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第16話 意外な繋がり


俺達は警察達の指示により、事情聴取されている人以外は、食堂で待機する事になった。


 磯本さんの遺体が倒れていた道路の周りにはブルーシートでバリケードされていて、警察の方々が捜査しているのが窓のカーテンの隙間から見える。


 葬儀場の入口にはマスコミ達が敷地内に入って来ないように警察が数人立っている。


 だ、駄目だ。血だらけの磯本さんの顔が頭から離れない。ちょっとでも気を抜くと吐気が襲って来る。


 名和さんが食堂に戻って来た。事情聴取が終わったのだろう。


「汐路敏さん。来て下さい」と、名和さんの後に食堂に入って来た黄幡さんが呼んできた。


 今日も黄幡さんと会ってしまった。これほど頻繁に会っているとさすがに申し訳なくなってきた。自分は何もしていないけど。


 俺は返事をして、黄幡さんのもとへ行く。


「よく会うな」

「すみません。会わないのが一番なんですが」


「言えてるな。俺達とは会わない事が一番の平和だからな」

「……そ、そうですね」

 返す言葉が思いつかなかった。


「こっちに来てくれ」

 黄幡さんは食堂から出て、奥にある部屋へ向かう。


 俺はその後についていく。警察の人の後ろを歩くのは自分が悪い事をしていないのにしてしまったかのように思ってしまう。


 黄幡さんは一番奥の部屋のドアを開けて、中に入った。俺もそのあとに続いた。


 部屋の真ん中にテーブルがある。そのテーブルを挟むように椅子が置かれている。


「よく会うな。あんた死神だな」

 部屋の中に居た塚崎が皮肉交じりに言ってきた。


「塚崎、失礼な事言うじゃねぇよ」と、黄幡さんが怒鳴る。


「す、すいません」

 塚崎は頭を何度もぺこぺこ下げて謝った。


「すみません。後輩が失礼な事を」

「別に大丈夫なので」


 俺がここで怒ったりすると余計に時間が掛かるから大人の対応をしないと。まぁ、塚崎は色々と勉強した方がいいと思うけどな。


「ありがとうございます。それじゃ、事情聴取を始めるのでそちらの席にお座りください」と、黄幡さんは入り口のドア側の椅子を手で差した。






「痛ぇ」

 車窓ガラスに頭が当たってしまった。どうやら、一瞬寝てしまってたようだ。数秒間の記憶がない。


「大丈夫? 家に着くまで寝ててもいいよ」

 車を運転してくれている兼元さんが心配そうに言ってきた。


「大丈夫です。今ので目が覚めました」

 ぶつけたところがまだジーンとしている。こんなの久しぶりだ。よほど疲れているのだろう。自分が思っている以上に。


「そうかい?」

「はい。あのーありがとうございます。こんな夜中に迎えに来てもらって」


 全員の事情聴取が終わったのが12半頃だった。

その後色々話があって開放されたのが1時過ぎ。


「いいのいいの仕事だから。それにあの状況だったら迎えに行かないと葬儀場から出れなかっただろうし」

「元気ですよね。マスコミの人達」


 葬儀場の前には参列者が出てくるのをまだかまだかと待ち望んでいるマスコミ達が大勢居た。


インタビューをして、映像にする為にだ。参列者の事など何一つ考えていない。考えているのは自分達の数字だけ。


 警察の方達と葬儀場の人達が尽力してくれたおかげでなんとか俺を含めた参列者達はマスコミにインタビューされる事もなく外に出れた。


「まぁね。そう言う仕事だから」

「そうですけど。ちょっとは人の気持ちを考えてほしいですよ」


「だよね。あ、伝えないといけない事思い出した」

「な、なんですか?」


「仕事以外の外出は控えるように。事務所決定だから従ってね」

「え、マジですか」 


 それは困ったな。亀沢さんについて調べられないじゃないか。どうしたものか。でも、事務所の命令だもんな。


「マジだよ。君を守る為だから。君は今回の一連の事件に関わっているんだから」

「まぁ、そうですけど」

 そう言われると何も言えないな。


「監視係は俺だから。君が家から出ないように駐車場に車を止めて監視しておくから」

「張り込みの刑事じゃないですか、それ」


 俺は張り込まれる側の犯人か。


「みんながそれだけ君を心配してるんだよ。わかったね」

「……は、はい」

 名和さんに連絡しないといけないな。これからどうするかを話し合わないと。






 自宅のアパートの前に車が到着した。

 俺は兼元さんに挨拶をしてから、車を出て、自分の部屋に向かう。


 あれ、おかしいな。電気が点いてるぞ。家を出たときに消したはずなのに。も、もしかして、部屋の中に誰か居るのか?


 嫌な事ばかりが頭を過ぎる。恐怖からなのか心臓の鼓動が早まっている。


 どうする? し、調べるか。

 俺はドアノブを恐る恐る掴んでみる。


 だ、駄目だぞ。これは。あ、開いてる。


誰か絶対に居る。通報するか。いや、知り合いかもしれない。知り合い? 


ちょっと待て。一人だけ俺の家を自由に入れる奴が居るじゃないか。でも、こんな時間に来るか。来る可能性があるな、あいつなら。


 ドアを開けて、中に入る。


「おかえり」

 リビングの方から結奈の声が聞こえてきた。


 やっぱり、お前か。兄を驚かせるな。大人になってもびびる時はびびるんだからな。


 結奈だと分かったからか心臓の鼓動が落ち着いてきた。


 俺はドアの鍵を閉めてから、靴を脱いで、リビングに向かう。


 ちょっと注意しないといけない。来るなら連絡をよこす事とこんな夜遅くに鍵を開けている事。俺はお前をそんなヤンキーに育てた覚えはないぞ。


「おかえりって言ってるのに返事無し?」

 結奈はお菓子を頬張りながら言った。


 こんな時間にお菓子を食うな。肌が荒れるぞ。あれか。若いから肌が荒れないのか。でも、それもあと数年で終わるぞ。老いを舐めるなよ。


「あのな、来るなら連絡がしろ」

「いいじゃん、別に。兄妹なんだし」


「お前な……あと、もし、家に入って来たのが俺じゃなかったらどうするんだよ」

「大丈夫、大丈夫。こんなおんぼろアパートに誰も入って来ないよ」


「おんぼろ……否定できないのが辛い」

 そりゃお前の家に比べたらおんぼろだよ。そうですよ。


「まぁ、座りなよ。汚いところだけど」

「追い出すぞ。こら」

 俺は怒ってから座った。綺麗じゃないのは分かるけど汚いってお前が言うなよ。


「この時間にこんな可愛い子を追い出すなんて鬼よ」

「鬼ですよ、鬼です」


「鬼ならお祓い行ってきたら。今日、いや、昨日も事件に巻き込まれたんでしょ」

「な、なんで知ってる? いや、タマか」


「正解。環ちゃんから聞きました。災難だね」

 他人事だからって適当に言いやがって。それにしても、タマは俺に何かある度に連絡しているのか。


しなくてもいいのに。しなかったら、この面倒な妹が家に来ないのに。


「お前な。それでなんで来たんだよ」

「何か変な事に首つっこんでるんじゃないかなーと思ってさ」


「はぁ? そんな事してねぇよ」

 やばい。結奈は昔から感が鋭い。嘘を吐くとすぐばれる。


「あーつっこんでるんだ。環ちゃんに言おうかな」

「お、お前。……タマには言うなよ。あいつ、あんな感じだけど繊細なんだから」


 脅しだぞ、それは。何が目的なんだよ。


「知ってるよ。だから、結奈ちゃんに話しなさい。そうしないと帰らないし」

「……誰にも言うなよ」


 これは言わないと本当に帰らないな。


「分かってるよ。そこまで口軽くない」

「約束しろ。お前は首をつっこむなよ」


 結奈に何かあると親達が悲しむ。お、俺も悲しむし。だから、釘は刺さないと。昔からこいつは好奇心おばけだからな。


「約束するとここに宣言します。えーっと、ゆびきりした方がいい?」と、結奈は左小指を突き出して来た。

「……しなくていいよ」と、俺は溜息を吐いて答えた。


 人の気も知らないで。お前は周りからどれだけ大事にされているかを理解しないといけないぞ。兄貴より何倍も大事にされているんだからな。自分で思うと辛くなるけど。


「そう。それなら指切りはなしと言う事で」

「じゃあ、話すぞ」


「どうぞどうぞ」

「ここ最近劇団スノードロップの団員だった人達が亡くなっているのは知ってるな」


「うん。知ってる。ニュースにもなってるし」

「俺はその事件現場に運悪く遭遇し続けてしまったんだよ」


「そ、それは運悪すぎでしょ」

「最初の古戸さんの時には周りにトータス重突撃戦車の模型が置かれてて、二件目の靴川さんの周りにはミシシッピアカミミガメが大量に居て、そして、三件目の磯本さんの時には亀沢夕乃の名前が書かれた紙が封筒に入っていた。

俺と名和さんはその亀沢さんが犯人だと思って調べてるんだよ。もしかしたら、俺達も殺される可能性があるから。劇団スノードロップの作品に参加した事があるからさ」


「……そう言う事ね。えーっとさ。ゆのさんの漢字ってさ。夕方の夕に乃木坂の乃だったりする?」

「そうだけど。なんで?」


 なんで分かったんだ。知り合いか? いや、ありえないだろ。だって、亀沢さんが行方不明になった頃はまだ結奈は高校生だ。


アイドル活動はしていたがお芝居はしていなかった。だから接点はないはず。


「いやさ。うちが通ってた大学の先生が何かある度にその人と同じ名前の人を話題に出しててさ。写真とかあったりする?」


 結奈の学部は文芸学部だったか。それなら結奈が言っている亀沢夕乃と俺が思っている亀沢夕乃は同一人物の可能性が多いにある。


「お、おう。この前集合写真を写メらせてもらったからある」

 俺は喪服のズボンのポケットからスマホを取り出す。


「早く見せてみ」

「ちょ、ちょっと待て」


 スマホを操作して、劇団スノードロップの劇団員達と俺とタマと名和さんが写った写真を画面に表示する。


そして、その写真に写っている亀沢さんを拡大して、「この人」、スマホの画面を結奈に見せた。

「大学の先生に見せてもらった写真と同じ人だ」


「……そうか」

 同一人物だった。こんな偶然ありえるのか。でも、この偶然はありがたい。情報を手に入れる事ができるかもしれない。


「あのさ。提案なんだけどいい?」

「なんだよ、提案って?」


 頼むから「うちも手伝っていい」とか言わないでくれよ。結奈の提案は昔からいい提案だった事がない。


「うちが兄貴と先生が話す事ができるように先生に連絡してもいい?」

「え? いいのか?」


 人生で初めて結奈の提案が有益になりそうだ。お、お前、大人にちょっとだけなったな。


まぁ、大学も卒業したら大人だよな。よかった。よかった。お兄ちゃんはうれしいぞ。


「いいから言ってるんじゃん。嫌なの?」

「ううん。嫌じゃない。頼む」


「りょうかい。任せなさい」

「あ、でも、ちょっと困った事があるんだ」


 忘れていた。俺は自由に行動できないんだ。兼元さんに見張られる事が決定しているから。あーどうしたものか。

「なに困った事って?」


「俺さ。事件に遭遇しまくってるからマネージャーの兼元さんに監視される事になったんだよ」

「監視か……あ、いい案がある」


 結奈は悪い笑顔を浮かべた。


「なんだよ、いい案って」

 あーこれはかなり恐い事になったぞ。この笑顔を浮かべた時はいつも俺の身が危なくなると決まっている。


「先生と話せる日当日に発表します」

「おい。俺の気持ちの準備は?」


「あー準備は一つだけしてて」

「はい?」


 心の準備ではないよな。たぶん物理的になにか用意しないといけないみたいだ。


「大きな段ボールを一つ」

「……段ボール?」


 な、なぜ段ボールなんだ。想像するのが恐くなってきた。あーもっと優しくて常識的な妹がほしかった。切実に。

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