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「王太子は第二王子であるルーシャンとする」
国王がそう宣言した時、アシュフォードはこっそり安堵の息を吐いた。
第二王子派の貴族たちは「やっとか」と満足気に頷き合い、「やはり第一王子は学園での言動が……」「婚約者を放って複数の女性ととは、さすがに……」と納得顔だ。
「第一王子殿下のお姿が見えませんが、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
発言の許可を求めたうえでハウザー公爵が質問する。
第二王子はこの場にいるのに、第一王子はいないのだ。
「王太子の件を伝えたら暴れたので自室にて謹慎させている」
国王の隣で王妃は珍しく青い顔だ。貴族たちの間からは失笑のような声が漏れる。
「第一王子には西の領地を与え、一代限りの公爵位を授ける」
国が管理している西の領地は貧しい土地で、誰も欲しがらない。贅沢はもうできないだろう。
「第一王子エドワードとハベル公爵家エレーナ嬢との婚約は、ハベル公爵家からの申し出もあり解消となった。エレーナ嬢の新しい婚約については後日発表する」
てっきりハベル公爵家に婿入りするのかと考えていた一部の貴族たちからは驚きの声が上がり、婿入り先としてハベル公爵家を狙っていた貴族たちはもうすでに新しい婚約が決まっているのかと不満そうな顔だ。
でも、終わった。やっと終わった。
なんだかんだと月日は流れており、学園の卒業パーティーまであと4ヶ月というところだった。
***
大半のことが終わって無理をしていたツケがきたのか、アシュフォード様は体調を崩してしまった。
珍しいほど熱が下がらないので、学園は長期間お休みしている。アシュフォード様は学園に行かなくても全くダメージがないものね。
ハウザー公爵邸に滞在していたフロスト王子はハウザー公爵夫人を味方につけ、エレーナ様とは頻繁に会っていた。オルグランデ王国の商品を取引したいハウザー公爵夫人の後押しもあり、空席になったエレーナ様の婚約者の座に滑り込むことになんとか成功していた。
ハベル公爵夫人も化粧品気に入っていたもんね。
エドエド殿下は王太子に任命されないことが決まってから学園には来ていない。一緒にいたカミラさんも同様だ。
メアリさんは「王子からの命令を断れなかった」というアピールを事前にしていたのと、ジゼル様の情報操作により、逞しく学園に通っている。「ちゃんと勉強して卒業しておかないと貴族の下っ端としても価値がなくなっちゃうんで!」とのことだ。たまに「あのお肉美味しかったぁ。また食べたい」とエドエド殿下とのランチを懐かしく思い出している。
「終わってみるとあっけないですね」
「あぁ」
アシュフォード様に水を差し出すと、掠れた声が返ってくる。こんなに弱っているアシュフォード様は珍しい。熱が上がったり、下がったりを繰り返しており、今はやっと熱が下がったところだ。今回ももちろん原因は過労である。
「アシュフォード様の思い通りになりましたか?」
「……そうだな」
アシュフォード様は熱の余韻なのか気怠そうだ。
「手を握ってくれ」
ふぅと息を吐きながらアシュフォード様は手を差し出す。私はその手をそっと掴んだ。
思い通りになったはずなのにアシュフォード様はなんだか寂しそうだ。
ジゼル様も「なんだかエドエド殿下がいないと張り合いがないわねぇ。本格的にネコちゃんを飼わないといけないかも」なんて言っているから、刺激がないと困るという感じだろうか。
アシュフォード様の体調が戻り、エレーナ様の新しい婚約が発表された。
「私はあんなヘタレは認めない」とジゼル様は怒っていたが。
誰も予想していなかった他国の王子ということで驚きを持って迎えられたが、二人がずっと文通していたことも周知され、概ね歓迎ムードだ。ネイルも流行り出していて、お茶会で自慢していたハウザー公爵夫人もご満悦である。
そうこうしていると卒業パーティーまであと3ヵ月を切っていた。