表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくの桜桃を受け取って   作者: 七乃はふと
17/80

翁草.14

 深夜。早朝から仕事が入っている鈴が寝ている事を確かめてから、剛気はリビングに来ていた。

 帰ってきた鈴に手の怪我を咎められた。

「料理している時に包丁を落としそうになって慌てて刃を掴んじゃったんだ」

 そんな苦しい嘘でも鈴は疑う事はなかった。

 椅子に座ると、スマホを使って殺害方法を考える。

 思いついた殺人方法を検索していく。

 撲殺、溺死、毒殺、圧殺。

 剛気はその中で撲殺を選んだ。

 溺死させる場合、女性の鈴はまだしも男性の皇太に抵抗される可能性がある。

 毒殺をしたくても薬の知識はなく、劇薬を入手するツテもない。

 圧殺するには、何か大掛かりな舞台が必要だ。

 消去法で選んだ撲殺だったが、それと決めると面白いように計画が頭に浮かんでくるので、忘れないようにスマホにメモしていく。

 勿論他人に見られないように、何重にもロックをかけてある。

 次は凶器だ。撲殺するには何がいいか。

 映画とは違い、専用の武器を買うわけにもいかない。

 バット、ゴルフクラブ、ハンマー。

 代用できるものは沢山あるが、購入履歴が残るのは避けなければならない。

 二人を殺害する事は決意したが、捕まる気はなかった。

 自分達を不幸にした人間の命を奪って更に不幸になる気など更々ない。

 石やレンガなどを使う手も考えるが、そんな物を持ち歩いていれば、周りから不審な目で見られる事は間違いない。

 出来れば自然に持ち運べるものがいい。凶器を決めかねていると尿意を催したので、トイレに向かうと、玄関に置いてある物が目に入った。

 閃いた剛気は尿意の事も忘れ、スマホで検索をかける。

 それはある動画だった。

 錆びたスコップをグラインダーで研いでいる動画だ。

 研がれた部分はは新品同様、いや光を反射する刃先は新品以上だった。

 調べてみると、第一次大戦では塹壕戦でスコップが使われていたらしい。

 自分の判断が間違っていない事を悟る。

 直ぐにスコップを研ぐ為のグラインダーを探す。

 家庭用電源で使える物があったのでそれを注文した。

 購入履歴が残るが、グラインダーは直接の凶器ではないので、警察が自分にたどり着く事はない。

 凶器を決めて三日。剛気は窓から夜景を眺めていた。

 八分咲きの枝垂れ桜がライトアップされ、木全体が怪しい魅力を放っていた。

 枝垂れ桜を見ながらため息をつく。

 どこで殺せばいいのかが決まらない。大前提として捕まらない事だ。

 その為に人目につかない場所でなければならない。

 そして皇太と鈴が警戒せずに来れる場所でなければいけない

 人気のないトンネルや深夜の高架下などに誘っても警戒して来るはずがない。

 例えばレストランなどに誘った後で、人気のない場所に連れて行こうとすれば確実に警戒されてしまう。

 自分が皇太達の立場になって考えてみる。

 初めていく場所よりも最低一度は行った所の方が警戒はしない。

 候補は複数あるが、殺害を行える場所となると皆無だった。

 不意にスマホを持っていた手から力が抜けた。

 落とす前に気づいたのでスマホが壊れる事はなかった。

 ここ最近考えてばかりで睡眠時間を削り、不審に思われないようにいつもどおり家事もこなしている。

 疲労の極致にあったのだ。

 休息したいという思いを頭の奥底に鍵をかけてしまってある。

 時間をかければかけるほど、結妃は苦しみ続けることになる。

 早く楽にしてあげたい。その一心で殺人計画を練り続けた。

 だが報われず、疲労が蓄積していくだけ。

 何か思いつかないか、考え続けていると、持っているスマホが震える。

「もしもし」

 結妃からだ。眠気を振り払い直ぐに出る。

「ちょっと様子が気になって電話してみたの。計画が完成したら連絡くれるって言ってあれから四日。息詰まっているんじゃない」

 妻から心配されたことはなかったな。そう思いながら

躊躇う事なく悩みを打ち明ける事にした。

「そう、殺害場所が見つからないのね」

「はい。警戒されず、人目につかない場所の心当たりはありませんか」

 数秒ほど沈黙していた結妃が突然声を上げた。

「何か思いつきましたか」

「ええ。ブルースタードームなんてどうかしら」

 結妃は続ける。

「私達、あそこで披露宴あげたの。覚えてるでしょう」

 披露宴と言った時の口調は苦々しさに溢れていた。

 きっとその頃はこんな事になるなんて思ってもみないほど幸せだったはずだ。

「スタジアムは野球シーズン以外の期間はレンタルできるようになっているの」

「それだ。それですよ」

 勢いよく立ち上がったせいで、椅子が音を立てて倒れた。

「ありがとう結妃。これで計画がうまくいきそうです」

 頭に思いついた計画図を完成させようと、電話を切ろうとすると結妃が引き留められた。

「お願い。計画を実行する時は私も一緒に行かせて。この目で見届けたいの」

 剛気は計画から実行まで全部自分でやる気でいた。断る前に結妃が再度頼み込んでくる。

「お願い。剛気一人だけに罪を背負わせたくないの。私も背負いたい。少しでも貴方の負担を和らげたい」

「分かりました。計画が完成したらまた連絡します」

「ありがとう。連絡待っているわ」

 殺しを手伝う事をありがとうというのは常識的に考えればおかしい。

 それでも、今の剛気には支えてくれる人がいるだけで力が湧き、全てが上手くいくような気がしていた。

「少し休みなさい。貴方の声、電話越しでも凄く疲れているように感じるから」

 結妃はそう言って電話を切った。

 剛気は頭の中の計画をスマホにメモし終えると、寝室のベッドに寝転がる。

 計画が完成間近だからか、それとも結妃に言われたかは分からないがすぐ眠りに落ちた。

 その時見た夢は、鈴とではなく結妃と夫婦になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ