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「終わりましたよ。大変でした。あのボンクラ……いえ、アホ……殿下の尻ぬぐいと王妃殿下の愚痴聞きと王城まで押しかけてくるビッチ……あの女の追い返しは」


多大に本音をまき散らしながら背後に立つアシュフォード様はため息をつく。


「あら、せっかくだからボンクラ王子とビッチと言えばいいのよ。事実だし」


「ボンクラ王子の婚約者様がもう少し頑張って下されば私も楽できるのですが」


「だから頑張ってボンクラを熨斗つけてビッチにあげようとしてるじゃなーい」


アシュフォード様の恰好とエレーナ様とのやり取りが庶民のカフェでは目立つので、付いてきた初老の執事に促されて迎えの馬車に乗る。


「ゴチになります~」


アシュフォード様はカフェに入ってきた時に私達の分の会計を済ませていた。

私はそのスマートさに感心し、エレーナ様はVサインを作って満面の笑顔だ。


「はぁ、美味しかった。まだケーキ3つは入りそう。あの店はアタリね。また行きましょうね」


満足げにお腹をさするエレーナ様にアシュフォード様は冷たい目線を送る。手はしっかりと隣の私の腰に回っている。

エレーナ様、あんなに甘いものを食べて太らないなんて羨ましい。摂取した糖分は全部胸にいくのだろうか?


「あ、そうそう。ブランドンの風邪はもう治ったの? 長く休んでいるじゃない?」


「もう1週間ですね。あの駄犬が……あいつのせいで仕事が増える……」


「ブランドンが風邪なんて鬼の霍乱かしらねー。バカは風邪ひかないって言うのに」


そういえば最近、学園でブランドン様を見ていないのは風邪だったからかと納得する。


ブランドン・ミュラー。ミュラー伯爵家の次男で、学園ではアシュフォード様と同じクラスだ。

座学のお勉強はアシュフォード様がいくら教え込んでも右から左に通り抜けていくようだが、彼の剣の腕前は既に騎士団からうちで働かないかとオファーが来るほどだ。

だから駄犬は言い過ぎのような気がする。確かに外見は少し犬っぽいけれど。


「あの駄犬がいないせいであのボンクラやビッチが暴走してブロンシェといる時間が削られる……」


「学園の休憩時間の度に一緒にいるくせによく言うわよ」


ブランドン様はあのお二人を物理的に止める係だ。ボンクラ王子と呼ばれまくっている殿下を丸太のように抱えている時もあるし、さすがにご令嬢に触れるわけにはいかないとビッチことカミラさんに麻袋をかぶせて誘拐まがいに回収している時もある。

ブランドン様がこの1週間お休みなので、カミラさんがエドワード殿下の目を盗んでアシュフォード様や他の令息達に纏わりついて結構大変なようだ。もちろん後から探しに来るエドワード殿下もめんどくさい。

賢い令息達は婚約者がいるし、カミラさんなど相手にしない。たまに遊び上手な家を継がない令息達はカミラさんと上手いこと遊んでいるようだ。どういう遊びかは知らない。


「この前はあのビッチとボンクラのせいでブロンシェとの時間が33分も無駄になった」


「計測してんの?! 何それ。気持ち悪いんだけど」


あの婚約者費用申請書類云々のやり取りでそんなに時間が経っていたのか。


「ちょっと! あなた何、納得してるの! アッシーはいつもこんななの?」


「うーん、そういうわけでは……ひゃっ」


エレーナ様が向かいから身を乗り出してコソコソ話しかけてくるが、アシュフォード様の方にグイッと引き寄せられた。


「ブロンシェ、今日もうちの屋敷に寄って行ってほしい」


「え……でも、昨日もお邪魔しましたし」


「婚約者なんだからうちに来るのに誰もお邪魔なんて思わない」


「いえ、そんな連日約束もなしで訪問するのもどうかと……ほら私、今日はこんな格好ですし」


今日の恰好は庶民に見えそうなワンピースだ。さすがにこの服でハウザー公爵家の敷居は跨げない。


「言いそびれていた。ブロンシェにはこういう恰好も似合うな」


アシュフォード様は私のワンピースの裾の刺繍を指でそっとなぞる。その時に指が足に触れた。思わずびくりとした私の首にアシュフォード様は顔をうずめてくる。


「あのー、私もいるんですけど。忘れてない? イチャつかないで」


「ブロンシェ、忘れていた。彼女を送ってからうちの屋敷に来てほしい。遅くなるのが心配なら泊まっていけばいい」


「いやー! なんなの、アッシー。なにこの甘ったるい空気。やってらんないわよ! それにお泊りとかまだ早いでしょ!」


とうとうアッシー呼びになってしまった。

アシュフォード様が喋る度に息が当たってくすぐったい。おそらく私の顔は真っ赤なのでエレーナ様を見ることができない。


「はぁ、もう。こっちは婚約解消寸前なのにさぁ」


「ふっ。羨ましいでしょう。こんなに私とブロンシェがラブラブで」


「ラブラブとか言うな! 死語よ、それ! 気持ち悪い!」


「婚約者に大事にされないからと私に当たらないでください。私もアレのせいで仕事が増えて癒しが必要なくらいなんですから」


「私だって好きで婚約者になったんじゃないわよ!」


エレーナ様のお屋敷に到着するまでずっとこんなやり取りだった。

結局私はその後、昨日に引き続きハウザー公爵邸にお邪魔、いや連行された。


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