表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品

レース編みのアラネア

作者: 黒イ卵

 雨上(あめあ)がりの(にじ)がかかり、まだ(ちい)さなアラネアはレース()みに大忙(おおいそが)しです。

 しめった空気が流れ、土のむわっとしたにおいとまざり、アラネアのレースも、しっとりしてきました。


「いそげ、いそげ」


 お()さまの(たか)さが落ちてきたので、お(そら)(いろ)が、小妖精(ピクシー)興奮(こうふん)した(はね)の色のよう。そのあとは、巨大甲虫(ギガントカブトムシ)(からだ)の色のようになってしまうのです。


 「レース編みを終わらせないと、今晩(こんばん)寝床(ねどこ)がないわ」


 朝から何も食べていないアラネアは、クラクラする体をふりしぼり、しめったレースを編んでいきます。


 いそいそ、あみあみ……。


 どうにも、ぬれてうまくいきません。

 あせってしまううちに、お空の虹が消え、紋章幻蝶(クレストオブモルフォ)色の空は、蜂蜜酒(ミード)色に変わっていきました。 


 お日さまが、七竈(ナナカマド)()よりも赤く、おおきくゆがみ、いよいよ竜胆(ドラゴンのしんぞう)色の空が広がり、ぴかぴか光るてんてんが、空に見えはじめました。


 「ああ、ちいさなベッドができたわ」


 アラネアはホッとひと(いき)つき、お(なか)()いていたことを(おも)()しました。


 「なにか()(もの)はないかしら?」


 今日(きょう)はお(うち)(ひろ)(つく)れなかったので、獲物(ごはん)がいません。と、がさりと(おと)がしました。


 「こんばんは、アラネアさん。どうか、レースを編んでくれませんか?」


 そこにいたのは、背中(せなか)にたくさんてんてんをもった(むし)でした。 

 いつのまにかお(つき)さまがふんわり上がり、やわらかい(ひかり)が、(ひろ)がっています。


 星明(ほしあ)かりの虫だわ。

 アラネアはお腹が空いていたので、背中のてんてんごと、食べてしまおうか、と思いました。


 「()()けてくださるのなら、お(れい)に、(とき)(めぐ)りの花のミツを()()げます」


 ぷうんと、よいかおりがするミツの入った花を見せられ、たまらず、アラネアは言いました。


 「引き受けるわ! そのかわり、ミツはいますぐちょうだい!」

 「いいですよ」


 アラネアはミツを受け取ると、あっというまに()みほしてしまいました。


 「ああ、おなかいっぱい。ねむくなったわ」


 アラネアは、さっそく作ったベッドでねむろうとしました。


 「アラネアさん、約束(やくそく)です。レースを編んでください。さむい(ふゆ)()(まえ)に、ぼうやたちに、あたたかい(ふく)()させたいのです」


 このところ、ずいぶん(よる)は冷えます。

 こまったわ。アラネアは思います。

 レースを編むわけにはいきません。アラネアの(ぶん)()りなくなって、(ふゆ)()せなくなってしまいます。

 アラネアはうーんうーんとうなると、そのまま、ぐうぐうねむってしまいました。



 (あさ)になりました。



 「おはようございますアラネアさん。さあ、ミツを(あつ)めてきましたよ。どうか、(わたし)のかわいいぼうやたちのために、レースを編んで、くれませんか?」


 昨夜(ゆうべ)の星明かりの虫が、背中の星をテカテカさせて、お願いします。


 「ごめんなさい。あんまりお腹が空いて、ミツをもらったら、(つか)れて(ねむ)ってしまったの。けれど、私も冬()えの準備(じゅんび)があるから、レースをあげられないのよ」


 「そんな! そうしたら、ぼうやたちが冬を越せません。冬の(かぜ)がひと吹きしたら、ぼうやたちはこごえてしまいます」 


 星明かりの虫の背中の星が、日差(ひざ)しの中でもはっきりと、ちかちかとふるえだしました。


 「そうだ、アラネアさん。あなたの冬越えのために、とっておきの()っぱを用意(ようい)しましょう。やわらかくて、つややかな、世界樹(せかいじゅ)の葉です。世界樹蓑虫(ユグドラシルミノムシ)がたくさんで、()(はら)ったお礼に、いただいたんですよ。あなたなら、それで冬を越せませんか?」


 世界樹の葉だなんて! なんてステキなの、アラネアは思いました。わたしなら、冬のドレスにも、コートにもできるわ。

 ミノムシは、体のまわりに葉っぱをまとってるだけですもの。


 「わかったわ! ぼうやたちのために、レースを編みましょう。そうと決まれば、いそがなくっちゃ」


 アラネアはミツをひと息に飲みほすと、さっそく、小さな手袋(てぶくろ)を作りました。


 「ふう。まずはここまでね。今日は、私の部屋(へや)も、作らなくちゃ」


 「アラネアさん、ありがとう! とても(こま)かい網目(あみめ)で、あたたかい手袋です」



 こうして、冬に(そな)えて、星明かりの虫はミツと葉っぱを集め、アラネアはレースで手袋やマフラーを、一生懸命(いっしょうけんめい)編みました。


 秋の終わりがやってきました。


 「アラネアさん、おかげで、ぼうやたちはこごえずに過ごせるよ。ありがとう」

 「こちらこそ、おいしいミツと、あたたかい葉っぱをありがとう。おかげで、冬を越せるわ」


 アラネアと星明かりの虫と、およそ数千匹(すうせんびき)のぼうやたちは、ぽかぽかした気持(きも)ちで、冬を(むか)えるのでした。



(おわり)






レース編みの経験値がたまり、アラネアのレベルが上がりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公はクモかな。(*´∀`*) こどもが数千というところが、オチになっているんだろうか? 全体的に幻想的で、表現とその表現への疑問で楽しく読ませてもらいました。でも、内容はふわりとしか掴み…
[良い点] 「ほっこり童話集」から拝読しました。 とても幻想的な世界観で素敵ですね。 お話そのものがピカピカと光っているように感じます。 途中、おやおや?と思いましたが、最後にはハッピーエンドでほっ…
[良い点] 世界感が素敵ですね。 語彙が芳醇なので、色が目の前にあふれ、ゆったりした気持ちでお話に入って行けました。 共存共栄が上手く生かされていますね。 >アラネアと星明かりの虫と、およそ数千匹す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ