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荒くれ共の喧騒を眼力と威圧で掻き分けて、受付嬢に訊く。
「今日の買取は幾らになった?」
「銀貨二枚と銅貨八枚です。あの子もだいぶ上達しましたね」
「ふた月も生ゴミを生産されたんだ、少しは出来てないとおかしい」
銀貨二枚は並の男の稼ぎにして四日分に相当する。捌かれた魔物の討伐難度からしてみれば、それでもまだ安い。丸のまま納めていれば解体の手間賃を引かれても、いまの報酬に三割は足されるのが相場だろう。
「あの歳にしては上出来ですよ」
「その歳でも狩って捌いていたぞ。皆、そうだった」
「その常識はかなりおかしいです」
巨漢としか喩えようのない戦士を前にして微笑を崩さない、この受付嬢の肝は並大抵のものではない。まあ、その気性を気に入いったのが、彼女の長逗留の理由ではある。
「それはそうと、加盟の件は検討して頂けましたか?」
「この首に鈴が似合うと思うか?」
大木の幹にも似たそれに親指を奔らせて、問う。
「思いません! なので容赦なく断られたと報告しておきます」
会心の笑みを放ち、受付嬢は親指を立てる。嬉しそうだ。
「いいのか?」
「勿論です。これを強制するような腐った組織であれば、私が直々に鉄槌を下します。ここは確かに冒険者の互助組織ではありますが、それに依らない自由もまた、保証されなければならないのです!」
鉄槌を、の辺りから静まり返っていた場内から、初めは疎らに、そして怒涛に至る歓声が上がる。
「さすが俺らの姐さんだ! やる時は殺る姿がまた見られるぞお前らっ」
「〝鉄槌〟に見込まれるとは……只者じゃあねえと思ってたがあんた、只者じゃあねえな」
「また領主の泣きっ面が見られるぜ!」
盃と肉が飛び交う坩堝と化した酒場を、鷹揚な目で見渡した受付嬢は宣言する。
「皆さん、彼女、この大戦士はギルドへの加盟をその信念に基いて拒否しました! 私はその覚悟と決意を断固として支持するものであります」
そこで一旦、言葉を切る。そして。
「この裁定に異論のある者は、一両日中に申し出なさい。私に」
万歳三唱である。その勢いに乗り遅れた女戦士は、何を誰にどう突っ込んものかと暫し悩んだ挙げ句、考えるのをやめて近くの盃を奪って干した。