ。いや、違うかもしれない。


わざと自分でネジを抜いたのかもしれない。あー想像するだけで恐くなってきた。


「仕方ないな。今日はなしで」

「今日もなしで変更で」


「接続詞変更は認めません」

「は、はい」


 やっぱり何かある日しか優しくしてくれないのか。


「冗談じゃないわよ、冗談じゃない」

「あのー「冗談よ、冗談」のノリで否定形止めてもらいます」


 もうそれは「本気よ、本気」と同義ですからね。

「えーいいじゃない。やっぱり、エチュードしましょうか」


「しません。オーディション結果聞きに行ってきます。兼元さんは3階ですよね」


「うん。三階にいる」

「じゃあ、失礼します」


「永松しんみり」

 永松さんは悲しそうな顔をしている。


 この人の場合、本気か芝居か判断しにくい。なぜなら、この人は元舞台女優。でも、今回だけはどちらか容易に判断できる。今回は後者だ。


「今度しましょう」

「絶対ね。絶対だから」


 嘘を針3千本飲まされるぐらいの圧力だ。


「……はい。絶対です」

「よろしい。兼元さんに会いに行ってよし」


「あ、ありがとうございます」

 俺は階段を上り、3階へ向かう。


 オーディション結果はどうだろうか。受かっていてほしい。まぁ、落ちていてもそこまで落ち込まないが。なぜなら、落ちる度にショックを受けていれば肉体的にも精神的にも持たない。


受かっていればラッキーぐらいの気持ちでやっていかないとこの業界では続ける事が出来ない。


 三階に着き、事務所のドアを開けて、マネージャーさんや事務の人達に挨拶をして、兼元さんを探す。


 兼元さんはデスク前の椅子に腰掛けて、電話対応していた。


 俺は兼元さんのもとへ歩み寄る。

 兼元さんは俺に気づき、手で静止してきた。


 電話が終わるのを待とう。ふと、兼元さんのデスクの上に視線を向ける。


 デスク上にはオーディション情報が書かれた資料や兼元さんが受け持っているタレント毎のスケジュールが書かれた紙などが置かれている。


 ……台本ないな。落ちてるな、これ。

「はいはい。ありがとうございました」と、兼元さんは電話を切った。


「おはようございます。兼元さん」

「おはよう。オーディション結果だよな」


「はい」

「じゃあ、言うぞ」


「お願いします」

 結果がなんとくなく分かっていても言われるまでは緊張する。


「落選だ。残念だな」

「……そうですか」


 だよな。そうとは思っていました。思っているほどショックはありません。


「だがだ」

「だがだ?」


 これは事務所に入ってからオーディションに落ちた時に言われた事のないワードだぞ。期待ありか。ありなのか。

「オーディションに参加していたプロデューサーが違う作品でお前を使いたいと言ってきた」


「え? 本当ですか」


 妄想はした事あるシュチュエーション。でも、現実でそんな事が起こるなんて。驚きだ。驚きでしかない。心臓の鼓動が急に速くなってきた。


「本当だ」と言って、兼元さんはデスクの一番上の引き出しから、台本を取り出して、手渡してきた。

「あ、ありがとうございます」


 俺は手を震わせながら台本を受け取った。

 や、やばい。こ、これは現実なのか。あ、あれじゃないのか。ドッキリって言うやつではないのか。ど、どこかにカメラが仕込まれているかもしれない。


 カメラがないか周りを見渡す。


「安心しろ。ドッキリじゃないぞ」

 兼元さんはクスッと笑いながら言った。


「で、ですよね」

 ドッキリじゃなくてよかった。いや、これがドッキリだったら人間不信になるな。


「表紙見てみ」

「は、はい」


 俺は受け取った台本の表紙を見る。表紙には「事件収集家・蒐田茜一かりたせんいち」、

脚本・勅使川成美と書かれている。主演は鶴倉輝斗さん。


「どうだ。凄いだろ」

「え、うぉ。ま、やばい」


 驚きで言葉が上手く出てこない。ただ嬉しいのだけは事実だ。事件収集家・蒐田茜一と言えばシーズン3を現在地上波で放送中の人気作品じゃないか。


「自分の役を見てみろ」

 台本をぺらぺら捲っていく。それにつれて、自分の役がどんな役か分かっていく。


「……犯人役」

「そうだ。この話の主役と言っても過言ではないぞ」


「う、嬉しいです」

 素晴らしい言葉が全く浮かばない。もう感情が身体の至る所で爆発しているみたいだ。い、意味が分からないぞ。でも、嬉しいのは事実。


「引き受けるか」

「もちろんです。引き受ける以外の選択肢はないです」


 こんなチャンスを引き受けないのは役者じゃない。これで世間に認知されたら仕事も増えるはず。人生が少し変わるかもしれない。


「よし、決まりだな。頑張れよ」

 兼元さんは嬉しそうに微笑んで、俺の肩を優しく叩いた。


「頑張ります。無茶苦茶悪くなります」

「よろしい」


「あー、チャンスが来た」

「だな。あ、そうだ。ちょっと、おつかい頼んでいいか」


「なんですか?」

「靴川の様子見に行ってくれないか。これから戸浦の現場に向かわないと行けなくてな」


 兼元さんはデスクの一番上の右側の引き出しを開けて、ペンケースを取り出して、ファスナーを開けて、中から靴川と書かれた鍵を出した。


「いいですけど。靴川さんどうかしたんですか?」

「警察の方から事情聴取にまで来ていないと言われてな」

「噓でしょ。駄目じゃないですか」


 靴川さんは昔から適当な人だったけど、さすがに今回は駄目だろう。それに昨日の事件はお世話になった人の事件だろ。後輩だけど一言言わないと。


「そうなんだよ。もともと適当なやつだけど。今回だけは許されないからな」


「ですね。ちょっと注意します」

「頼んだわ。これ合鍵」


 兼元さんは鍵を手渡してきた。


「行って来ます」

 鍵を受け取り、靴川さんの家に向かおうとした。


「おい、ちょっと待て」

 兼元さんが呼び止めてきた。


「なんですか?」

 俺は立ち止まった。まだ何かあるのか。


「靴川の家の場所分かるか」

「あ、分かんないです」


 靴川さんの家に行った事なかった。あ、危なかった。危うく迷いに迷いまくって事務所に戻って来るところだった。


「地図書くから待ってろ」

「お願いします」


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