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ぼくの桜桃を受け取って   作者: 七乃はふと
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探偵と作家の秋.1

 秋といえば食欲、行楽、スポーツ、食欲、読書……。

 僕にとって秋は膝枕の秋、いや秋だけじゃ嫌だ一年中じゃないと。

 そんなわけで、今日もお母さんの太ももに頭を預けていた。

 過ごしやすい季節とはいえ、外に出る事は滅多にない。

 この前修理したエアコンのおかげで部屋の方がはるかに快適だからだ。

 お母さんはソファに深く腰掛けてテレビのドラマを見ていた。

 そのドラマの音声をBGMに僕は小説を読み耽る。

 読んでいると、頭の下の太ももが微かに動くのを感じて本から視線をずらす。

「もしかして重い?」

「ちがうちがう。ドラマに集中して肩が凝っちゃったからストレッチしてたんや」

「ああ、そう言う事。ドラマ終わったんだ」

「今終わったところや。また来週が楽しみやな」

 テレビに目をやると午後のニュースが始まっていた。

 僕が疑問を投げかけようとすると、乾燥機が終了を告げる音が聞こえてくる。

「ちょっと洗濯物取ってきていいかしら」

 どうぞと言いながら頭を上げると、取り出した洗濯物を持って戻ってきた。

 再びソファに座ったお母さんの太ももに当然の如く頭を預ける。

 乾いた下着を丁寧に畳む彼女に先ほどの疑問を投げかけた。

「来週の放送まで待つって辛くない? 今は動画配信サイトもあるよ」

「せやね。でもうちは小さい頃からそうだから慣れてしもうたな」

「僕は待つの嫌だから、まとめて見ちゃうな」

 それに好きなものは一刻も早く手に入れたいしね。

 お母さんに心の中が通じるように太ももに頭を擦り付けた。

 思いは届くことはなく、お母さんは「せや!」と言って割烹着のポケットからスマホを取り出した。

「うち最近動画にハマってるのよ。この動画アプリ知ってる?」

 お母さんと一緒に写る男の姿を見て一瞬不快になるが、その気持ちを抑え込む。

 細い人差し指がタップしたのは世界中で愛用されている動画アプリだ。

「今まで見た事なかったんやけれど、ふと興味が湧いて試しに見てみたんや。そしたらもうハマっちゃってハマっちゃって」

 お母さんはお気に入りの動画を説明してくれる。

「この料理動画は短い時間なのにすごく分かりやすくてなぁ。見ながら動画の料理をあの人に作ってあげたりしてるんな」

 お母さんの口から旦那の話題が出て、少し興味が失せた。

「でね。あとはバーチャルアイドルにもハマってるんや。シーくん知ってる」

「知ってるよ。今すごく人気だよね」

 僕が知っている事で火が付いたのか、沢山のバーチャルアイドルの事を話してくれる。

 ほとんど興味がないので曖昧な返事をすることしかできなかった。

 しかし最後にお母さんが挙げた名前は僕も知っているアイドルだった。

「でもこの前恐ろしい動画が注目されてたなぁ。確か投稿者はーー」

「ラバノケンでしょ」

 興味ある話題に、頭の中を貫かれたような鋭い感覚が走る。

「なんや、知ってたんやな」

「当たり前じゃん。多分沢山の人が忘れられないんじゃないかな」

 ラバノケンの活動期間はたった半日で一本の動画のみだが、視聴者に絶大なインパクトを刻みつけたバーチャルアイドルだ。

 彼が投稿した生放送は前代未聞の殺人動画だった。

 しかも被害者は、アイドル並みの人気を誇る現役の警察官だったのだ。

「その生放送見たの」

 お母さんは恐怖から目を背けるように、瞼を閉じて首を左右に振った。

「いくら小説で殺人事件を書いていても、実際に人を殺すところなんて見てられんわ」

 殺人事件の生放送を想像したのか軽く身震いすると、唐突に話題を変えた。

「そろそろ夕飯の時間やね。準備するわね」

「待ってお母さん。今度話す事件決まったよ」

「料理しながら聞いてもええかしら。大丈夫や。何かしながらでもシーくんのお話は頭にメモ出来るから」

 お母さんはソファから立ち上がってキッチンに立つ。

 僕は割烹着を着た背中に一ヶ月前に起きた事件の話を聞かせ始める。

「今から話すのは、ある警察官が犯した殺人事件なんだ。被疑者の名前は八剣(ハチケン)(マコト)。彼が殺したのは自分の上司だったんだ」

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