【短編】友人の転生降霊術とか言うのに付き合ってたら、私が消えた件について。 〜落っこちた先は、ベッドの中でした〜
「は?なにそれ。転生降霊術?」
「そう! めちゃくちゃ面白そうでしょ!? ヒロインと私! 交代させてください〜! って未来様にお願いするの!」
「未来様? 誰?」
「未来の神様に決まってんじゃ〜ん!」
やばーい!凛知らないの〜?と言って、誰もいなくなった教室で桃はケラケラ笑って準備をし始めた。
準備なんて言っても、大袈裟なものではなく、彼女の机に彼女がリスペクトしている『魔法使いとマジカルキス』とか言うゲームが白い布の上にポツンと置かれ、その上になぜか10円玉が置かれている。それだけだ。
こちらに向かってウインクする白いイケメンと、背後に並ぶ青、緑、赤、黄、黒のイケメンがそれぞれ決めポーズをしている。なんだよ戦隊モノなの?
わざわざ私を呼び出して深夜の学校に忍び込んでなにをするかと思ったら。
決まってんじゃ〜ん、じゃないし。
「ほら!私がヒロインと交代しちゃったら、凛がこのゲームのヒロインに『貴女は桃って女の子になったんだよ』って教えてあげてね!そのために呼んだんだから!」
黙って聞いていたら、この子本当になにを言っているんだろう?
「あんた正気なの?」
「だって......明日には私、知らない人と婚約だよ!?成金だからって、お金が必要だからってほんとムカつく......!」
「いや、そうじゃなくて」
そっちじゃない。
私たちは、いわば家が成金。庶民の成り上がりの果てに高校生から金持ち学校に通わされた仲間同士だ。庶民同盟である。
しかしながら、成金なりに資金繰りが大変なのだ。明日、私も彼女も、お金のためにどこの誰だか知らない人と婚約する。
そんなとこまでそっくりな私たちを誰か笑ってくれ。私は別に諦めてるのでどうでもいい。愛とかってわからないし、好きな人も居ないし。愛されることがどういう感じかもわからない。小説やドラマは好きだ。
でもそれは自分ではない。
あくまで誰かの物語。
「だから! お願いするの! 未来様お願い!私を! 魔法使いとマジカルキスの世界に連れて行って!」
はぁ、とため息をつき、教室の壁にもたれかかって目を閉じた。早くこの茶番を終わらせて帰りたい。部屋着で来ちゃったんだよ。スウェット短パン。おまけにすっぴん。髪の毛に手を伸ばせば、ジョリ、とちくちくした感覚が手に伝わる。
せめてもの抵抗で長かった髪の毛を短くして、首筋を刈り上げたのだ。これじゃあまるで男の子みたいだと親には絶望されたが、ささやかな抵抗だ。
チャリンと10円玉が弾ける音がする。
バフン!
「ん!?」
背中に当たるはずの固いコンクリートの壁が急に無くなり、後ろに倒れたかと思ったらふわふわの感触が、背中に当たり、そしてその弾力の良さにポヨンと体が跳ねた。
————んん!?
それなりに親が私にお金を使ってくれたおかげで、質のいい毛布も布団もベッドも知っている。高級ホテルだって泊まったことがある。それのそれよりもふわふわでふかふかなそれに、まず驚いた。見上げる天井は、月の光によってうっすら見えるが、品のいいヨーロッパのようなロココ調の化粧板が見える。天井の高さから、コレはまるでスイートルームのようだ。
肌触りのいいシーツが、足に触れてものすごく気持ちがいい。
が、しかし。
————そうじゃない! ......どこ、ここ!?
「......」
じっとり、そう、視線を感じる。
「......おい」
ついに声まで聞こえてきて、どきりと肩が震えた。悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えて、声の聞こえる方を向くと——
「いい度胸じゃねぇか......俺の寝室になんの用だ? あぁ?」
ふん、とため息混じりの息が私の前髪をさらりと揺らす。
鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離に、緑の瞳が怪しくギラリと光り、妖艶な美しさを放つ少年が、口端を吊り上げ愉快そうに私を見た。
すん、と鼻が動き、少年が身じろいだ。
すぐにぼんやりとしたような表情になり、そして、フニャリとした柔らかな感触が唇に覆い被さった。
「!〜〜......!んんっ......!ちょ、」
「暴れるな」
「んっ」
おおよそ子供の力とは思えないほどの強い力に押さえつけられ、力で押し切られる。
数秒なのか、数分なのか。数秒かもしれない。
ようやくと言う表現が正しいのかはわからないが、少年の力が弱まった瞬間、少年を押し退けて「おい」と声をかける少年も無視してすぐにベッドから飛び降り、脱兎の如く部屋を飛び出した。
ズンと重くなる体。ほんの少しの疲労感が襲ってくる。
————ここは、これは、一体、何!?
部屋を出れば、明るい長い廊下が伸びている。
たくさんの光が廊下を照らしていて、そのホテルのような廊下をどこへ向かうでもなく走った。
真っ直ぐの廊下を駆け抜け、最初の角を抜けた先で、足の力がストンと抜けた。
ぺたんと床にお尻がくっついて、離れそうにもない。
き、キス......、された!?
嘘でしょう!?
「おや?君......」
「わっ、えっ」
突如現れたのは、片眼鏡をかけ白髪と黒髪の混ざった髪を後ろに流した執事のような姿の男性だった。
どこから現れたの......!?
「歩いていたら私が行く先に貴方が居ましたよ。どうされました?初めて見るお顔ですね」
「あっ、いや、その......」
「ふむ。もしや見習いですか?ああ、よかった。我が主は実に自分で溜め込むお方ですので、弟子ができれば、反動も少なくなることでしょう。ふむふむ」
「うわ」
ぐんと近くなった顔が、じっと私の顔を覗き込んだ。一体なにを......。
私がその見習いなんかじゃなく、不法侵入者であることがバレたらどうしようと言う思いと、早くカミングアウトしてここがどこか聞かなければと言う思いがぐるぐると頭を回る。口からは「あ」とか「う」とか言葉になってない声が彷徨い出る。
「うんうん、魔力もたくさんあるようでよろしい!貴方のように幼い人は初めてですよ。おいくつですか?12?14でしょうか?こうやって売られて弟子になる人は時たまおられますが。年端も行かない男の子が来るとは。ああ、さぁ、お部屋に参りましょう」
う、売られて......?
幼い!?
男?
そっと手を引かれ、立ち上がると、ニコニコと機嫌の良さそうな執事が手を引いて歩き始める。
立ってみるとものすごく背が高い。
一歩がかなり広く、小走りについていく。
「ここですよ。食事以外の全てのものは揃っているので心配は入りませんよ。ここは男所帯ですから。それに女性を我が主は好みません。ここに弟子入りする女性は大抵獣のように我が主に襲い掛かりますからね。では、また明日の朝」
そう言って、案内された部屋はホテルの一室のような上等な作りで、小さなシャワーもあれば、洗面台もあった。クローゼットを開くとどれも男の子の服ばかりであった。
ああ...どうなってるの...!?
◇
朝目が覚めると時間は6時。緊張であまり寝られなかった。
よく見ればこの部屋はかなりいいものを使っていて、過ごすのに苦労はしなかった。とてもふかふかで気持ちの良いベッド。大きな窓。
小さなテーブルにクローゼット。なかなか良いものが揃っている。クローゼットから服を引っ張り出し、着替えた。不思議と服はピッタリだ。
コンコンと部屋の扉がノックされ、昨夜の執事が「我が主がお呼びですよ」
ゴクリと喉がなる。
昨晩の言葉が蘇ってくる。
一体どんな人なんだろう。
女性が嫌いな主人様......。
——いや、ちょっと待って!昨日の少年は?彼が私の事を告げ口してたら......!私、不法侵入で捕まる!?打首!?逮捕!?
どどど、どうしよう......!
中世のヨーロッパのような雰囲気に飲まれ、頭にギロチンが浮かび上がる。
咄嗟に廊下の窓に目をやれば見通しのいい中庭が見えた。ゴクリと喉がなる。
「ほら、貴方こちらへ」そう呼ばれて、大きな扉の前に立たされる。
あれ。なんだか見たことがあるような気がするが、この扉の前に辿り着くまでの道中に同じような扉はたくさんあったので、気のせいだろう。
「我が主、入りますよ」
ぎ、と音が鳴り、扉が開いていく。
「よく来た。歓迎する」
そこに居たのは、背が異様に高く、サラリとした黒く長い髪を靡かせ、緑の瞳が怪しく光る少し気怠げな様子の体格のいい美しい男が立っていた。
その表情は嫌に嬉しそうだ。
「おはようございます我が主。はて、そのお姿は......」
「ふん、昨晩良い食事が取れたのでな」
「左様でございますか...?......」
「良い、下がれ」
「ああ、はい」
「そこの。新入りは置いていけ」
「え?は、はい。かしこまりました」
急に視線が私に集まり、びくりと肩を鳴らす。
新入り、って私だ......。
どうしよう。正直に言ってなんとかしてくれるかな。どこかピリリとした空気に、冷や汗が出る。
あれ......緑の瞳......昨夜のいきなりキスをしてきた少年にどこか似ている......?
深々と頭を下げた執事は、コソッと「よかったですね。なにやら気に入られたようですな」と言い残しニコニコと出ていった。バタン、と扉が閉じた音と共に、部屋は静寂を迎える。
じっとりと見られている。
瞳がぶつかると、あまりの迫力につい視線を外してしまう。
「ふぅん......弟子、弟子か......俺はそんなものをとった覚えもなければ買った覚えも無いが、お前、どこから来た?」
「......あ」
「昨夜はもっと色っぽく見えたものだがな。何故そんな服を......」
「え゛っ!ふ、ふくって......さささ、さく、さく、昨晩!?」
「くく、そうか。我が屋敷の執事はお前を味見などしないだろうからな。ドレスを着ていないと気付かんか。こんなに美味そうな匂いだと言うのに......しかし昨晩のあれは良かった。昨夜は魔力を使いすぎて子供の姿から戻れなくなっていたのだ。数日は元に戻れないと覚悟をしていたが......実に良質な魔力だ。弟子、そうだなぁ、弟子を取る気は毛頭なかったが、俺の魔力の補給係になるなら、お前の面倒を見てやろう。なんでも欲しいものを与えてやろうなぁ」
怪しくニヤリと笑う顔が徐々に私に近づいてくる。逃げたい。
どうやら執事さんには男と間違えられたようだが、目の前の人には私が女であることがわかっているようだ。
しかし、すぐに背中が壁にぶつかり逃げ場がなくなってしまう。
あっという間に壁に詰め寄られ、美しい顔がぐんと近づき私を囲い込んだ。
カーテンのように長い髪が私と目の前の男を狭い空間に閉じ込めたようだ。
形のいい唇が怪しげに口角を上げる。
あれ、この顔......。
桃に見せられたゲームのパッケージが頭をよぎる。
「ああ! 貴方、『魔法使いとマジカルキス』の黒!」
「ああ? まじかるきす?魔法使いってのは合ってるが、なんだそれは?」
「あ、いや、こっちの話で......」
——じゃあここは、魔法使いとマジカルキスの世界なの......?じゃあ、他にも白と赤と金と緑とあとなんだっけ。桃色?それはモモか。そんなのもいるってこと......?
考え事をしていると、頬に大きな手が添えられる。
「......気にいらねぇな、白の魔法使いっつったらいけ好かねぇロイドのやろうか......あいつを知ってるのか?あいつみたいなのが良いのか?おい、お前は俺のものだろうが。お前みたいな上質な魔力......」
絶対に離さないからな
耳元で低い声が囁かれ、背中がぞわりとする。
どうやら考え事が口から出てしまっていたようで、それが怒りを買ったらしかった。
体の力が抜け、顔に熱が集まっていく。
感覚が強くなり、首筋と頬を撫でる手の感触に過敏に反応してしまう。
ゾワゾワと駆け上がるくすぐったさに身を捩ると「ふふ、魔力の譲渡はなれてないのか...いいな」と耳元で囁かれる。
「俺が、しっかり可愛がってやるから、逃げようなんて考えるなよ、侵入者」
「ぎゃ」
突如、私の首元に大きな口が噛み付く。痛くは無い。やわやわと歯が首にあたる。べろりと舌が這った。
首が、あつい......!
はふ、と息がもれる。
それすら恥ずかしくて、目元が熱くなり、知らぬ間に涙がじわりと溢れた。
「ふふふ、離さねぇから覚悟しろよ。お前は今日から俺のものだ」
うっとりとした表情でペロリと涙が舐め上げられ、ついに声すら出ないほど顔に熱が集まった。
息すら苦しいほど、身体が沸騰する。
「おい、返事は?」
「は、はひっ」
友人に巻き込まれたかと思ったら、何故か美麗な男子に気に入られて飼われる溺愛生活が始まってしまいました!
どうなる私。
こんな生活、心臓が何個あっても足りなさそうなんですけど!
数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。
長編候補です。
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強引な女性も男性も魅力的ですよね。
グイグイ引っ張ってくれるパートナー素敵です