閑話
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今回は閑話です。
「で、どうだったの? 旅行は」
話し合いが一段落するとジゼル様は身を乗り出す。目が好奇心で輝いているので話すまで帰してくれないだろう。
「面白かったですよ。あの国は暑いので慣れるまでは大変でしたが、その分アイスクリームも美味しいですし。海も綺麗でした」
「私、暑いのは苦手なのよ。でも観光に力を入れている国だから楽しそうね」
「そうですね。有名なお店もたくさんありました。船上でディナーを楽しみながら花火を鑑賞もしましたよ」
「あらそれはロマンチックだわ。私もブランドンと……」
ジゼル様はそこまで言ってハッと顔を赤らめ口を噤む。
うん、絶対ブランドン様と行きたいって思ったよね。でも言わないってことはデレのモードはここまでかなぁ。
「ブランドン様とデートはされたんですか?」
「えぇ、ピクニックに行ったり」
「ほぅほぅ」
「ショッピングに付き合ってもらったり、遠乗りにも出かけたわね」
けっこう出かけてますね。どこが「私、一人で寂しい」なのでしょうか……。
「仲がよろしくて何よりです」
「でもお父様の方がブランドンと圧倒的に長い時間一緒にいるのよ。やれ教育だ、稽古だって。ズルいわよね」
「教育が落ち着いたらもっと一緒にいられるんじゃないんですか?」
「でも今しかできないことってあるじゃない。あなた達みたいに長期休暇で他国に行くとか。学園の時くらいじゃない、ゆっくりそんな風にできるの。卒業したら仕事関係で他国に行くくらいしかできないわ」
「いや、うーん。ゆっくりは確かにできましたが……観光できたのは夕方までで。夜はヘタレ王子に捕まってましたし。あれがなければ買った本を最後まで読めたんですが」
「夜は優雅に読書なのね~。アシュフォードは真面目な顔して読んでそうだけど、ブランドンは寝ちゃうわね」
むしろ、ブランドン様は腹筋をしているのでは。
「議論しながら読書しますよ。それで気づいたら寝落ちです」
「あぁ、アシュフォードっぽいわ。ん?」
「ん?」
「まさか寝落ちしたら一緒に寝るわけ?」
「え? そもそも同じ部屋なので一緒に寝ますよ?」
「は?」
「え?」
「旅行先でい、一緒のへ……部屋なわけ?」
「?? はい。だってその方が護衛も楽ですし。ベッドは別ですよ」
「あ、当たり前じゃない! ていうか婚約中の男女が、い……一緒の部屋とか! 破廉恥でふしだらよ!」
「そうなんですかね? 公爵夫人にはこれが普通だと言われて婚約した小さい頃から領地に行った際は同じお部屋なのですが」
「はぁぁ? んなわけないわよ! ふしだらよ!」
ジゼル様は顔を真っ赤にして反論してくる。
「大体、公爵邸にはお泊りしないのに領地では同室だなんて!」
「だって、公爵邸だと馬車を目撃されちゃうじゃないですか。いろいろウワサされるのは恥ずかしいですよ。領地は婚約者同士で視察と称して旅行に行くじゃないですか」
「そういう問題じゃないわよ!」
「ガーディアンクラブに筋肉を見にコソコソ行っていた奴に言われたくないな」
アシュフォード様、火に油を注がない方が……。
「あれは神聖なる肉体美を見に行っていたのよ! 芸術鑑賞よ」
「じゃあ堂々と行けばいいだろうが。親にも内緒にせず。コソコソとストラップを持っているから分かる人間にバレるんだ」
「むぅぅ、お父様が反対するのは分かりきったことだもの。それに最近はクラブに行ってないわ」
え、行ってないの? もったいない。あそこ年会費取られるんじゃなかったかな。
「ふぅん。じゃあブランドンという婚約者ができたらもうクラブに行っていないのか。同室で泊まりたいならそう言えばいいじゃないか」
「誰もそうは言っていないわよ!」
「結婚したら同室なんだ。あんまりツンツンしすぎるとブランドンに逃げられるぞ」
ジゼル様とアシュフォード様の言い争いは、ブランドン様が勉強を終えて会いに来るまで続いた。