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珍しい組み合わせ

いつもお読みいただきありがとうございます!

今日の組み合わせは大変珍しい。エレーナとアシュフォードである。


エレーナが悩んでいる様子なのに対し、アシュフォードは傍からみても不機嫌なのを隠しもしていない。

なんだ、このお二人は。仕事の話だろうか?と疑問に思いつつもハベル公爵家の使用人たちはおくびにも出さず仕事にいそしむ。


真実は何のことはない。ハベル公爵家に赴くハウザー公爵夫人に同行したアシュフォードがエレーナに捕まっているだけの話だ。


「フロストがね、『僕は君に釣り合わない』って言うのよ。最近そればっかりで」


エレーナが勝手に喋る内容を聞き、アシュフォードは死んだ魚の目になる。だが、ここでしっかり解決しておかないと目の前の女は自分の婚約者に声をかけるのだ。それで婚約者をカフェに連れ込み、延々愚痴る。その時間は平均3~4時間。1回で済めばマシだ。


それだけ婚約者のブロンシェとの時間が失われることを意味するので、アシュフォードは仕方なく、本当に心から仕方なく、エレーナの話を聞いている。


「もう倦怠期か。早いな」


「違うわよ。こう……何ていうかヘタレ具合が嫌なの」


「それを愚痴ってどうなるんだ?」


「あなたとブロンシェだって同じようなものだったでしょう? 家格としてブロンシェは釣り合っていないって気にしてたはずよ。でも、今はそんなことないでしょう? どうやって乗り越えたのかアドバイスが欲しいのよ」


「簡単なことだ。君が全力で庇えばいい。社交の場では婚約者に張り付き、どれほど婚約者が素晴らしいかを語ったらいい。そうすれば婚約者の自信もついてくる。フロスト王子は自信がないんだろう。愛されているという自信が」


思いのほか早くアドバイスが聞けてエレーナはポカンとする。絶対もっとネチネチと嫌味や毒舌を披露されると思っていたからだ。


「なんだその顔は? まさか自分で選んだ男も守れないのか? エドワード殿下の時もかなりグチグチ言っていたが、押し付けられたならまだしも自分が選んだ婚約者でさえも庇えないと?」


前言撤回である。アシュフォードはしっかり人の心を抉ってくる。


「そんなことは言ってないわ。ただ、自信がないだなんて思いもしなかったのよ」


「生い立ちを考えれば当然だろう」


「そうね……」


以前の婚約者のエドワードは自信満々とまではいかないが、自信のなさを見せたことはなかった。だから、余計にフロストの弱々しく頼りない様子にエレーナは動揺したのだ。

アシュフォードやブロンシェから見ればフロストのヘタレ具合は最初からなのだが、恋の力とは恐ろしい。

フィルターがかかって数か月はフロストのヘタレはエレーナにバレなかった様だ。


「惚れた女性に弱みを見せるのは男にとって大変なことだ。プライドもあって普通はカッコつけたいからな。フロスト王子がそのように弱音を吐けるなら関係はまぁまぁ順調なんじゃないか? ここを乗り越えられるかどうかだな」


アシュフォードの言葉にエレーナはぐっと唇を噛み締める。


「これでダメだったらさすがに二度目の婚約解消の後は面倒は見ないぞ」


「……分かっているわ。フロストと話してみるし、茶会や夜会でもなるべく離れないわ」


「話し合いがしづらいなら元々文通をしていたんだ。手紙を書いてみるといい。手紙なら書きながら自分の気持ちも整理できるからな」


「それは……とってもいい考えだわ。ありがとう」


「素直に礼を言われるのも気持ち悪いな。まぁ頑張れ」


***


「むふふふ。うちのアッシュちゃんが恋愛相談にのってるだなんて~」


ハウザー公爵夫人ことアマリリス・ハウザーは自分の息子とエレーナの様子を二階から見せてもらいながら笑いを堪えていた。


「うちのエレーナが悩んでいるようだったけど、ありがたいことにもう大丈夫そうね」


本日はハベル公爵夫人とオルグランデ王国の化粧品を広めていくお話合いをしに来たのだ。共同出資の話も出ている。といっても小難しい商談ではなく、楽しくおしゃべりするお茶会なのだが。


広告塔としてアマリリス・ハウザーほど適任はいない。ハベル公爵夫人もいいのだが、彼女は雰囲気がとっつきにくい。アマリリスの方が気さくな公爵夫人として通っている。アマリリスとしてはエレーナも加わって積極的に宣伝すればより広まるし、フロスト王子のこの国での立場や評判も上がると思っている。


ただ、フロスト王子が商会も運営していくとなると不安が残る。あの王子、人が良いから騙されそうなのよね。ハベル公爵とエレーナと優秀な部下が付いていれば大丈夫だろうけど、四六時中監視って難しいものね。彼はトップというよりも補佐が似合っている気がする。そこはハベル公爵夫人とも意見が一致した。



「やっぱりアッシュちゃんはブロンシェちゃんと婚約したのが良かったのよね~」


「縁というのは不思議な物よね」


話の内容がよく飛ぶアマリリスの会話に、ハベル公爵夫人はしっかりと返事をする。結構いい人である。


ブロンシェと婚約する前までのアシュフォードは、産んだアマリリスが言うのもなんだが神童だった。ただ、人間味がまるでなかった。

暇さえあれば難しい本を読み、小難しい話をしている。アマリリスはそんなアシュフォードを褒めたが、ダーリンは全く褒めなかった。ハウザー公爵家ではこれは当たり前というか、ダーリンもこんな感じだったので当たり前のことらしい。むしろ「出来が悪ければうちの子ではない」という扱いだった。それにダーリンは息子よりもアマリリスが大事だ。だから余計に褒めない。


アシュフォードを褒めているとダーリンの機嫌が悪くなるので、アマリリスも表立ってアシュフォードを褒める回数が減っていった。

相変わらず、ずっと息子は人間味の無い神童だった。アマリリスは何度も「この子、紫や緑の血が流れてるんではないかしら?」と疑った。


その人間味がない赤い血が通っているのか怪しい息子は、ある日突然ブロンシェを連れて「この子と婚約したい」と言ってきたのだ。あの日を思い出してアマリリスはまたニンマリする。


そして今、アマリリスには息子はちゃんと赤い血の通った人間に見える。恋愛相談までされる息子になるとは!


「結婚式がお互い楽しみね」


「えぇ、本当に」


アマリリスはニンマリしながらハベル公爵夫人とそんな会話をするのだった。


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