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ある農民  作者: きだおさむ
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第2話

騎士は、戦いに明け暮れていたので、いつでも傭兵を募っていた。

キーガンが行くと、すぐに採用された。


豆と芋の食事が提供され、剣をツケで買い、給料から分割で天引される形だった。


傭兵の中では、殺せないヤツはクズで、数多く殺せるヤツが評価される。


「殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!」

頭の中でずっと声がするような気がした。


生きるため金のためだ… 何も考えるな…


そう自分にいい聞かせて、日々を送った。


雑兵で多いのは、元小作農民。

彼らは地主や農民に恨みを持っていて、復讐できるこの虐殺を、心から楽しんでいた。


まともなヤツは辞めるか死ぬかで、頭のおかしいヤツだけが残るのだ。

迷いなく人を殺せる、自分より後に入ったヤツが出世して、マウントを取ってくる。


「バカ野郎が! 黙って指示どおり動けよ!」


殺人は彼の性に合っていないから、仕事をするたびに心が荒んでいく。

何の理想も情熱もなく集まっただけの連中は、仕事をしたがらず、人にイヤな仕事を押し付けるクズ人間ばかりで、やりがいなど感じられるわけもなかった。

金のために、人の心を捨てた連中なのだ。


それでも、人は何にだってやりがいを感じることはできる。

要は、いかに自分の心をダマすか、なのだ。


雑兵は消耗品扱いで、生き残りたいなら、隊長にならなければいけない。

頭角を現すには、嫌いだからこそ、効率よく人を殺す技を極めていくことだ。

そう彼は考えた。


殺しを楽しんでいる連中には、できないことだ。


彼はその能力を認められ、小隊長になった。


仲間は陰口を叩いた。

「アイツなんて、ぜんぜん殺してないだろ」


密告が横行していて、誰も信用できない。

裏切者が出世するのだ。

一瞬も気が抜けぬまま、人殺しに邁進する。


出世するヤツらは、より頭のおかしい連中だった。

食事の休憩は、いかに自分が残酷な殺し方をしたかの自慢会だった。


「母親犯してたら、ガキが出てきたんで、まとめて殺してやった」


その後の戦闘では、我も我もと、話し相手より残酷な殺し方をしようとする。

こうして人は、どんどん人で無くなっていくのだ。


「人殺しを楽しもうぜ!」

それが彼らの合言葉だった。


この国では、元々少ない農作物を、戦争で焼き奪い合っているのだ。

人が豊かになるわけがなかった。

それでも蓄えのある貴族たちが戦争を起こし、領地の拡大を狙う。

さらに、この狂った世界を、成り立たせているのが教会だった。

教会は貴族から金を受け取り、免罪符を与え、神公認でこの残虐行為を正当化した。


金と欲望が、すべてを狂わせていた。


彼は、眠れなくなった。


人望がない人間が、部下を繋ぎ止めるには、金払いが良くなければならない。

そして金を節約するには、無能な人間を徹底的にこき下ろさなければならない。

その殺伐とした風土が、この集団には染みついていた。


心は荒み、人殺しに慣れていく。


それでも彼は、仲間を見つけた。

オリスという男で、彼も農民出身の小隊長だった。

人殺しを嫌っていたが、金のために仕方なく傭兵になっていた。

通じ合うもの同士の信頼が生まれ、キーガンは彼と助け合って、仕事をこなした。


ある日、オリスは連日の徹夜の行軍で、体調を崩し、劣勢に陥った。

上司の隊長にそのことを伝え、かばって欲しいと依頼した。


するとその隊長は、オリスを囮にして、見殺しにしてしまったのだ。


元々キーガンとオリスの小隊長同士が仲良いことが気に入らず、自分の立場を脅かされるのを恐れたことも、理由の一つだった。


「オレは、こんなクズ集団にいたのか…」


あらためて、彼は思ったのだった。

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