レース編みのアラネア
雨上がりの虹がかかり、まだ小さなアラネアはレース編みに大忙しです。
しめった空気が流れ、土のむわっとしたにおいとまざり、アラネアのレースも、しっとりしてきました。
「いそげ、いそげ」
お日さまの高さが落ちてきたので、お空の色が、小妖精の興奮した翅の色のよう。そのあとは、巨大甲虫の体の色のようになってしまうのです。
「レース編みを終わらせないと、今晩の寝床がないわ」
朝から何も食べていないアラネアは、クラクラする体をふりしぼり、しめったレースを編んでいきます。
いそいそ、あみあみ……。
どうにも、ぬれてうまくいきません。
あせってしまううちに、お空の虹が消え、紋章幻蝶色の空は、蜂蜜酒色に変わっていきました。
お日さまが、七竈の実よりも赤く、おおきくゆがみ、いよいよ竜胆色の空が広がり、ぴかぴか光るてんてんが、空に見えはじめました。
「ああ、ちいさなベッドができたわ」
アラネアはホッとひと息つき、お腹が空いていたことを思い出しました。
「なにか食べ物はないかしら?」
今日はお家を広く作れなかったので、獲物がいません。と、がさりと音がしました。
「こんばんは、アラネアさん。どうか、レースを編んでくれませんか?」
そこにいたのは、背中にたくさんてんてんをもった虫でした。
いつのまにかお月さまがふんわり上がり、やわらかい光が、広がっています。
星明かりの虫だわ。
アラネアはお腹が空いていたので、背中のてんてんごと、食べてしまおうか、と思いました。
「引き受けてくださるのなら、お礼に、時巡りの花のミツを差し上げます」
ぷうんと、よいかおりがするミツの入った花を見せられ、たまらず、アラネアは言いました。
「引き受けるわ! そのかわり、ミツはいますぐちょうだい!」
「いいですよ」
アラネアはミツを受け取ると、あっというまに飲みほしてしまいました。
「ああ、おなかいっぱい。ねむくなったわ」
アラネアは、さっそく作ったベッドでねむろうとしました。
「アラネアさん、約束です。レースを編んでください。さむい冬が来る前に、ぼうやたちに、あたたかい服を着させたいのです」
このところ、ずいぶん夜は冷えます。
こまったわ。アラネアは思います。
レースを編むわけにはいきません。アラネアの分が足りなくなって、冬を越せなくなってしまいます。
アラネアはうーんうーんとうなると、そのまま、ぐうぐうねむってしまいました。
朝になりました。
「おはようございますアラネアさん。さあ、ミツを集めてきましたよ。どうか、私のかわいいぼうやたちのために、レースを編んで、くれませんか?」
昨夜の星明かりの虫が、背中の星をテカテカさせて、お願いします。
「ごめんなさい。あんまりお腹が空いて、ミツをもらったら、疲れて眠ってしまったの。けれど、私も冬越えの準備があるから、レースをあげられないのよ」
「そんな! そうしたら、ぼうやたちが冬を越せません。冬の風がひと吹きしたら、ぼうやたちはこごえてしまいます」
星明かりの虫の背中の星が、日差しの中でもはっきりと、ちかちかとふるえだしました。
「そうだ、アラネアさん。あなたの冬越えのために、とっておきの葉っぱを用意しましょう。やわらかくて、つややかな、世界樹の葉です。世界樹蓑虫がたくさんで、追い払ったお礼に、いただいたんですよ。あなたなら、それで冬を越せませんか?」
世界樹の葉だなんて! なんてステキなの、アラネアは思いました。わたしなら、冬のドレスにも、コートにもできるわ。
ミノムシは、体のまわりに葉っぱをまとってるだけですもの。
「わかったわ! ぼうやたちのために、レースを編みましょう。そうと決まれば、いそがなくっちゃ」
アラネアはミツをひと息に飲みほすと、さっそく、小さな手袋を作りました。
「ふう。まずはここまでね。今日は、私の部屋も、作らなくちゃ」
「アラネアさん、ありがとう! とても細かい網目で、あたたかい手袋です」
こうして、冬に備えて、星明かりの虫はミツと葉っぱを集め、アラネアはレースで手袋やマフラーを、一生懸命編みました。
秋の終わりがやってきました。
「アラネアさん、おかげで、ぼうやたちはこごえずに過ごせるよ。ありがとう」
「こちらこそ、おいしいミツと、あたたかい葉っぱをありがとう。おかげで、冬を越せるわ」
アラネアと星明かりの虫と、およそ数千匹のぼうやたちは、ぽかぽかした気持ちで、冬を迎えるのでした。
(おわり)
レース編みの経験値がたまり、アラネアのレベルが上がりました。