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「はぁぁ、もう一日中ゲームしてたい。『モンスターハ〇ター』とか……なんだっけ、あれ『くたばれ!動物の〇』だっけ?それとも『逃げ出せ?動〇の森』だっけ?」
「なんだ、その物騒な名前のげぇむとやらは」
エレーナ様に明確な返事をもらえなかったフロスト王子は、ブツブツ言いながらポーカーをする。それしても『くたばれ!動物の〇』って何だ。狩り? 気になる。
「そんなに拗ねなくていいだろう。『あなたなんか嫌い。視界に入らないで』と言われた訳じゃないんだ」
「う~ん……でもさぁ……こう、不完全燃焼な感じがヤダ」
洗脳ってなかなか数日じゃ解けませんよね。
「『婚約者がいるから、まだあなたにちゃんと返事ができない』だったか? もうイエスみたいなものじゃないか」
「でもぉ、イエスって言われた訳じゃないし……」
すごいな、この王子。でもぉの言い方が女子っぽくて絶妙に鼻につく。
「お前がうちの国に来てまたプロポーズすればいいだろ。まだ5回くらいしかプロポーズしてないんだ。あと95回くらいしても大丈夫だ」
100回は既定路線なのか……。
「うぅーん、先は長いなぁ」
「うちに泊めてやるから頑張れ。いつでも出国できるだろう」
うぅーんとフロスト王子は手札を投げ出して唸る。相変わらずの負けっぷりだもんね。
「でもさぁ、アッシュって頭良さそうなのになんでこんな回りくどいことしてるの? 俺じゃなくてもさ、エレーナ嬢にはもっとイイ相手いるでしょ? アッシュの国に有益になりそうなやつと無理矢理婚約させることなんてアッシュの家の権力とかアッシュの頭ならできるんじゃない?」
ヘタレの割になかなか鋭い。確かにアシュフォード様ならできそうな気もするが……というかできたら怖すぎなのだが……。それにしても、もっと回りくどくないシンプルな方法はありそうなものなのだ。
私も気になってアシュフォード様に視線を向ける。アシュフォード様はそっと手札を置いた。
「政略で全部うまくいくわけじゃない。政略でうまくいくなら、あのアホ王子は浮気なんてしないはずだし、政略結婚した夫婦がお互い愛人を囲っているなんてことはないはずだ。つまり、何が言いたいかというと男と女の場合、1+1は2じゃないんだ」
アシュフォード様、それは私と同い年の人が言っていいセリフではないと思うのですが……。奥さん亡くした後に浮名を流しまくった偉い男性が死ぬ間際に言いそうなセリフだ。
「男と女の場合、1+1が2になるのか、0になるのか、それともマイナス100やプラス100になるのか。それは分からない。それなら、無理矢理に政略でくっつけるよりも好ましく想っている相手の方がいいだろう」
「へぇー、アッシュっていろいろ考えてるんだな!」
「私とブロンシェも政略は全く関係ないからな」
そこで流れるように私の手を取ってキスする必要はないと思う……。しかし、フロスト王子は目をキラキラさせていた。
「俺、頑張るよ!」
「あぁ、頑張れ」
ここで二人が固く握手を交わすべきシーンなのだろうが、現実はフロスト王子が無理矢理アシュフォード様の手を握りぶんぶん上下に振り回していた。
エレーナ様から遅れること数日。私達は久しぶりの休暇を終えて帰国の途についた。
帰ってから早速ジゼル様にお土産を渡しに行ったのだが……。
「ジゼルちゃん、みんなに会えなくて寂しかったのか変な方向に行っちゃってるのよ。ちょっと会ってあげてくれる?」
ダフ侯爵夫人に言われてしまい、案内されるとそこには―
「おほほ。こんなまっずい紅茶なんて豚でも飲みませんことよ! 入れなおし!」
メイド服の少女相手に高笑いするジゼル様。
どこからどう見ても、いつものジゼル様なのですが。