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第15話 新たな犠牲者


通夜が終わり、二階の食堂で参列者達が長テーブルの上に用意されたお寿司を食べている。


 通夜の間はみんな暗かったのに食事が始まると笑い声が聞こえてくる。昔から通夜や葬儀のあとのこの空気感が良くわからない。


 人間の切り替えの早さなのか、無理して切り替えようとしているだけなのか判断できないから違和感がするのかもしれない。


 俺と名和さんは向かいの席にタマは俺の隣の席に座っている。タマの表情はだいぶマシになっている。休憩出来たのが良かったのだろう。


 お寿司を食べながら、周りを見渡して、誰がどこにいるかを確認する。


 劇団スノードロップの劇団員だった殿岡さんや勅使川さんや磯本さんや名前の知らない人達が集まっている。


 あれ、江藤さんはどこに行ったんだろう。ご飯の席に一番居そうなのに。


「横いいかな」

 鶴倉さんが横の席に着て、言った。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」と、鶴倉さんは俺の隣の席に座った。


 話す人がいないのかな。いや、そんな事はないだろう。鶴倉さんなら色んな人から話しかけれるはずだ。じゃあ、なんでここに来たんだろう。


 あーもしかしたら、知らない人から話しかけられないようにするためか。まぁ、理由はなんでもいいさ。心休まるなら。どうぞ、俺を利用してください。


 青ざめた顔をした江藤さんが封筒を持って、食堂に入って来た。


 何かあったのだろうか。あんな顔をした江藤さんを見た事がない。


 江藤さんは殿岡さん達のもとへ行き、封筒から二つ折りにされた紙を一枚取り出して、長テーブル上に広げた。


 その瞬間、磯本さんは椅子から転げ落ちて、過呼吸を起こしている。


「す、捨ててきなさい」と、勅使川さんは声を荒げた。


 周りに居た人達の視線が勅使川さんに向く。

 そこまで一瞬で怒る事ってそうないぞ。よほどの理由がないと。


 殿岡さんも勅使川さんを注意する事なく固まっている。


「何かあったのかな」

 鶴倉さんは聞いてきた。


「ないとあそこまでなりませんもんね」

「ちょっと心配だから行こうか」


 鶴倉さんは立ち上がった。


「は、はい」と、つられて立ってしまった。行こうかって事は俺も行かないといけないよな。そうだよな、それしかないよな。


「俺も行きます」

 名和さんも立ち上がった。これは行くしかなくなったぞ。


「タマはそこでいてくれ」

「う、うん」と、立ち上がりそうだったタマを静止した。


 俺達三人は勅使川さん達のもとへ駆け寄る。

「どうかなされましたか?」と、鶴倉さんは勅使川さんに訊ねた。


「な、何もないわよ」と勅使川さんは気丈に振るまおうとしている。しかし、焦りや動揺と言った感情が身体から溢れ出てしまっている。


 俺はテーブル上の紙を見る。紙には「磯本さん。次は貴方の番ですよ。亀沢夕乃」と書かれている。

 か、亀沢さんだと。ここで通夜が行われる事を知っていたのか。


「江藤さん。これをどこで」

 俺は江藤さんに聞いた。


「俺の私物を入れているロッカーの扉に貼られていたんだ」

 ロッカーって事は一階か。


「亀沢さんがこの葬儀場に居るって事なのか」

「ば、馬鹿な事を言わないで」


 勅使川さんは鬼の表情でさらに声を荒げた。


「す、すいません」

 謝るしかなかった。でも、おかしくないか。その言い方は。違和感がする。勅使川さんは亀沢さんの何かを知っている可能性があるように思える。


 周りに人が集まってきた。仕方ない。声を荒げている人と固まっている人と過呼吸を起こしている人が居たら。


「だ、大丈夫ですか。俺と同じように呼吸をしてください」と、名和さんは過呼吸を起こしている磯本さんに呼吸するように言っている。


 磯本さんは名和さんの呼吸に合わせて呼吸をし始めた。


 磯本さんの呼吸が少しずつ少しずつ落ちついていく。


「これでもう大丈夫だと思います」

「ありがとう。名和君」


 磯本さんは普段通りの呼吸に戻ってから言った。


「いえいえ。立てますか?」

「ちょっと肩を借してくれないか」


「分かりました」と、名和さんは磯本さんに肩を貸した。


 磯本さんは名和さんの肩を借りて、立ち上がり、椅子に座った。

「あ、ありがとう……あ、あぁ、あぁ」


 磯本さんは何か恐ろしいものを見たかのような顔をして叫んだ。


「磯本さん、どうかしたんですか?」

 名和さんが磯本さんに訊ねる。


「な、なんでお前が……こ、殺される」と、椅子から転げ落ちて、野次馬を掻き分けて、食堂から出て行った。


「錯乱状態になってるぞ。あのまま外に出たらどうなるか分からない」

「追いかけましょう。鶴倉さん」


「そうだな」

「俺も行きます」


 俺と鶴倉さんと名和さんは食堂から出て、階段を降りて、入り口の方へ向かう。


 外からクラクションの音が聞こえた。それと同時に何かが吹き飛んだのが見えた。


 思ったとおりになってほしくない。でも、今の出来事からして可能性は高い。


 俺達は外に出た。

 葬儀場の前の道路で一台の車が停まっている。車の中の運転手は頭を抱えている。


その車のヘッドライトが身体が曲がってはいけない方向に曲がっていて血だらけで横たわっている磯本さんを照らしていた。


 思ったとおりになってしまった。また、劇団スノードロップの劇団員だった人が死んだ。


 磯本さんは何に怯えて錯乱してしまったんだろうか。分からない。いや、今は考える事ができない。

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