003
「ゴブリン?」
「そう、ゴブリン。いかにも〝小鬼〟って感じの」
出自を聞いたら魔族が現れた。この少年は何を言っているのか。
「ゲームとか漫画と違って超いい奴らでさ、あいつらに拾われなかったら死んでたよ? 俺」
「そ、それは緑色の肌を?」
「そうそう。髪は茶色で、大人が今の俺と同じ位。あ、でも力は結構凄かった。猪とか独りで倒してたし」
なるほど。私のこれと彼のそれは同じものなのだろう。だがおかしい、あれは迷子を保護するような生ぬるい種族ではなかった筈だ。
「しかも飯が旨いんだよ。獣肉と木の実と山菜の組み合わせが無限にあるんだ」
何だと。連中がまともな飯を食らうなど――
「香草と香辛料の使い分けも上手くてさ。だから連中、森の料理人って呼ばれてたよ」
――ありえない。
「さすが異世界だよね、俺の知ってたゴブリンなんて、男は殺して女は苗床にとかいう極悪非道を絵に描いて額に入れたような代物だったのに」
いや少年、その認識が正しいのだ。そのゴブリンがおかしいのだ。
「オーガとかトロール、それにミノタウロスの連中もよく食いに来てたよ。あいつらはマジでやばいね、料金代わりの手土産が魔獣の肉だもん。あ、おっちゃん知ってる? 魔獣ってすげえデカいんだよ」
ああデカいよ。それの討伐には銀級以上の冒険者が求められるのだからな。
「で、そこにエイダが来たんだ。もちろん、飯を食いにね」
何だと。あの女傑がひと目で只者じゃあない事は知れたが、魔族の――それも鬼族が――集うような集落に飯を? 尋常ではない。
「そしたらさ、食ってた奴らが全員立ち上がったんだ。そんで『ようこそ姐さん』って全員で斉唱だよ。俺には何がなんだか判らなかったね、その時は」
俺も判らねえよ。ん? その時?
「厨房前の特等席がささっと空けられて、特等酒の樽も開けられて、大宴会が始まったんだ」