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上京した僕と黒いアイツ  作者: 社畜だけどポジティブなSE
4/5

第四話 長い一日

4匹の亡骸をゴミ袋に入れてきつく縛っても、安息は訪れない。


まだいるんじゃないのか? また寝ているところを襲われたら・・・?


両腕がさっきの感触を思い出して、ゾッとする。


すぐ部屋を飛び出し、”医薬品くん煙剤”と”殺虫剤”を求めてドラッグストアへ走る。

「なんて日だよ・・・」

明日からまた仕事という現実はなるべく考えないように努めて、繁華街を走る。


時間を確認すると23時40分。幸い近くのドラッグストアは0時まで開いている。


店に着いた僕はレジに向かい、胸ぐらをつかむ勢いで商品の場所を聞いた。


ゆるせ、こっちは2時間の死闘でウォーミングアップはおろか、もうクタクタだ。


店員も僕の勢いに驚いていたが、"くん煙剤" の商品名を聞くと察してくれたのか丁寧に教えてくれた。


無事購入し、商品を大事に抱えて、アパートへ帰る。


つい、悪いことばかり考えてしまう。

ゴミ袋をこじ開けた黒いアイツらの仲間が、4つの亡骸を抱え俺の帰りを待っているというトラウマパターンがあるんじゃないか?


いや、大家と隣人が部屋の前に待ち伏せしていてこっぴどく叱られる、VS人間パターンも捨てきれない。

・・・でも後者は事情を話せば、「おまえはよくやった、それは仕方ない」とコーンスープを飲ませてくれるかもしれない。

いや、待てよ。一晩で4匹出るアパートだ。大家の部屋にもアイツらの仲間は居そうだぞ。やっぱり、コーンスープは断るべきだ。



そんなことを考えていているとアパートが見えてきた。

静かに階段を登り、201号室に向かう。


隣人と大家はいない。

第一関門突破だ。


つぎに、玄関を開ける。

アイツらの仲間も・・・いない。


心底、ホッとする。

「そうか、そうかも。たいていのことは ”取り越し苦労” なのかもしれない。」

いろいろ学ぶ日だと割り切ると元気が出てきた。




だが、もう油断はしない。



急いで買ってきた ”くん煙剤” をセットする。


窓を閉めきり、プラスチック容器に適量の水を入れ ”くん煙剤” をそこに置く。

あとは1分待てば煙が出る。



・・・退出だ。やっと終わりが見えた!



完全勝利を目前に財布とスマホを手に取り、

「もう終わりにしよう。俺だって必死なんだ。」

宿敵へ一言残した。それが手ぶらの相手に兵器を使う敬意のような気がした。

少し強くなれた気がする。



玄関前で振り返る。


缶から出始める煙が見えた。

煙は思ったよりも灰色で、すごい勢いで部屋を埋め尽くしていく。

「こりゃぁ・・・逃げ場ないな」

卑怯な気がして心が痛いが、部屋を出なければ。




振り返る前、煙を追うように視線をあげると

”カバーのされていない火災報知器” が見えた。

途端、ピピピピピピピ!とけたたましい音が鳴り出した。




「・・・えっ」

愕然とした。




すぐに部屋に飛び込み、報知器の下にイスを置く。

「おぉぉぉ!」 ピピピピ!!

飛び乗り、手を伸ばすが止め方が分からない!


「どうやって止めんだこれぇぇぇ!!指導係!指導係をよべぇぇ!!」


鼻をホジる上司が煙の向こうに見えた気がして、怒りのボルテージが上がっていく!




6畳もない狭い部屋は、あっという間に煙で満たされてしまった。




もう諦めようか と思ったとき、霞む世界で小さいボタンを見つけた。

「うわあぁぁ!!」 pipipipi!!!

ダメでもともと、強く強く長押しする。




・・・音が鳴り止んだ。




ゆっくりイスから降りる。

振り返って灰色の世界を、煙の中を歩く。





バタンッ





ヨロヨロと公園のベンチに腰を下ろし、呪いの部屋201号室を睨みつけた。




ため息を吐き、スマホを取り出して ”くん煙剤” の製品ホームページから使用方法を確認する。



【使用方法:2~3時間経過後、布などで口・鼻を抑えて入室し30分換気する】



全部終わってベッドで眠れるのは4時くらいか。




「こういうことを指導してくれやぁぁぁ!!!」



スマホを柔らかそうな芝生部分に叩きつけ、ベンチで横になる。

まだ頭に残る警報音を聞きながら目を閉じると、"長い一日" が終わった。

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