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ぼくの桜桃を受け取って   作者: 七乃はふと
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桜桃と鈴蘭.9

 初めて人を殺したのは高校の時、友人のみっちゃんや。

 綺麗で形の良い眉が特徴的な子でな。

 毎日違うデザインの眼鏡をかけてくるほどの眼鏡好きやった。

 彼女は同じ電車に乗る同性の先輩に片想いしておったんや。

 同性を愛するなんて、まだまだ理解してもらえないものやろ。

 せやから、勇気を出せずに中々告白できんかったけれど、意を決して告白したんやて。

 告白は無事成功して、その事を話す彼女は太陽みたいやったわぁ。

 けどな、突然みっちゃんは学校を休んだんや。

 一週間も休んで連絡も取れなくて、うちが様子を見に行ったんやけれど、家にもおらん。

 あたりを探したら歩道橋の真ん中で立ち尽くしているみっちゃんを見つけたんや。

 彼女、ずっと手摺りから真下の車道を見続けているんや。

 何してるんや、って聞いたら初めて、うちがそばに来ていた事に気づいたみたいで、死人が蘇ったところを目撃してしまったみたいに驚いたんやで。

 泣き崩れるみっちゃんを彼女の家に連れ帰って、二人っきりになると、重く閉ざしていた口を開いてくれたんや。

 告白を受け入れてくれた喜びも束の間、数日後にホテルに呼び出されて見知らぬ男性に性行為を強要されたんやて。

 しかも、片手にはスマホを持っていたそうや。

 詳細は分からんが、動画で強請ろうとしていたのかもしれん。

 何とか逃げ出したら、先輩を慕う友人達に白い目で見られるようになった。

 自分が嫌がる先輩を誘惑し、あまつさえストーカー行為までしていると言いふらされたんや。

 もう学校に行くことも生きて行くことも嫌になったみっちゃんは、歩道橋から飛び降りようとしていたんや。

 うちは傷心の彼女にこう言ってやった。

 ただ死ぬぐらいなら、その先輩も巻き込んでやろうって。

 死ぬ事を止められると思ってたんやろうな。今のシーくんみたいにポカンとしてたで。

 でも、言葉の意味を理解するうちに、みっちゃんの顔に生気がみなぎって行くのが分かった。

 うちがその場で考えた復讐を伝えたんや。

 翌日、一ヶ月ぶりに制服を着て外に出たみっちゃんは早速実行に移した。

 みっちゃんは列を掻き分け、先頭で電車を待っていた先輩の隣に立つ。

 先輩が話しかけても、みっちゃんは耳栓をしているかのように答えず、ずっと凝視していた。

 二人が向かい合って数十秒後、電車の到着を告げるアナウンスが流れる。

 先に動いたのはみっちゃんの方やった。

 ホームに電車が入ってもきても、先輩の記憶に自分を刻みつけるように視線を合わせたまま立ち尽くす。

 そのタイミングを見計らって、真後ろにいたうちがみっちゃんの背中を押した。

 甲高い金属音と轢き潰れる音がして、バケツでぶちまけたように大量の血液が、あたり一面を真っ赤に染め上げた。

 乗客や駅員があまりの出来事に右往左往する仲、

 一番近くで血と細切れになった人体の一部を被った先輩は、腰が抜けたように座り込んで、失禁しておったわ。

 みっちゃん。先輩の人生は終わったで。

 うちは献花台に復讐の花言葉を持つ三つ葉のシロツメクサを置いてそう伝えたんや。


 命を摘み取る事で、大切な人が自分の心の中にいる。

 心の中の大切な人は、永遠に離れることもないし、自分と対立することもないんや」

「だから、旦那さんも殺したんだね」

 ぼくの一言で、昔話を語り合えたお母さんの表情が固まった。

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