002
少年は起床と同時に日課を確認する。しないと生存が脅かされ兼ねない日常を送っているからだ。まずは朝食が最優先だ。自分の分だけではない。彼女の分だけでもない、必ず二人分だ。
「卵は半熟よりちょっと固めで、燻製肉はカリカリで、パンは厚めに、茶はアホみたいに濃くして、ミルクはいらない。俺の分は適当でいいから急いで!」
洗顔歯磨きの前にこれを厨房に伝えて、それで終わる訳ではないのが悩ましい。精一杯の睨みを効かせてつべこべと口を出さないと、言った通りのものが出て来ないのだ。
どうしてか、ここの住民は悪い意味での適当を、朝に限っては善しとする。昼と晩に掛ける情熱が発揮されず、それが彼女の癇に触れてしまう。それが向かう先は当然、この少年になる。
「何で朝飯だけ、こうも雑なんだここは。ふざけてんのか?」
奮戦して、それでも感想はこれだ。ガスストーブがあれば自分でやって文句もつけさせない処だが、あいにくこの世界では薪か魔石だ。薪ならまだ、記憶のどこかを辿れば何れどうにかなるかも知れないが、生憎ギルド併設の食堂で使ってるのは魔石式だ。そもそも魔石って何だよ。どうせなら杖でも振って完璧な朝飯をポンと出してくれよ。
「明日はもっといいのを用意するよ……」
「そう願いたいね」
生焼けの燻製肉を突ついただけで、彼女は狩りの支度を始める。森で何か食べるのだろう。
僅かに胸と腰を覆う魔獣の革鎧と底に鋲を打った半長靴、鋼鉄の手甲を纏い、二本の内に湾曲した鉈剣を腰に帯びると、告げて出て行く。
「夕方には戻るよ。その間にやる事やっときな」
随伴は許されない。死んでしまうからだ。
「さて、やるか」
洗濯もまた魔石式なので、手を使わざるを得ない。教育のために、と部屋の掃除も断っているのでこれも彼が行う。箒とちり取りと雑巾だ。ここまでを朝の内に済ませる。