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いつもお読みいただきありがとうございます!

学園ではエドワード殿下に人目があるところで苦言を呈した。最近は猿、じゃなかったメアリとかいう令嬢とよく一緒にいるからだ。もちろんカミラとかいうのと一緒にいる時もある。


父は学園での事態を静観だ。ただ、学園での動向はしっかりと利用する。

王子が婚約者ではない女性を侍らしていることなんてすぐに茶会で話題になっていた。


「あら~、アッシュちゃん。お疲れ~」


そんなことを考えながらブロンシェと母のいるサロンに入ると、薄いピンク色の塊に抱きしめられた。

ゲンナリし始めたところでやっとその塊が離れる。


「今ね、ブロンシェちゃんにお土産の感想を言っていたところなの! このパック、とっても良いのよ~。お肌がツヤツヤするし、私ってほら乾燥肌でしょう? あれを使ったら乾燥しなくって~」


「乾燥肌なんて知らん」と言いたくなるがそんなことを言えばメソメソ泣き出してめんどくさい。間延びした喋り方に、名前に「ちゃん」付け。逆立ちしても公爵夫人には見えない。いつもピンクのドレスを好んで身に着ける。それがアシュフォードの母アマリリス・ハウザーである。


「フロスト王子に頼んでおきます」


「きゃあ! アッシュちゃん、さすが分かる男ねぇ~。ありがとう!」


小さい頃はどこの母親もこんな感じなのかと思っていた。

しかし、お茶会などに参加してみて自分の母親は相当特殊な部類なのだと分かった。


「じゃあ、アッシュちゃんの用事も終わったみたいだしぃ。ダーリンのところに行ってくるわね~」


子供を産んだとは思えないほど幼げな見た目の母は、上機嫌で父の執務室に向かっていく。

花屋ができそうなほど頭の中に年中花が咲き乱れている母と冷静沈着そして冷酷無比な父が恋愛結婚だなんて。これ以上に驚くことなんて世界にはないのではないだろうか。


母が残したフローラルな香りの中を歩いて、ブロンシェの座るソファに腰かけた。


「母の相手は疲れただろう」


「いえいえ。とても楽しかったですよ。お土産の化粧品がお気に召したみたいで」


母のことだから空気を読まずしゃべり倒していたのだろう。頭痛がする。

あの人の精神は3歳~5歳を永遠にループしているのではないだろうか。周囲を思わず笑顔にさせる無邪気さと、空気を読まずとんでもないことを言い放つ残酷さが同居している。父にはそれが堪らなく愛おしいようだ。

「うちには1つくらい弱点がないと余計恨まれそうだからな」などと父は言う。母は弱点というよりも予測不能の爆発物だ。


何も言わずにブロンシェの膝をめがけてさっさと寝っ転がる。最初の頃はビクリとブロンシェの体が跳ねていたが、今はそんなことはない。しょうがないなぁという顔で髪を梳いたり、頭を撫でたりしてくれる。気持ちよくて目を閉じた。


そういえば以前、父も母に膝枕してもらっていたな。今も執務室でしてもらっているのかもしれない。想像は……したくない。


家としては何の旨味もないブロンシェと婚約したいと父に言いに行った時。あの時、父は珍しく笑った。今日の様に含みのある笑い方ではなく。

あの時なんと言われたんだったか。別に覚えている必要もないのに、記憶力がやたら良い自分の頭は瞬時に該当する記憶を探し出した。


そうだ。


「お前も私と似たところがあるのだな」と言われたんだった。そして「本を読んで勉強ばかりかと思っていたが、人間らしいところがあって良かったな」と続いた。

あの時は婚約できることが嬉しくて深く意味は考えなかったが、今なら何となく意味が分かる。


「もうすぐフロスト王子が来る」


「そうですねぇ、早いですよね。早くエレーナ様に会いたいのかもしれません」


「鉄は熱いうちに打てと伝えてあるからな」


「フロスト王子ってブランドン様と気が合うと思いません?」


「ブランドンとも母とも気が合いそうだ。面倒だな」


三人とも系統は違うが、なぜか気が合う予感がする。あの面倒くささが三倍になるのか? いや十倍か?


「こちらに滞在されるんですからアマリリス様と気が合うなら良いですね。ジゼル様はああいったヘタレな方は嫌いそうですから」


あぁ、でもフロスト王子と母の気が合えば王子にとってはこれ以上ないほど強い味方になるな。


「確かに。あいつなら王子を調教しそうだ」


うちの第一王子は調教しないようだが。調教してくれていたらいろいろ楽だったのに。そういえば、あいつはブランドンと出会ってから調教に目覚めたのか? 気に入った男しか調教しないのかと思ったら変な猿も拾っていた。これだから女心はよく分からない。


調教の様子を想像したのかブロンシェがふふっと笑う。その様子を黙って眺めていると「え、鼻毛でも出てますか?」とアワアワして鼻を隠した。


「ブロンシェ、ずっと一緒にいよう」


「えぇ! どうしたんですか、急に」


「あの日も言っただろう」


彼女と出会った日にも「ずっと一緒にいよう」と言った。


「アシュフォード様が私に飽きなかったらずっと一緒ですよ」


「じゃあ心配ないな」


途中から開けていた目をそっと閉じる。

明日からの学園での動向を考える。「寝ちゃうんですか?」というブロンシェの声が聞こえたが、先ほどまでの緊張が解けたこととブロンシェから伝わる温かさですぐ眠りに落ちてしまった。


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