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ぼくの桜桃を受け取って   作者: 七乃はふと
33/80

牛蒡.11

「あなた。(みなと)。朝ごはんできたわよ」

 向日葵が二階に向けて声をかけると、同時に「今行く」と返事が来た。

 大きな欠伸をしながら綾が先に降りてくる。

「おはよう向日葵」

 綾は朝食を食べ始めるが、もう一人は降りてこない。

「湊はまだ寝てるのかしら?」

 もう一度声をかけようと階段に向かうと、ゆっくりとした足取りで降りてくる音が聞こえてきた。

「ママ〜……おはよう」

 眠い目を擦りながら現れたのは、母親譲りの金色の髪に父親譲りの黒い瞳を持つ可愛らしい少年であった。

「また遅くまでゲームしてたのね」

 湊は父親と同じように欠伸をしながら答える。

「昨日はタッくんとの対戦が白熱しちゃって」

 湊は「えへへ」と後頭部を掻く。

「もし具合悪くなったら、今後一切ゲームは買ってあげませんからね」

「ええ……そんな」

 しゅんと項垂れる湊を見兼ねて、綾が助け舟を出した。

「まあまあ向日葵。反省しているみたいだし、許してやろうよ」

「分かりました……いい、あまり夜更かしはしない事。ほら朝ごはん早く食べちゃいなさい」

 息子の沈みがちだった表情が一気に明るくなる。

「うん。分かった!」

 湊は元気よく向日葵の脇を通り過ぎると、母の作る朝ごはんをあっという間に平らげてしまった。

「いってきまーす」

「忘れ物してるわよ」

 向日葵は走って玄関へ向かう湊を呼び止め、防犯ブザーを手渡した。

「いい。知らない人が近づいてきたらすぐ鳴らすのよ。そして」

 湊が向日葵の言葉を引き継ぐ。

「交番のおまわりさんに助けてもらうんだよね」

 付近にある交番は事前に二人で見て回ってある。

「その通りよ。いってらっしゃい。気をつけてね」

「いってきます。パパいってきます」

「おう。いってらっしゃい」

 湊は両親に手を振りながら、弾丸のように元気よく出て行った。

「じゃあ俺も出かけるとするかな」

 靴を履く綾を見送るために向日葵が後に続く。

「今度、湊の授業参観があるから、その日は休みとってくださいね」

「それは行かないとな。休み取れるかどうか確認しておくよ」

 綾は向日葵にキスしてから出かけていった。

「もう綾ったら」

 私立小学校に通う息子と、高校で教壇に立つ夫を見送ると、出勤の用意を整えて家を出る。

 医療系の専門学校を卒業し、今は産婦人科で看護師をしている。

 自分に起きた過去の出来事は、誰でも遭遇する可能性がある。

 そんな人に寄り添い力になってあげたい。

 向日葵はその思いを胸に抱きながら、看護師としての道を歩んでいた。

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