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いつもお読みいただきありがとうございます!
これにて完結です。
番外編や続編をまた更新していく予定ですが、いったんは完結です。
休み休みではありましたが、「毒舌」に長らくお付き合いいただきありがとうございました!
このまま続編を投稿していく予定なので、気に入って頂けたら評価やブクマ、お気に入り登録などをお願い致します。
授業後の多くの時間を過ごした教室に入り、アシュフォードはぼんやり外を眺める。
昨日までにこの教室はすっかり片付けた。どの引き出しを開けても空だ。
数か月前までは毎日のように眼下に姿があったエドワード王子とカミラの姿は、もうどこにもない。
「アシュフォードが俺に注意してくれたら、俺の評判は落ちて婚約解消しやすくなる。お前、素行がいいからな。大人ウケもいいし」
学園に入ってから、カミラという令嬢に何度も突撃され、「愛人くらいきちんと管理しろ」と文句を言いに王子のところへ行ったら今回の計画を明かされた。
あの人は真面目すぎた。そして優しすぎた。
確かに調べた結果だけ見れば、自分が王妃の子供ではないと疑うのも無理はない結果だった。一方で、決定的な証拠なんてなかった。見た目から明らかに国王の子供であるのだから、王太子になっていて何ら問題はなかったのに。これが王妃の産んだ、父親の分からない子供だったら大問題だったが。
疑惑に目を瞑れなかった時点で、エドワード王子は王族には向いていなかったのかもしれない。
でも、秘密をずっと抱えて生きていくのは辛い。
「アシュフォード様、そろそろホールに向かいましょう。パーティーが始まりますよ」
花摘みに行っていたブロンシェが戻ってきていた。
今日のパーティーのために、母が張り切ってオーダーしたドレスだ。ふんわりしたシルエットは母の好みでしかないが、ブロンシェの雰囲気に良く似合っている。
色はピンクにされそうだったのをシルバーとブルーに変えた。
「もうそんな時間か」
窓から離れてブロンシェと一緒に教室を出る。
最後にもう一度だけ教室を振り返った。
「この教室とも今日でお別れですね」
「あぁ。世話になったものだ」
うまく立ち回ったと思っていた。
でも、この時、所詮は学生だった。
うまいこと辺境の領地に逃げたと思っていたエドワード王子はなぜか王都に舞い戻る運命になる。
アシュフォードもエドワード王子もそんなことは予想だにしていなかった。
***
アシュフォード様は最近よくぼんやりしている。もちろん、ブランドン様のように口が半開きになったり、ヨダレ垂らしたりなんてことはない。
ぼうっと少し遠くを見つめて何かを考えている。エドエド殿下がいなくなってからこういうことが増えた。
アシュフォード様は隠し事をしているのだろう。それくらいは私にでも分かる。
でも、私はエスパーじゃないので頭の中までは分からない。
だから、敢えて聞かない。しつこく聞いても答えてくれないだろうし、アシュフォード様が黙っておくと決断しているのなら私はその決断を信用するまでだ。
「あー、やっぱりここにいたのね!」
教室から出ると、ジゼル様とブランドン様が元気よくこちらに手を振っていた。もちろん、二人ともドレスアップしている。
「げ。あなたのドレス、アシュフォードの独占欲丸出しの色味じゃないのよ」
「お前だって人の事言えないだろう」
「いやぁ、アッシュかっこいいねぇ~」
うん、全員ドレスアップしていてもいつも通りである。ブランドン様がオールバックにしてることが意外なくらいかな。
「エレーナ様は?」
「もうあのヘタレと一緒に会場に入ってたわよ~。酷いわよね、新しい婚約者できたら私たちにはもう用はないみたいよ~」
「いやいや、そんなことはないでしょう」
「浮かれてるのよ」
「そこは否定しません」
「卒業パーティー始まるからホール行こ~」
「ブランドンは卒業できてよかったな」
「ほんとによ~。私のおかげよね」
キャッキャと笑いながら私たちは卒業パーティーが行われるホールに向かう。
今日でもう学生の身分は終わりだ。これからは学園時代のようにはいかないだろう。
でも私達の学園生活って、ブランドン様とジゼル様くっつけて、エレーナ様とフロスト王子くっつけて、アシュフォード様とお仕事してたから学生らしくなかったかもしれない。
隣を歩くアシュフォード様の腕にそっと力を込めると、アシュフォード様はこちらを見て微笑んでくれた。
1年後には私たちは結婚する。ジゼル様たちもそうだろう。エレーナ様のところの方が早いかもしれない。
1年後には私はきっとこう言うのだろう。「私の旦那様の毒舌が過ぎる」と。