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いつもお読みいただきありがとうございます!
次回は少し雰囲気が変わります。
「あれは大した猿だな。女優か?」
「私の目に狂いはなかったわね」
いや、ジゼル様は脅しただけでは……。
「かめれおん?」
「あら、ブランドン。カメレオンって良い事言うじゃない」
私達の視線の先にはわざと転んでエドエド殿下に助け起こされるメアリさんがいる。私達はわざと転んだと分かっているが、知らなければ本当に躓いて転んだように見える演技だ。
「あの子、嫌がってた割にけっこうノリノリじゃない」
「そりゃあ、嫁ぎ先や借金返済がかかってますから……」
「いや、あれは楽しんでるだろう。案外ギャンブル好きなのかもな」
メアリさんは助け起こされたが、今度は顔をしかめてその場にまた蹲った。足を挫いた設定らしい。このまま、保健室へGOだろうか。それしても顔を顰める演技も大変うまい。本当に挫いたのではと思わせるほどだ。
***
メアリさんがハニートラップ要員のようなことをする前にこんなやり取りがあった。
「なんでアタシが王子に色目使わないといけないんですか!」
メアリさん、いじめの相談に来た時は「私」って言ってたのに……。頑張って猫被ってたのね。
「あら、あなた高位貴族を狙っていたじゃない。トップを狙えるわよ?」
「えぇぇ……いくらお金持ちでもあんな事故物件っぽいのは狙いませんよぅ。あのカミラさんって人もなんかヤバそうだし……」
殿下を事故物件扱いなんだ……それはそれですごい。
「バカだから扱いやすいかもよ」
「バカほど何しでかすか分からないんですよぉ。アタシだってそのくらいは弁えてます! だから背伸びしても狙えるのは侯爵家くらいかなって」
「あら、うちだって侯爵家よ。マナーでも何でもあんな無様な姿をさらしておいて侯爵家くらいなんてよく言えたものね。あなた、歩き方からなってないし、食事のマナーも酷かったわよ。そんなんで綺麗なドレス着たいとか大きなアクセサリーつけたいとか、美味しいフルコース食べたいなんて甘いのよ。頭にチョコレートでも詰まってんの?」
ジゼル様、怖い。普通に怖い。あと、口調がメアリさんに合わせて乱れてらっしゃいますよ。
「うぅぅぅ……それはアタシがあまりにも無知だったっていうか……ドレスがあんなに重いなんて知らなかったし! お料理もマナーばっかり指摘されて全然味しなかったし! 伯爵家くらいにしとけば良かった!」
「『侯爵家くらい』とか『伯爵家くらい』ってこの女はさっきから何様なんだ?」
アシュフォード様、気持ちは分かりますがそこ気にしていたら話が進みません。
「爵位が上にいくほど責任も重たくなるのよ。夫人の責任もね。でも、今回は別に本気で殿下を落とす必要はないわ。殿下があなたを気にするように仕向ければいいのよ。あなたは男爵令嬢で、殿下に逆らえなかっただけってことにできるわ。ところで、あなた。田舎暮らしはできそう?」
「へ? 田舎? アタシは元々田舎出身なので何の問題もないのですが……」
「辺境に丁度いい嫁ぎ先があるわ。優良物件なんだけど王都から遠いからなかなか婚約が決まらなかったのよ。あなたよりも5歳年上でがっしりした男よ。うちの親戚で子爵家だけど、いいと思うわ。その男は大胆で勇敢で根性のある可愛い女性がタイプなのよ。細かいマナーとか口うるさく言う男じゃないわ。姿絵はこれよ」
根性と殿下にハニートラップって関係ないのでは?
それに姿絵見る限り、この人、ジゼル様の好みじゃないですか? 筋肉質だし。
「うまくいけば紹介してあげるわ。あなたの領地の財政を立て直す専門家も派遣できるし。変な老人に嫁がされそうになったらその話は潰してあげる」
メアリさんは姿絵を見ながら唸っていたが、最終的に頷いてしまった。そして現在に至る。
メアリさんはエドエド殿下に抱えられて保健室のある方向へ向かっていった。