58(エドワード視点)
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俺がチンタラチンタラと調べている間に、婚約が決まってしまった。
婚約する気なんてサラサラなかったが、まだ下の王子も生まれていなかったので仕方がない。
相手はハベル公爵家の令嬢だ。エレーナ・ハベル。
彼女は良くも悪くも典型的な貴族令嬢だった。家のために生き、家のために結婚する。
それが普通なのだから仕方がない。
俺が彼女ときちんと交流すれば関係が違っていたのだろうが、「使用人の離職率を調べたい」「どんな理由でやめていっているか知りたい」など建て前を掲げていろいろ調べていたので交流はどうしても上の空だった。
それにエレーナは王妃に気に入られていた。エレーナに喋って万が一王妃に話が漏れては困る。
調べたところによると、王妃は出産後、出血が多く意識を失っていて赤ん坊と対面できたのは1週間をすぎてからだった。王妃は何も知らない、だから嘘の気配がないのだ。皮肉なものだ。
調べている間に税金のおかしな流れに気付く。そっちもまた調べ始めると一人では時間が圧倒的に足りない。
エレーナとの婚約も解消しようと動いていたが、調べている様子が真面目な王子に見えているのと、俺としては完全に上の空のお茶会が周囲から見ればそうでもなかったことからあまりうまくいかなかった。俺の一存で婚約解消するのだから次の婚約者も見繕っておかないといけない。確か文通している他国の王子がいたはずだ。
学園入学前からやることが山積みの状況に俺はかなり疲れていた。
カミラに出会ったのは学園に入学してからだった。
「あんのくそジジイ。こんなところに入れやがって」
繰り返すが俺はさまざまな情報量と現状に疲れていた。裏庭でベンチに座って考え事をしていると幻聴かと疑うほど汚い言葉が聞こえてきたのだ。
「アタシは女優になりたいんだっつーの」
そう言いながらブチブチとパンを千切って集まってきた鳥にやる……というか投げている。
しばらく信じられない思いで見ていると、その女子生徒と目が合った。
「何か?」
俺を見て驚くどころか威嚇するように問うてくる。勝手に見てるんじゃない、くらいの勢いだ。
「女優になりたいのか?」
「そうよ。なのにこんな堅苦しい学園に勝手に入れやがって」
学園入学は強制ではないが、貴族はよほど困窮していない限り学園に入学するのが普通だ。変わった女子生徒だし、見たことが無いから下位貴族だろう。それにしても口が悪いなと眺めていてふと思いついた。
「女優になりたいなら、頭の足りない貴族令嬢の演技もできるのか?」
「?? できるし、やるわよ。頭足りないってどのくらいか言ってくれれば」
「好きでもない男と恋人のフリもできるのか?」
「役で必要ならするわよ~。うっかり好きになるなんてないし。何? あなた入学早々裏庭でボッチとか訳アリ?」
「俺に協力してくれたら、女優になるのに手を貸そう。他国になるかもしれないが」
俺はカミラに取引を持ちかけていた。カミラはなんと快諾した。残念ながら俺が王子だと言ってもしばらく信じてくれなかったが。
そこからはカミラとよく一緒にいた。
それまでは誰も信用できず、ずっと一人でやっていたが、カミラのアドバイスもあってアシュフォードに接触して手伝ってもらった。一人でやっているといかに盲点だらけだったかがよく分かる。
卒業前になってやっとエレーナとの婚約は解消でき、俺は王太子にならないことが決まったのだった。カミラに全ては打ち明けていない。ただ「エレーナとの婚約を穏便に解消したい」と言っただけだ。「あんな綺麗な人と婚約解消したいとか、あなたって変態なの?」そう言いながらも深く追求せず協力してくれた。
アシュフォードにはどうせバレるだろうと思い、全て話してある。
俺のせいで二人には片棒を担がせてしまった。影ながらしっかりフォローはしていくつもりだ。