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バベル21  作者: Aju
3/7

3 美沙都

 うわ!

『新世紀かぐや姫』のミュージカル、N市ドームでやるって!?

 生KURUMI☆ちゃんの歌、間近で聴けるやん!

 マジか!!


 SNSで回ってきた情報に、美沙都は社員食堂にいることも忘れて、思わず声を出してしまいそうになった。

 ヤバい!

 今月の給料の残り・・・!


 しかし!

 そんなことを気にしている場合ではない!

 推しが隣のN市のドームにやってくるのだ!

 クレジット残高がマイナスになるから何だというのだ!

 5日後には給料日なんだ。


 前売りチケットの発売開始は明日の正午!

 1時間以内にいい席は売り切れるだろう。

 時間勝負だ。



 1年前、彗星のように現れたKURUMI☆。

 若干19歳のミュージカル俳優。

 その容姿!

 その歌声!


 美沙都は一瞬で魂を吸い取られた。

 以後、この1年間、公演があるたびに遠征し、グッズやDVDを買い集め、美沙都の給料のほとんどは推し活のために費やされた。


 そして、推しについての話題で盛り上がる界隈の中で、美沙都は大勢の友人を得た。



 美沙都は学生時代、あまり友達は多い方ではなかった。

 どちらかというと、アニメなんかを独りで観ている方で、彼氏とからしいものもいたことがない。

 アニヲタ界隈のスレッドを見て、時々絡んでいるくらいだった。

 ただそういう界隈にはコアなマニアがいて、ムツカシイ話をして絡んでくるのが結構いたから、美沙都はあんまり深入りできないでいた。

 多少絵が描ける以外これといって特技があるわけでもなく、なんとなく就職して、それなりに仕事をこなし、今に至る。


 そんな無彩色に近い美沙都の人生を変えたのが、KURUMI☆だった。

 デビューしていきなりミュージカルヒロインになってしまった18歳。

 オーディションで監督に「この子だ! この子しかいない!」と言わしめたルックスと声質。

 素直な性格と、人一倍努力を惜しまない姿勢。

 初めての舞台を前に、監督の厳しい要求についてゆくために1人残って稽古を続ける姿。

 そんなメイキング映像も、美沙都の心をわし摑みにした。

 理想の妹を応援しているような気分。


 そしてなにより、この界隈のファンたちは、人の気持ちを傷つけない気配りのできるマナーのいい人たちが多かった。

 そんな、同じ推しを応援する仲間たちとの会話も楽しかった。



 翌日、11時55分になると美沙都は仕事のパソコンをスリープにして、こっそりスマホでチケット購入の準備を始めた。

 12時ジャストに送信を開始するためだ。

 ダウンロードした最新のチケット購入AI を使う。

 集中するリクエストとリクエストの隙間に自分のリクエスト情報を差し込むのは、人の手ではほぼ不可能だ。

 いい席を取るにはAI の力が欠かせない。


 美沙都は前日のうちに最新のチケット購入AI をダウンロードし、ミュージカルの公式サイトのQRコードから入力フォームをダウンロードしておいたのだ。

 名前から支払いクレジットのナンバーまで、必要事項を記入したリクエストを12時ジャストに送信できるよう、AI を設定する。

 ここでの勝負は、運とAI の性能にかかっている。


 2分ほどで、取れた席が表示された。

 最前列から3列目。

 やや右寄りながら、最高の席と言っていい。

 KURUMI☆ちゃんの真っ白な歯並びまで見えそうな距離だ。


「やった!」

と小さく叫んでしまってから、慌ててあたりを見回す。

 誰にも気づかれていないようだった。


 あとは支払いを許可すれば、席は確定する。

 プレミアムシートだから結構高いが、そんなことは問題ではない。

 クレジットがマイナスになるので利息が発生するが、それも問題ではない。

 全ては愛するKURUMI☆ちゃんのため♡

 美沙都は確認ボタンをタップした。


 同僚たちが三々五々、昼食を取るために席を離れ始めている。

 美沙都も社員食堂へ行くべく、席を立った。

 頬がうずうずと崩れてくるのを止められない。

 足が床から数センチ浮いているような感じさえする。


 しかし、美沙都のそんな幸福も、続いたのは次の日の午前中までだった。

 その日、営業の杉原と一緒に新規取引先の事務所に行くため、美沙都は奈多野駅のホームにいた。

 そこで突然、スマホがアラート音をけたたましく鳴らし始めたのだ。


 え? なに?

 は? ミサイル? 何の話?


「おい! ぼさっとするな! 階段下に逃げるぞ!」

 杉原が美沙都の肩を掴んで言った。


 ちょっ、あんた! 何すんの!?

 それ、セクハラ・・・・

 え? 何? なんで、みんな走ってんの?



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