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「早くやり直していらっしゃい」
ジゼル様に言われたメイド服の少女は悔しそうに唇を噛み締め、一礼してポットを持って下がる。
侯爵家のメイドにしてはあんなに表情を出すなんて……相当な新人なのだろうか?
ジゼル様にお土産を渡していると、さっきのメイドが戻ってきた。表情は相変わらずだが、所作はまぁまぁだ。言ってしまえば、所作はなんとか形になっているのに表情が取り繕えていない。そのチグハグさが目を引くのだ。
気になってじーっとメイドを見ていると、私はあることに気付いた。
「あれ、この方……あの時の」
「あの相談女か。なんでここにいる?」
私の声にアシュフォード様の声が被さる。
そう、長期休暇前にいじめられているとやって来た、あの相談女ことメアリ・ハーパーだ。
「偶然拾ったのよ」
「拾われてません! ほとんど脅しだったじゃないですか!」
「拾ったのか、物好きだな」
アシュフォード様は相談女の言葉をさらっと流す。
「うふふ。だってお出かけしたらみっともないご令嬢が歩いていてね。どこのご令嬢かと思ったら見覚えがあるじゃない」
「え、なんでそれで拾って帰るんですか?」
メアリは後ろで紅茶を注ぎながらキィキィ言っているが、無視してジゼル様と話す。
「こんなにみっともないご令嬢が高位貴族の妻の座を狙おうだなんて。100年早いから教えてあげようと。金持ちの老人のところに嫁がされそうだと言うから、その話は潰してあげたんだけど」
「えぇっと、つまり暇つぶしですか?」
「そうとも言えるわね。だってあなた達、オルグランデ王国でよろしくやっていたんでしょ? ブランドンは教育で忙しくてほとんどお父様と一緒だし、私は一人で寂しいじゃない」
メイドの恰好をさせていろいろマナーやら何やらを叩き込んでいるようだ。
ダフ侯爵夫人もそりゃあ心配するだろう。よく分からないご令嬢を突然拾ってきて調教しているんだから。私はジゼル様が異性(ブランドン様)の調教にしか興味がないのかと思っていたが、女性もいけるらしい。もうホントに家庭教師向きだ。
というか、「私一人で寂しい」てサラッと言ってるけどこれはデレのモードなのか?
「道理で。所作と表情がちぐはぐだと思いました」
「でしょう? まだまだよね。高位貴族の妻になれば簡単に贅沢できると思ってたみたいだから教えてあげているのよ。宝石のついたドレスや豪華なネックレスを付けさせたけど、重くて全然優雅に歩けていないし。本当に見ていられないほど酷かったわ。勉強もイマイチだし、所作も壊滅的。こんなんでよく玉の輿狙おうとしたわよね」
「うぅ……まさかあんなに重いなんて……」
「鏡を見て現実を思い知っていたわね」
メアリはキィキィ言いながらも、ちゃんと紅茶を淹れている。
他人が着ているのを見たら羨ましいばかりだが、宝石や刺繍のあるドレスは重いし、ネックレスなども豪華になるとそれだけで重い。着て立っているだけでも重いのに、そこから優雅に動くことはさらに難しい。そんな中で食事をしたり、会話やダンスをしたりしないといけないのだ。着慣れていないと無理だろう。
憧れのドレスを着て動きながら鏡を見たら、非常にみっともなかったという感じだろうか。
「それに、この子。ちょうどいいと思わない?」
ジゼル様は輝かんばかりの笑顔だ。なんか怖い。