トーイの話
「国王様!王妃様!!姫様!!!!大変です!!!!!」
帰るなり執務室に転がるように駆け込んでいたトーイ。
「どうした、トーイ。そんなに慌てて…。」
驚くお父様。
息も切れ切れのトーイに駆け寄り、背中をさすり、召使にお水を頼むお母様。
お水を飲み、呼吸も落ち着いた途端にこう告げた。
「り、隣国の合併の話には裏がありました!!この国に圧倒的不利な内容の…!あぁ、なんてこと!!信じられない!!!」
話が見えない。
何のこと?
トーイは普段はとても落ち着いていて、優秀な執事である。
その彼がこんな慌てるなんてただごとではない。
混乱した彼のまとまらない話を遮らず聞き、本当におおまかに要約すると
「隣国の国王はこの国を合併したあと、王女であるステラを人質として王子と婚姻を無理矢理結ばせ、この国の人々を奴隷として扱う、その奴隷を統治する役割を元国王、王妃に担わせる。採れた作物のほとんどを国に献上させる。」
と言うことだった。
その話を理解した後、私たち家族、控えていた召使いはただただポカンとするしかできなかった。
話し終え泣くトーイと、お父様が震える手で握るティーカップがカチャカチャと鳴らす音だけがしばらく響いていた。
その空気に耐えられなくなり、私は尋ねる。
「トーイ、そ、その話をどこで…一体…?」
そう聞くと、御使いの用事を済ませて帰る支度をしていたところ、野良猫が現れ大切な巻物を咥えて逃げてしまった。
慌てて猫を追いかけて捕まえると、城の関係者しか入れない中庭に辿り着いていたのだとか。
不法侵入と思われてしまっては困ると巻物を咥えて離さない猫を抱いて急いでその場を離れようとした時、隣国の国王と宰相がさっきの策謀を話している場面に出くわしたのだと言う。
トーイは自分の荷物をひったくって迎えの馬車に飛び込み、この国へ着くなり私たちの城まで全力疾走で飛び込んだ、ということだった。