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ぼくの桜桃を受け取って   作者: 七乃はふと
19/80

探偵と作家の春.3

「桜の下に埋めたのは良かったんだけど、その桜を傷つけたところから病気になって枯れちゃったことで、事件が発覚するきっかけになったんだ」

 流石に長時間休まずに話したので、少し喉が痛くなって咳が出た。

「飲み物持ってくるなぁ」

 お母さんはぼくを起こすと、冷蔵庫に入っていたミルクを持ってきてくれた。

「ありがとう」

 一口飲むたびに喉の渇きが癒されていく。

「どうだった。ぼくの推理、なんかおかしなところない?」

 お母さんは話を聞きながらメモを取っていたようで、スマホを見ながら答える。

「話聞いて、アイデア浮かんできたわ。この話のタイトルは【翁草】やね」

「翁草?」

「そう。裏切りの恋や背徳的な恋って花言葉があるの。犯人の二人にぴったりでしょ」

 お母さんに頭を撫でられて、思わず顔がにやけてくる。

「えへへ。もっと撫でて撫でて」

「ええで」

 慈母の微笑みを浮かべて、ぼくが満足するまで撫でてくれる。

 このまま一生こうだったらいいのに。

 突然お母さんの割烹着が振動した。ポケットに入れていたスマホが震え出したのだ。

 頭を撫でていた手が離れ、お母さんの意識がスマホに注がれる。

 ぼくに向けた事のない笑みが浮かぶ。

「ごめんね。葵くんから電話や」

 お母さんが電話に出る。

「もしもし。えっもう家に向かってるの? もっと早く連絡してなぁ〜。へえ。じゃあ家で待ってるから」

 電話を終えたお母さんがぼくの方を見る。

「ごめんねシーくん。あの人帰ってくるから。うちお暇しないといけないの」

 ぼくは満面の笑みで答えた。

「良かったね。早く歓迎の準備しないと駄目だよね」

「ごめんな〜。また遊びに来るから。あっ鍵はかけておくからなぁ」

「うん。またね」

 お母さんは何度も謝りながら、小走りで家を後にする。

 玄関が閉まって鍵が掛けられるまで、ぼくは笑顔で見送った。

 ソファーにもたれかかって深い不快ため息を吐き、肺の中の不快感を全部吐き出してから立ち上がる。

 片足を引きずりながらに動かしながら玄関まで来くると、ドアスコープを覗き込む。

 お母さんの部屋の扉が見える。まだ何の動きもない。

 きっとお母さんはあいつを出迎えて外に出てくる。何分も何十分も待つ。

 お母さんの部屋の前に男がやってきた。いかにも仕事帰りと言った格好の男だ。

 インターホンを押す直前に扉が開き、中から現れたお母さんが感激の表情をしながら抱きつく。

 男が馴れ馴れしくお母さんの背中に手を回した。

 何を言っているかは分からない。

 きっと「おかえりなさい」とか「夕食の準備できてるわ」と言っているのかもしれない。

 男は参ったなと言いたげに、後頭部を掻きながら、お母さんの言葉を聞いていた。

 ぼくはそんな幸せそうな二人をずっとドアスコープから覗く。

 あの男がいなければ、お母さんを独り占めできるのに。

 ぼくは左拳を固く握りしめ、ドアを叩いた。



――次回へ続く――

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