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「まさか船の上で花火を見ることになるとはな」


「びっくりですよねぇ」


花火が上がるとヘタレ王子から聞いていたその日。

ヘタレ王子はチケットを二枚くれたのだ。それが船の上でディナーや音楽を楽しみながら花火を鑑賞するものである。


「あいつも気が利くな」


「えぇ」


「ごめん~、こんなのがあったの忘れてた!だってほら、俺は『彼女いない歴=年齢』だからさぁ」なんて言いながらいつものお礼だとチケットをくれた王子を思い出す。伝手で手に入れてくれたらしい。

船の上にはいかにもお金持ってます!って感じのカップル・夫婦がドレスアップして集結しているのだ。楽団もいるし。このチケットはきっとお高いはずだ。


「あいつの前世の記憶よりもあのフレンドリーさと人脈の方が怖いな」


「確かに。だからこの国から出そうとしてるんですよね?」


「そうだな。利用価値はかなりある」


「でも王子ですし……エレーナ様がプロポーズOKしても出国できるものなんですかね?」


「貿易関連の交渉で何とかなる。あとあの王子、知り合いの知り合いの彼氏が担当部署の文官らしくてな、すでに出国の手続きは済ませてたぞ。案外私の根回しなんていらないかもしれない」


「えぇ……ヘタレなのにそこだけは早い」


運ばれてくるコース料理を堪能しつつ、夕暮れに染まる海を見つめる。アシュフォード様との会話は全くロマンチックではないが、シチュエーションは完全にロマンチックだ。


デザートにはアイスクリーム。


「アイスクリームって本当に美味しいですよね」


「食べ過ぎない限りは美味いな」


「頭キーンってなりますね」


ディナーが終わると、楽団の演奏が始まる。


スペースの関係で優雅にステップを踏むようなダンスではなく、皆密着して音楽に合わせて揺れるようなダンスをしている。

うーん、ヘタレ王子がこれにエレーナ様を誘ったらよかったのにとも思ってたけど、これは無理ね。あんなに密着して踊れるとは思えないもの。


「私達も踊るか」


「あ、はい」


アシュフォード様が流れるように手を差し出してきたから、考え事をしながらうっかり返事をしてしまった。

座っていた時は照明の関係で暗くて見えなかったが、ダンスの集団の中に入るとみんなイチャついている。踊ると言うより抱き着いているし、うわぁ……キスしている人達もいる。


アシュフォード様の手は私の腰に回り、もう片方の手はしっかり繋いでいる状態だ。周囲のイチャつきぶりが気まずくてアシュフォード様の肩にそっと額を寄せる。


「やっと婚約者らしい時間が過ごせたな」


ちょっと気の抜けたアシュフォード様の声。いつもの気を張った冷たい声と違って甘えた様にも聞こえるこの声が実はけっこう好きだ。


「もしかして気にしてました?」


最近忙しかったもんね。楽しかったですが。


「ジゼル嬢達は私達のお膳立てで婚約したのに、いつの間にか私達より人気が出ていてムカついていた」


「え、そこですか?」


気にしてたのはそこ?


「あぁ、学園の推しカップル投票ではぶっちぎりで1位をキープしたかったのに」


「え、そんなのあるんですか。知りませんでした」


「ある。非公式だが。この前数票差で負けていた。これほど悔しいことはない。父に提案した案が却下された時よりも悔しい」


いや、そこまで悔しがらなくてもいいのでは……。どうして学園のカップル投票と宰相への国家レベルの提案が同等なの。


「私はブロンシェと学生の青春生活を楽しむために行かなくてもいい学園に入っているんだ。学園でしか経験できないことは貴重だ。だから卒業パーティーで婚約破棄なんてあのアホ王子にさせるわけがない。三曲は踊りたいからな。1度しかない私達の卒業パーティーを台無しにはさせない。パーティーまでに穏便にあれを潰したいからと最近は仕事を入れすぎたな」


そうだった。そういえば入学前にそんなこと言っていた。

アシュフォード様の学力なら在籍だけして試験のみ受けに来ればいいレベルだし、さらに言えば余裕で飛び級して卒業もできた。

アシュフォード様はいつも理路整然としていて冷静なのに、たまにびっくりするような理由で行動する。



近くで歓声が上がる。ちょうど花火が上がったところだった。


「わぁ、綺麗ですねぇ」


「あぁ」


花火が途切れたところで顎にそっと手がかかる。誘導されてアシュフォード様を見上げると、キスが降ってきた。


スキンシップに慣れてきたとはいえ、唇が離れた後どんな顔をしていいのか分からない。辺りは暗くなっているが、この距離では頬が赤くなっていたらアシュフォード様にはバレるし……。

唇をとんがらせて悩んでいると、また麗しい顔が近づいてくる。む、アシュフォード様、ちょっと笑ってるし。


「別に1位じゃなくても大丈夫ですよ。ちゃんと幸せですから」


唇が離れた後、早口で伝えるがやはり恥ずかしくてアシュフォード様の肩に顔を埋める。服がシワになっても知らないとばかりに片手で服もつかんでおく。


「そうか。でも忙しすぎるのは良くないな」


「ふふ。今回は旅行に連れてきてもらって嬉しかったです」


異国の雰囲気だろうか。それともこのロマンチックな状況のせいか。いつもは恥ずかしいと思う言葉が口から出てくる。あ、これ以上キスされたら恥ずかしくて身が持たないから喋ってるところもあるかも。


「なら良かった」


腰をさらに抱き寄せられて上を向かされ、またキスが降ってくる。むぅ、今日は密室ではないのにキスの回数が多い。キスはデザートで出たアイスクリームのイチゴの味がした。

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