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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

叛逆

作者: てと

頭を空っぽにして、サラッとお読みください



男も女も歳も種族も関係ない。ここは腐った変態どもが集まる場所。そんな場所で私は生き続けてる。だって私は特別狂っているのだから。


私は鷺の民。もう滅んでしまった……私だけを残して。鷺の民はどの種族よりも弱い、だが何よりも美しい容姿と純白の翼を持ち、神の使いとも呼ばれていた。


鷺の民は、何かを殴るだけで骨が折れ、誰かを傷つければ罪悪感から自害する程繊細だ。その上、綺麗な森でしか生きていけない。欲も薄く、生殖率も悪い。緩やかに、そして静かに死にゆく生き物だった。だが、その希少さゆえに人間に常に狙われる運命だった。そんな鷺の民を全ての獣人達は愛し守っていてくれていた。


でも、人間達は手を組み鷺の民の住む森に攻め込み、全ての鷺の民を生捕りにした。鷺の民を犯す者、観賞用に羽をもぎ喜ぶ者、人間達はあらゆる己の欲を鷺の民にぶつけた。だが、私だけは生き残った。


王族である死にゆく父や母、姉や兄を犯した人間を私は殺したのだ。鷺の民である筈の私が、人間を、生き物を殺し嗤っていたのだ。本来なら狂い死ぬ行為を私は泣きながら嗤って行ったのだ、自分の意思で。美しいと呼ばれる純白の羽を凶器に変え、人間の首を刎ねる私を人間達は、死の天使と呼び、誰もが気が触れる場所へと閉じ込めた。


私は産まれた時から特別だった。本来なら一対しか無い翼を六対の羽を持って産まれてきた。父はそんな私に全てを導く存在だと優しく語った。特別な力を持つのだと。私が産まれた理由があるとしたら全てを滅ぼす為に産まれてきたのだろう。


だって、人間を殺しても何も感じない、子供だろうが女だろうが……獣人だろうが。


鷺の民は果実しか食べない。肉を食べたら吐き戻してしまうのだ。だが、私は何だって食べる。カビたパンだろうが、腐った肉だろうが、泥水ですら啜れる……血肉ですら。




ーーーーーーーーーー




「死の天使、出番だ。今日もその美しい見た目で残虐に殺してくれよ?今日はお前の種族を愛する獣人が相手だ」


「……黙れ」


私は羽に巻かれた鎖を力のまま引きちぎり、男の首を羽を鋭くして刎ねる。逃げようと思えば逃げられる。でも、逃げたところで誰も居ない。この世界に家族も仲間達も居ないのだ。森も焼かれ、帰る場所なんてない。だから私はこの狂った檻の中で狂い死ぬ事を選んだ。


「おいおい……何人目だよ。まあ、代わりはいくらでも居る。お前と違ってな」


私は無言でステージへと歩みを進める。


盛り上がる観客達。ステージの上には鷹の翼を持つ子供が怯えて震えて立っていた。……本当に趣味が悪い。


鷹の子は私を見ると驚き、嬉しそうに微笑んだ。鎖で繋がれた足を必死に引きずり私に抱きつく。


「生きていられたんですね!!良かった……鷺の民は滅んでしまったと……ですが鷺の末姫様は何処かで生きてる筈だと、皆んなが貴女を探していたんです。ずっと、ずっと獣人の皆んなが。僕の父さんも、母さんも、僕も」


「……私にはそんな資格は無い。今も私はお前を殺そうとしている」


「……良いですよ。僕を殺して貴女が生きてくれるのなら」


「……なんで、なんで、獣人の皆はいつも同じ事を言うの……?」


また私は罪を重ねようとしているのに。この狂った檻の中で狂った私にそんな価値など無いのに。あの日からずっと、ずっと。家族を仲間達を守れなかった私など要らない。


「獣人達は鷺の民を守れなかった。あんな酷い死に方をさせてしまった。何かあったら末姫様だけでもとの鷺の民達の総意の約束も守れなかった。そのせいで今も全ての森が次々と死んでいく」


ああ、私はこんな子供にもそう思わせていたのか。死ぬべきなのは……私か。最初から分かってだ筈なのに、なんで目を逸らし続けたのだろう。膝をついた私に鷹の子は私の耳元で囁いた。


「大丈夫ですよ、さっき連絡しましたので、もうすぐ竜王様達が助けに来てくれてます」


「……え?」


鷹の子はさっき見た姿とは思えないほど凛としている。ああ、そうだ。鷹の民は子供といえど勇ましい種族だった。最初のは演技だったのだ。


すると大きいな音を立てて建物が壊れる。そこからは何年ぶりかの光が差し込み、光を背負った黒竜が咆哮をあげている。壊れた場所から次々と獣人達が獣化した状態で雪崩込み、観客達を噛み殺し、爪で引き裂き殺していく。


私は涙を流しながら、その光景を見ていた。まるであの日のようだと。私はまた泣きながら嗤っていた。そんな私の目を誰かが塞ぐ。大きく温かな手だ。  


「もう……見なくていい、見なくていいんだ」


殺し、殺され、また殺し、死の輪廻は続く。終わらない輪廻。終わらない地獄。私はどうすれば良い?


『宵の明星、愛しのルキ……。お前の翼は特別なんだ。神に愛されている証拠だよ』


お父様の優しい声が蘇る。要らない、いらない、イラナイ。神に愛されているだと?そんなもの、私はいらない!!


私は私の目を塞ぐ優しい手を振り払い、自分の翼を強く掴み引き千切る。


「あ゛ぁあ゛ああああ!!!!」


神とやらがいるのなら、聞け!!この叫びを!!


私の叫び声を聞き、周りの獣人達は悲鳴をあげる。こんなものじゃない、私の叫びはこんなものでは足りないのだ。


「やめろ、ルキ!!」


私の手を掴む竜王。私は血を吐きながら不敵に嗤う。


「離して……こんなんじゃ足りない、足りないの。……皆んなの痛みはこんなものじゃ足りない」


私は両手で六対の翼を引き千切っていく。獣人達は声を失い、私の叫びをただ聞いていた。そう、誰にも狂った私を止められないのだ。


私は六対の翼を全て引き千切り、投げ捨てる。血だらけの背中、翼を失った私は人間よりも醜く、弱い存在に『堕ちた』


「竜王……ううん、サリエル。この翼の羽を死んでいった森に埋めて……全部元通りになるから……」


「ルキ……すまない……また守れなくて……お前を傷つけて……」


「泣かないでよ、サリエルらしくない……笑って」


私は薄れゆく意識の中、幼馴染であったサリエルに微笑みながら暗闇の中へ堕ちていった。











ありがとうございました!

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[一言] 蒼炎の軌跡を思い出しました。 切なくて好きです。
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